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たぶん君のまうしろに

相思片愛、または合縁企縁

作者: 黒い白クマ

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 そうし そうあい 【相思相愛】

 互いに慕い合い、愛し合っていること。


 あいえん きえん 【合縁奇縁】

 人の交わりには自ずから気心の合う合わないがあるが、それもみな不思議な縁によるものであるという意。


(広辞苑 第六版 より引用)

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【こっち向いてよ、ハニー】


 ―好きっていまいち分からない、と彼女は言う。


 本日、曇天。夏休みだと言うのに何故か制服を身につけて学校へ登校することを求められる、爽やかな朝!素晴らしい一日が始まるに違いない!ってんな訳あるかアホ。帰りてぇ。超絶帰りてぇ。まぁ、自分が入った部活だから仕方ないといえばそれまでだが、出来れば家で宿題を片付けたい。

 もう今日で夏休みも三週間目に入った。なのに、宿題が終わっていない。俺的には許せない現状である。だから帰りたい。マジで。同じ部活の中には答えを写して終わらせやがった最低な奴も、まず手をつけてすらいない救えない奴もいるが、俺は俺。真面目に、速やかに終わらせたい。そんな遊んだ覚えもない。おかしい。いや遊んでたか。今朝アニメ見てたわ。まぁ、明るく考えれば?夏休みはまだ半分残っているワケで?……うん、一ヶ月しかない夏休みってどうよ?海外行きてぇ。宿題のないVacationに憧れる。

 校門を見上げて盛大なため息をついてから、時計を確認する。集合時間十五分前。完璧だな。一歩前に進み出ようと

「はよっす。」

「うわああああっ!」

 足を持ち上げたと同時に、いきなり肩を叩かれて素っ頓狂な声が出た。

「んだよ実咲ぃ……末代まで恨むぞ……」

「ちょ、おま、っふふ、驚きすぎ。」

「笑うなら笑えよ!」

 笑いをこらえる奴のショートカット頭を叩いてやれば、彼女は思いきり吹き出した。笑うなら笑うことにしたらしい。ちくしょう。

「誠也は部活?」

「おう。実咲も?」

「いや、勉強しに来ただけ。漫研は夏休み活動ねぇから。」

「そーかいそーかい。羨ましい限りです。」

 並んで歩きながら、俺もちょろいなと思った。ほらみろ、もう学校に来て良かったと思っている。俺の思考は前言撤回が早くていらっしゃるんだ、ほんとに。

「ちょっと見ていこうかなぁ。」

「いいね、来いよ。ついでにかっこいい俺の部活姿を見て惚れろ。」

 こいつに会ったら一回は惚れろ、と冗談めかして言う。これはもはや、脊髄反射。

「それ自分で言う?」

 けたけた笑ってから、すい、と顔を上げてこちらを見る。一瞬真顔になる時の悪寒にも慣れちまった。口の端だけ釣り上げて、彼女は一語一句違えずに同じ返事を返すのだ。

「惚れさせてよ、早く。」

 俺、神楽誠也十六歳。クラスメイトの佐々木実咲に片思いする事はや数か月。クラスメイトの佐々木実咲と交際を始めてから、はや半年である。


 大体あんなにひどい、というかムードもへったくれもない交際スタートもレアだと思う。まぁ、うん、残念ながら初カノなのでソースはない。ないけど。悔しくなんてない。うるせぇ、モテなくて悪かったな!それにしても、え?え?俺が夢見過ぎなのかな?ああいうもんなの?あんなオープンなの?好きです、付き合ってください、に対する返答で

「別に好きじゃない状態で告白オッケーして平気?」

 っていうのはノーマルなの?そこは好きじゃなくてもオッケーならリップサービス的に好きって事にしといてくんね?あんなに身も蓋もない言い方はなくないか?……承諾した俺も俺か。

 正しく言えば俺だって実咲が好きだったわけじゃない。そろそろ彼女欲しいな、と思って壁の低そうな実咲を狙っただけだ。学生の恋って、八割方そういうもんだろ?まぁ、結果としてオッケーの壁は確かに低かったものの、確実に相手を間違えたと思うわけよ、あの時の俺は。

