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少し不思議な幼馴染

 これは夢だなと、私は思った。

 世界は少し色彩が弱くて、目に優しい。


 目の前を、二足歩行の猫がおむすびを食べながら歩いている。


(これは、“あの娘”が出てくるってことかな)


 どんなに不思議なことが起きても、普段なら“そういうもの”と受け入れてしまうのに。


 私はおむすび猫のあとをついて行く。


 見たことのない景色なのに、なぜだかすごく懐かしい。


(そうそう、白い壁の家。この家を過ぎると神社があったね)


 神社の境内には、見たこともない大きなザクロの実がなってる。


 猫は、おむすびを食べ終わったようで、妙にみずみずしいザクロを手にした。


「すっぱい」


 そして、一口食べて投げ捨てた。


 そのまままっすぐ歩くと、ぽっかりと色の抜け落ちた家。


 そう、ここだ。


 見覚えなんかないのに、分かる。


 彼女の家だ。


「ねえ、遊ぼう」


 艷やかな、腰まである黒髪。

 大きな目と、はっきりした二重。人懐っこい笑顔。


「久しぶりじゃない?」

「そう?」


 夢の中の美少女は、私の言葉を受けて、唇にひとさし指を当て首をかしげる。


「たぶん十年ぶりくらい」

「二日くらいじゃない?」


 小首をかしげた少女は、何がおかしかったのかふと笑い出す。


「ふふふ、最近あなた楽しそうだから」

「……うん、楽しい」


 自然と理系くんの顔を思い出す。


「もう時間だから行くわね」


 少女はまた綺麗な笑顔で言う。


「なるべく美味しい飴玉を四つ、持っていって」


 え、四つ? なにそれ。


 それ以上は言葉にならず、私は目覚ましに起こされた。


 夢はやっぱりどんどん淡く、記憶から消えそうになる。


「飴玉、四つね」


 これだけ明確に頭に残ってて。

 なんとなく。

 一番好きないちごミルク味の飴玉を四つ、鞄に入れて家を出た。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「子供の頃から夢に出てくる女の子がいてね」


 大学の講義が終わってバイトへ向かう道。

 私は理系くんに夢の話をする。


「その子が出て来た時だけ、“これは夢だな”って分かるの」

「へー、明晰夢ってやつだね。見たことないなあ」

「行ったことないのに既視感のある景色を過ぎると、その子の家があって」

「面白いね。それで?」

「ちょっと遊んでおしまい。いつもそう」


 特にオチも山場もない話。


 きっと他の人にはできないけれど。


 理系くんは興味深そうに聞いてくれる。


「女の子に見覚えは?」

「うーん、私の理想を集めたような美少女だから、見覚えあるような、無いような」


 ふと、後ろから可愛い声がした。


「兄とお姉ちゃんじゃないですか」


 理系くんの妹さんだ。


 今までバイトに行くまでに会ったこと無いのに不思議なこともあるな。


「いつも時間ズレてるのに今日はどうした?」

「部活がおやすみで」


 理系くんの問いに、妹ちゃんが答える。


 その時だった。

 盛大にぐう、と理系くんのお腹が鳴る。


 不思議なことは続くもので。

 連鎖的に私のお腹も、妹ちゃんのお腹も小さく鳴った。


「あはは」


 気恥ずかしさもあるけれど。


「空腹の三重奏ですね」


 妹ちゃんのひとことも面白すぎて。

 三人でしばらく笑った。


「あ、そういえば飴玉持ってるけど食べる?」


 私はその存在を思い出した。


「食べます!」

「食べたい」


 妹ちゃんと理系くんに、いちごミルク飴を渡す。 


「兄と私が好きなアメです」

「え、そうなの?」

「うん。うちあんまりおやつ出ない家なんだけどね。別にそれで良かったけど、なぜかいつもあるこのアメがごちそうだったね」


 妹ちゃんの言葉を引き継いで、理系くんが説明してくれた。


 私たちは三人でいちごミルク飴を口に放り込む。


「美味しいです」

「美味しいね」

「うん、やっぱり美味しい」


 いちごミルクの美味しさが、空腹にしみ渡る。


 数分後、三人同時にガリガリ噛んじゃって。

 またみんなで笑った。


 その夜。


「あれ、二日連続は珍しくない?」

「そうかな?」


 また例の彼女がいた。


 子供の頃から知ってる。

 きっとこの娘は幼馴染と言っていい。


「あのね、今日はがんばらなくていい日」

「そうなんだ。ありがと」

「うん。ゆっくり寝て」


 私はその日、大幅に寝坊して。


 朝ごはんを食べる余裕がなかったから。

 鞄に入ってた最後のいちごミルク飴を、ガリガリ噛みながら学校へ走った。


 いちごミルクの優しい味に、“今日はこれでいいのよ”と囁かれた気がした。

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