初詣
はあ――と、私が小さくついたため息が白い。
一月一日からいきなりの寒波で風も冷たい。
そんな中、彼と二人でとぼとぼと歩いていた。
ほんの一週間前のクリスマス。
彼に告白されて付き合い始めて、正月の今日が初めてのデートだったのに。
(なんで私は正月初日から寝坊した……)
私の寝坊のせいで行きたかった神社はすでに大行列で。
入場制限がかかってしまって入れなかった。
寝坊の理由は分かり切ってる。
母特製の年越してんぷらそばを食べながら、カウントダウンのお笑い特番を見て夜更かししてたからだ。
彼に会えるのが楽しみ過ぎて、寝れなかったのもあるんだけど。
はあ――と、また小さくため息が漏れる。
年末は彼が忙しかったからか、あんまり連絡ももらえなくて。
このデートをとても楽しみにしてたのに。
とりえあず近くにある別の小さい神社に歩いているけれど、足取りも重い。
申し訳なさも募って、彼の顔を見れない。
「ねえ、文系ちゃんさ」
初対面のとき、黒髪ロングにメガネで小説を読んでた私のことを、彼はこう呼ぶ。
付き合ってからもまだこの呼び方なのかって、少し寂しく思いながら。
私は彼の方を向いた。
「今日、初詣やめようか」
この言葉に、頭を殴られたような衝撃が走る。
ああ、怒らせてしまったかな。
ニット帽を目深にかぶった彼の、黒縁メガネの奥の表情は読めない。
感情表現の下手な彼だから、付き合ってからも必要最低限以外の連絡は来ない。
だからちょっとの失敗で本当に好きでいてくれるか、自信がなくなってしまう。
私が返答に困って黙っていると、彼はこっちを向かないまま、ゆっくりと口を開く。
「初詣って、元々『元日詣』って言ってさ。本来は元日にするものなんだけど」
そうだよね。やっぱり元日に行かなきゃ意味無いよね。
付き合って初デートでの失敗に、悔しくて情けなくて、涙がにじむ。
「でも、『初詣』って言葉になってから三が日に行けばいいってルールになってきてるんだけど」
うん? なにが言いたいんだろう。
理系の彼の中ではきっと意味が繋がっているんだろうけど、私には理解できないときがある。
いまがまさにそうだった。
「文系ちゃんさ」
彼はここでなぜか少し口ごもって。
「……明日って暇かな?」
「――え」
「今日の神社、せっかくだから明日また行かない?」
「やっぱり今日の神社に行きたかったよね……」
縁結びで有名な神社。
理系男子ってこだわりが強いところあるから、一度決めたところに行きたかったのかな。
と思ったんだけど、彼は首を横に振った。
「いや。正直神社はどこでもいいんだけどさ」
「うん?」
「でも、今日キミが遅れてきたときこう思っちゃったんだ」
「…………」
彼はとても照れくさそうに。
ゆっくりと口を開いた。
「『初詣を明日に延期したら、明日も会える口実になるな』って」
うつむく彼の表情は、ニット帽と黒縁メガネで見えなかったけど。
この正直な言葉が不器用な彼の精一杯の愛情表現だと気づいて。
私は泣き笑いのすごい顔をしてたと思うから。
その顔を見られないように、彼に全力で抱きついた。
短期集中連載の予定でがんばります。
よろしくお願いいたします。