「友達としてはすごいやりやすいし、全然いいよ。一緒にいて苦痛じゃないし。」

 と二つ返事で頷かれて、なんか俺も惚れているわけじゃないくせに、やたら悔しかった。だから承諾した。ゼッテェ惚れさせてやろうとホイホイ挑発に乗ったわけだ。

 佐々木実咲に対しては所謂文化部女子、ってイメージしかなかった。割と騒ぐけど、クラスの中心には行かない。一人でいても、みんなといても楽しそうに見えた。雑な言い方すればまずモテないタイプ。陰キャっていうと言い過ぎか。話しかけなきゃ一人でいるけど、話せば割と話しやすい。その時はちょうど席も隣でよく話していたし、まぁいけるんじゃねと思った。残念なことにいけなかった。いやいけたのか?いっそ清々しくお祈り通知のほうが平穏な毎日過ごしていた気がする。ほら、今回はご期待に添えない結果となりました。あなた様の今後一層のご活躍をうんぬんかんぬんとか……いや一層のご活躍ってなんだ。ともかく、俺は晴れて実咲と付き合い始めたわけだ。

 最初の告白の時からそうだが、実咲は驚くほど正直だった。あと怒らねぇ。気に入らないことはすぐ指摘してくるし、こちらにもそう求めてくる。愚痴を聞くこともあったから、そういう意味では怒っているところも見たが、感情的に怒鳴ることはない。だからお互い不満が溜まることもなく、何しろ俺の片想いってのが共通認識だから距離感もべたべた近いこともない。最高にやりやすかった。最初のころは仲のいい女友達ができた感じだったが……まぁ、そんなこんなでお察しである。三、四か月くらい経つころには俺は割と本気で実咲が大切になってた。なんか悔しくて、付き合い始めてからずっと振り向かせようと必死になってたら、こっちが先に惚れた。これって木乃伊取りが木乃伊になるってやつ?使い方あってる?

 好きになってからはますます頑張ったし、このころにはやることはやってたし、なんか上手くいってるような気がしていた。……気がしていた時期が俺にもありました。

 何度目の時だったかな。あの時は確か俺んちで、親が仕事でいなかったからとかそんな時だったはず。行儀悪く脱ぎ散らかされた服を拾って、ベッドに転がる実咲に渡しながらなんとなく疑問をぶつけだ。

「実咲はまだ俺のことは恋人としては好きじゃない感じ?」

「そーだなぁ。ぶっちゃけ今まで好きになった人とかいないから、よく分かんないんだよねぇ。」

「分かんない!?高校生になっても初恋なし!?」

「おう。待ってるから、早く惚れさせてよ。私も初恋してみたいでーす。」

 うん、上手くいってなかった。ピロートークがこれって面白すぎるっしょ、セフレかよ。というか好きの感情から分からないって、初恋まだって、攻略難度思ったよりゲロ高くない?

 そんなこんなで、あの日から毎日惚れろ、と呪詛かなんかかってくらい言い続けて、んで律儀に振られ続けている。半年追っかけ続けても関係が深くなるだけで相手の気持ちは全く動いてねぇ。でも追いかけんのやめよっかなとか思ったら振り返ってあの笑顔だ。ゾワリと肌が粟立って、気が付いたらまた追いかけている。頭のどっか冷静なとこが、これ、俺騙されてないか?と時々囁いてくることもあった。ほら、人って追いかける恋のほうが長続きするっていうだろ。だからこうやって俺が追いかける側になるように、好きじゃないって嘘をつかれているのかな、なんてさ。自意識過剰すぎな気もする。でもほんとに仲は良好だと思うんだよ、みんな結構分かれる中で、半年付き合っているわけしさ。喧嘩もないし、嫌だなと思えば言えばいいし。あとはリップサービスでもいいから好きだって言って欲しい。それで完璧。だから俺は今日も呪詛を吐くし、口説く。脈は有り余るほどあるんだ、あと一押し。


 結局一時間くらい部活を見てから実咲は図書館に引っ込んでしまった。まぁ、勉強しに来たんだから当然である。それは別にいい。チラッチラこっちを見て「いいのー?彼女帰っちゃうよぉー?」的な視線を送ってくる同級生のほうが余程問題なのだ。

「うるせぇぞ山崎。」

「え、酷くね?なぁんも言ってないぞ??」

「顔面がうるさい。」

「辛辣。持って生まれたんだから仕方ないじゃない!」

「表情だよ馬鹿野郎。」

 嘘泣きは華麗にスルーすることにしよう。そこそこのイケメンが相まってもはや顔の五月蠅さはヴィース教会かバッキンガム宮殿である。喧しい。嘘泣きなんぞされるとさらに喧しい。

「それにしても誠也ってもっと面食いかと思ってたわ。」

「うるせぇぞ顔面バッキンガム。」

「誉め言葉として受け取るわ。」

 しかもこいつ、スーパーポジティブときた。バッキンガム宮殿に謝れ。……謝るの俺か。

「にしてもなんだよ、実咲が可愛くないってか?目腐ってない?大丈夫?」

「ふぇ、息をするように惚気られたよぉ。」

 確かにまぁすこぶる可愛いとか美人とかはないが十分可愛い。失礼極まりない輩だ。よく見ろ、目ぇパッチリで可愛いだろ。

「それに比べてなぁ。佐々木は誠也のこと好きに見えねぇんだよな。兄ちゃんかなんかだと思われてない?」

「さあ。」

 そっけなく返して練習に意識を戻すが内心は大荒れだ。分かる?分かっちゃう?そうだよ!実際!片思いだからね!外から見てもそっかぁ!そう見えるのかぁ!

