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甘くてほろ苦キャラメルポップコーン

サーカス編ラストです。

「ピエロって実は道化師の一種でさ。こういう客イジりしたりずっと笑ってるタイプの道化師は“クラウン”って呼ばれるんだけど」


開演少し前。

場を盛り上げるために出てきた彼らを見て、「ピエロが出てきた!」と喜ぶ私に、理系くんはそう教えてくれた。


一切目をそらさないまま、理系くんは“クラウン”を見つめている。


クラウンが下がると、サーカスの幕が切って落とされた。


最初はリングマスターと一緒にみんな出てきての歌と口上。


夢の世界の始まりだった。


“クラウン”がジャグリングを失敗して笑わせたり。


「すごい。わざと失敗してるように見えないから、かなり高度な技術だよあれ」


体の柔らかさを見せる演目があったり。


「あれ柔軟性ばっかり注目しがちだけど、自分の体を腕だけで支えてるから、結構筋肉も必要なはずだよ」


組体操のような演目もあった。


「すごい! 成人男性を放り投げて受け止めるなんて、相当な衝撃になるのに上手く衝撃を分散してる」


理系くんらしい解説が続く。


サーカスは楽しいし、ポップコーンも美味しい。


けどね、理系くん。

今日って記念日なんだよ、覚えてる?


あまりに真剣にサーカスに集中してる理系くんに、私はちょっぴりの寂しさを覚える。


でもサーカスはもちろん楽しいし、何よりここまで感情をあらわにする理系くんを見るのは初めてだった。


「見て、文系ちゃん! リボンを足に絡ませて宙に浮いてる! 布の摩擦だけじゃ支えきれないから、かなり難しいバランス感覚要求されてるはず」


サーカスから少し目を逸らして理系くんを見ると、暗いテント内なのに瞳が輝いて見えるくらいのキラキラ笑顔。


私がその笑顔を引き出したかったなぁと、少し寂しく思いつつ、私はポップコーンにまた手を伸ばす。


「おいしいなあ、キャラメルポップコーン」


演目も進んで時間も経っているせいか、ポップコーンも着実に減っている。


ふと、違和感に気付いた。


私は何も意識せずに食べていたけど、理系くんも食べてるんだよねポップコーン。


よく見ると、確かに食べてる。


でも気付いちゃった。


私が無意識にポップコーンに手を伸ばしたら、ぶつからないように手を避けてくれてること。


そういえば今までお互い何度もポップコーンを口に運んだのに、一度も手がぶつかってない。


こんなに目をキラキラさせて楽しんでるのに、ちゃんと私のことを忘れてないんだ。


私は嬉しくなって、しばらく理系くんを眺めてた。


私の彼氏、本当に可愛い。


「……文系ちゃん、どうかした?」


私の視線に気づいた理系くんが、こちらを向く。


そしてステージを見て何かに気づいたように、もう一度私を振り返る。


「文系ちゃん、良ければ……」


そのまま彼は、おずおずと右手を私に差し出した。


「……うん?」


手を繋ぎたいってこと?

もう可愛いなあ。


私は理系くんの手を取り、正面に向き直る。


――そこですべてを理解した。


舞台上では、空中ブランコが準備されていた。


私が理系くんを見つめてたの、ブランコが怖いからだと思ってくれたんだね。

だから手を差し伸べてくれたんだ。


違うんだけど、否定する気は起きなかった。


このちょっとした認識のズレが今は可愛いけれど、いつか衝突を生むこともあるんだろうか。


私は、あんまり深く考えないタイプだし。

ちゃんと考えてる理系くんとズレはきっとあるけれど。


いまは左手の温かさに溺れてもいいか、って。


自然とずっと先のことまで考えて幸せな気持ちになった私は、理系くんの手を握りしめたまま、サーカスを楽しんだ。


―――――――――――――


「あのね文系ちゃん、サーカス楽しめた?」


「うん! すっごく楽しかったよ!!」


本音だ。

理系くんとなら何でも楽しめる気がする。


外はすでに暗くなっていて、星も瞬き初めてた。

風も冷たかったけれど、熱くなった頬にはちょうどいい。


「理系くんはどうだった?」

「楽しかった! あのね……」


何かを言いにくそうにしてる理系くんを私は笑顔で少し待つ。


「文系ちゃん、ちょっとグッズを買いに行ってもいい?」


よほど楽しかったんだね理系くん。


「うん、もちろん!」


グッズ売り場で真剣に商品を見る理系くんを微笑ましく見ながら、私も店内を見回る。


せっかくの記念だし。

私は小さなキーホルダーを1つ買った。


ふと。

理系くんが横に立つ。


「文系ちゃんあのね、これ」


取り出したのは、私が買ったのと同じキーホルダー。


「あれ、理系くんもこれ買ったの? 奇遇だね、なんか嬉しい」


嬉しそうに言う私に対して、理系くんは困ったようにもう一つ同じキーホルダーを取り出した。


「せっかくの記念日だから、同じキーホルダーをつけたくて2つ買ったんだけど、かぶったね」


こんなところで相性の良さ発揮しなくてもいいのにって、しばらく2人で笑った。


理系くんの気持ちが本当に嬉しかったから。


「私が買ったのと、理系くんが買ったの交換しない?」

「でも、同じものだよ?」

「――理系くんが買ってくれたことに意味があるんじゃない」

「そうだね。僕も文系ちゃんが買ってくれたやつが欲しいな」


私たちは互いに微笑んで、同じキーホルダーを交換した。


「良い一ヶ月記念日になったね」

「うん。これからもよろしくね、文系ちゃん」


理系くんのリュックには、二対の同じキーホルダーが、仲良さそうに揺れていた。

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