 そしてどんなに脳内で泣き叫んでも、部活終わりに実咲と合流すればコロッとハッピーになる。セイヤゴコロは単純なのである。ま、彼女に会えてハッピーになれるなら良い人生だろう。いや、安い人生?はっ、上等上等。こいつに告って平穏との涙の別れを経験したが、かわりに多大なる幸福と手を取り合ってラインダンスしているのだ。ほっといてほしい。

「今日この後暇?」

「暇。」

「家今人いねぇから、ゲームしていかねぇ?」

「お、行く行く。」

 今週は俺んちに誰もいないので、心置きなく遊んで行ってもらおう。宿題やってゲームして、せっかくだから泊まっていってもらうことにした。友達泊めていいよーと言ってくれた両親がいるであろう方向に拝んでおく。ありがたや。

「誠也―。」

「何?」

 さっきからゲーム音だけが響く無音空間だったが、珍しく実咲が沈黙を破った。でもまぁ、お互いゲーム画面から目を離さない。

「恋とは何ぞや。」

「ぶふぉあ!?」

 流石に目を離したし盛大に吹いた。その隙に俺のキャラが殴り飛ばされる。ちょ、不意打ち、卑怯者、鬼の所業!

「え?え?突然の哲学に戸惑いを隠せないんだけど、っておいまた俺を落とすな!話すなら話そう!」

「いやぁね、」

「手を止めろ。」

「惚れる惚れないって言ってるけど、惚れる、の定義ってなんぞと思ってだな。」

 この機に及んでなおコントローラーを離さない。仕方ないので俺も改めてゲーム画面に向き合う。

「ええー……なんかあれじゃね、ふと浮かんだりとか、夢に見たりとか、思い出したらドキドキしたりとか?あとはすぐ会いたくなるとか。」

「ポエマーかよ。」

「引くなよ。」

「え、私に対してそうお思いになっていらっしゃるんですか?」

「なぜ敬語。うん。」

「ロマンチストかよ!」

「引くなよ!」

 だからモテへんのやな……と呟きながら容赦なく攻撃を繰り出す。ゲームともにクリティカルヒットである。モテないことなどとっくに知ってるわ!あんたはそのポエマーと付き合ってますけど!といえば好きではないと返ってくるのは目に見えてる。わざわざ自分の地雷を踏みとうないので言わない。

「いやぁオッケーオッケー分かった。じゃあまだ惚れてないわ。」

「わぁ率直にありがとうございます。」

 ゲームが終わってコントローラーを置いてからも、机のお菓子をつまみながら話題は続く。ちなみに勿論、ゲームには負けた。

「なんつーか、誠也のことを優先したい気持ちはあるよ?でもまずドキドキはしないわ。ないわ。」

「ないわ言うなよ。でもそっかぁ、ドキドキしないのかぁ……なんか兄妹愛みたいな感じ?」

「んー……」

 そろそろ夕食の準備するかと立ち上がって、ふと昼間のバッキンガムの、じゃねぇや友人の言葉を思い出して苦笑する。

「そーいえばさぁ。今日山崎に、お前と俺って恋人というより兄妹じゃね?って言われたわ。」

 厳密には違うがまぁ細かいことは気にしない。正直なんかもう、こいつとこのまま、なぁなぁなまま、ずっと一緒にいるんじゃないか?って気もする。それでもいっか。恋すっ飛ばして愛だもん、すごいじゃないか。

「まぁ、諦めずに頑張ってドキドキ探すわ。いつでもかかってこいよ。」

「なんじゃそりゃ。」

「ほら、惚れさせてよ、早く。」

 ま、そうはいっても。明日からも俺は、惚れさせてやるってこの笑顔をまた追っかけるんだろうけどさ。今すぐとは言わないから。


 ほらこっち向いてよ、実咲。


【振り返らせてよ、ダーリン】


「はよっす。」

「うわああああっ!」

 見慣れた背中を叩けば、愉快な叫び声をあげて誠也が飛び上がる。こういうところ、面白いなって思う。

「んだよ実咲ぃ……末代まで恨むぞ……」

「ちょ、おま、っふふ、驚きすぎ。」

「笑うなら笑えよ!」

 軽くはたかれて、私はひぃひぃ言いながら彼の肩を叩き返した。こういう会話は、とても楽しいと思う。でも、それは他の友人達に感じる気持ちと同じだ。降下しかけた気持ちを振り払うように、今日は部活?と彼に尋ねる。

「おう。実咲も?」

「いや、勉強しに来ただけ。漫研は夏休み活動ねぇから。」

「そーかいそーかい。羨ましい限りです。」

「ちょっと見ていこうかなぁ。」

 時折見る部活中の彼はかっこいいと思う。他の部員たちと同じように。

「いいね、来いよ。ついでにかっこいい俺の部活姿を見て惚れろ。」

 こいつに会ったら一回は惚れろ、と冗談めかして言われる。これはもはや、恒例行事。

「それ自分で言う?」

 けたけた笑ってから、いつも通り彼の顔を覗き込む。彼がこの表情を好きだと知っているから、口の端だけ釣り上げて、私は一語一句違えずに同じ返事を返すのだ。

「惚れさせてよ、早く。」

 私、佐々木実咲十六歳。申し分なく面白くて一緒にいると楽しくてかっこいい、そして恋人としては全く好きではないクラスメイトの彼と交際を始めてから、はや半年である。


 三人か四人が五人目か正直覚えてないけど、ともかくまた彼氏が出来ました。おめでとう私。同級生は確か初。いや小学校の頃あったかな?五年以上も前の事は覚えてないや。それにここ最近はネット通して知り合った人と付き合うってコースだったから、毎日彼氏と顔を合わせるのは久々だね。新鮮。

 ええと、彼氏の名前は誠也。何誠也だっけ。私名字か名前、呼んでないほう忘れるんだよね。特になれそめとかはないよ。というか相手がちょろかった、というべきかな。

 前の彼氏が引っ越して会えなくなるからって別れちゃったから、次の彼氏を探していたのね。隣の人とかどうかな、なんてちょっかいをかけていたら告白されたんだもん。驚き。とりあえず付き合って、あとから好きになれたらいいよね?っていうスタンスで彼氏をネット募集していたので、リアルに告られた時も同じ条件でお願いした。

「別に好きじゃない状態で告白オッケーして平気?」

「……ん?」

「友達としてはすごいやりやすいし、全然いいよ。一緒にいて苦痛じゃないし。ただ、別に君の事好きじゃないけどいいのかなって。」

 あの時の誠也の顔、写真撮っときたかったわ。そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしないでもいいと思うの。笑いそうになっちゃった。

 いや、変わっているかもしれないけどさ。恋人なんて関係は、気が合いさえすれば別に恋心なんてなくても十分楽しめると思うんだよね。話して面白いかどうかが大切でしょ。話しやすければオッケー。体の相性が良ければなおよし。まぁあまりにも下手だったら考えるけど、嫌悪感のない相手ならそっちは誰でもいいって感じ。私の中の認識だと、恋人、という関係に会話とセックス以外要素がないんだよね。となれば考慮すべき点は友人としての楽しさと体の相性以外今の所発見されてないし、そこに恋だの愛だのが登場する実感がない。なくたって困らない。そうじゃない?

 あぁそういえば、何度目の時だったかな。あの時は確か誠也んちで、親が仕事でいなかったからとかそんな時だったはず。二人して行儀悪く脱ぎ散らかした服を誠也が拾って、動く気にならなかった私に渡しながら、まだ好きじゃないの、と聞いてきたことがあった。よくある流れだ。一般的に、そう何度も好きじゃない人間とヤるもんじゃないらしくて、数回続くとまだ駄目なの、と尋ねられる。リップサービスをすればつらいのは後々だと分かっているから、そういう時は正直に答えてきた。

「ぶっちゃけ今まで好きになった人とかいないから、よく分かんないんだよねぇ。」

「分かんない!?高校生になっても初恋なし!?」

「おう。待ってるから、早く惚れさせてよ。私も初恋してみたいでーす。」

 じゃあセフレかよ、とその時の彼が苦笑いを浮かべたのに、別にセフレでもいいけどそれだと君が嫌だろ、と返せばめちゃくちゃに笑われた。肩書って難しいな、と泣くほど笑っていた彼に驚いたけど、後から考えれば泣いたのをごまかしただけかもしれないな。悪いなぁとは思うけれど、それが嫌なら振ってくれ、としか言えないんだよね。

 そんなんじゃ、すぐ振られるだろって?あぁいや、むしろ距離が近すぎないからか、結構一人の彼氏で長続きするほうだよ。たまに「俺の事なんて見てないだろ」と振られることもあるけど。だから最初から好きじゃないって言ってるっつーの。まぁ長続きしても、相手や自分の進学だったり引っ越しだったりで二、三年くらいで別れちゃうけどね。今回は何年続くかな。

 一応、相手の好みとかも調べて上手いこと振る舞いはするようにしている。やっぱり早々いい人は見つかんないだろうから、せっかく付き合えたなら長続きさせたいからね。それにしても、結構みんな運命って信じるんだね。好きなものが一緒だった、とか同じ趣味だとか。自分の好みに合った所見つけるとすぐ運命だって喜ぶんだ。こっちが合わせているんだけど。まぁ、相手が楽しそうだからいちいち訂正を入れるのも野暮だよね。

 そうやって合わせに行けば相手は好きになってくれるのに、今のところ私が相手を好きになれたことはない。早く別の好きな人を作りたいんだけど、上手くいかない。

 私の好きな人?お兄ちゃんだよ。一個年上の。まぁ、実らないからね。法律的に。だから早く次の好きな人を作りたいんだけど、なかなかね。

 好み、表情、振る舞い。今までの人以上に誠也の好みに合わせるのは苦じゃなかったし、それに不満はすぐ言ってって言ったら、彼は珍しいことに本当に言ってくれるタイプの人間だった。不満を溜め込まれて、爆発してケンカすると面倒なんだよ。でも、大抵はよく分からない遠慮をされるから、言って、と言ったことを本当に言ってくれる人はありがたかった。今までの人より、やりやすい。でも、ねぇ。こんなに良い奴なのに、いけるかなぁと思ったけど、好きにはなれない。


 と、思っていたんだけど。

「今日この後暇?」

「暇。」

「家今人いねぇから、ゲームしていかねぇ?」

「お、行く行く。」

 部活終わりの誠也と合流して、彼の家にお邪魔する。一緒にゲームしたりしながら、ふと誠也と暮らすの楽しそうだなって、なんとなく思った。そんで、希望が見えてテンション上がった。これはそういうのなんじゃない?一緒に暮らせる、未来が想像できるっていうのは、世間一般の恋人っぽい感情なんじゃないかな。でも待って、私誠也とお兄ちゃんが並んでピンチだったらどっち助けるかな。よく言う、崖から落ちそうに……ってやつ?あれ、それは別に恋の話ではないんだっけ。

 恋、恋ねぇ。そもそも恋って何って話なんだよなぁ。ううむ、難しい問題。一人で悩むよりも、と思って隣の誠也に振ってみた。

「恋とは何ぞや。」

「ぶふぉあ!?」

 吹くか、そこで。もー、真面目に悩んでるのにな、と取り合えずパンチを一発。

「いやぁね、惚れる惚れないって言ってるけど、惚れる、の定義ってなんぞと思ってだな。」

 落とすな!手を止めろ!と叫びながらも誠也もやっぱりゲームに戻る。まぁ、これくらい気楽な話題にしたほうがいいかな。隣で一応真剣に悩んでくれる気になったのか、うんうんと唸りながら誠也が言葉を探す。

「ええー……なんかあれじゃね、ふと浮かんだりとか、夢に見たりとか、思い出したらドキドキしたりとか?あとはすぐ会いたくなるとか。」

 悩みながら発された言葉達に、思わず一瞬動きを止めた。おっと、私チョー重症。誠也の定義で行くなら、私お兄ちゃんにはベタ惚れだよ?適当に誠也の言葉に返しながら、聞くんじゃなかったかなぁと苦笑いを浮かべる。恋ってことにしとけばよかった。勝手に誠也への気持ちを恋と名付けておけば。勝手にお兄ちゃんへの気持ちを家族愛と名付けておけば。

「いやぁオッケーオッケー分かった。じゃあまだ惚れてないわ。」

 そう、まだ惚れてないのだ、誠也には。世間でいうのなら。そういうことだ。せめて望みを乗せて、「まだ」ってことにさせてね。

「わぁ率直にありがとうございます。」

「なんつーか、誠也のことを優先したい気持ちはあるよ?」

 それは惚れたってことにはならない?ならないんだろうな。

「でもまずドキドキはしないわ。ないわ。」

「ないわ言うなよ。でもそっかぁ、ドキドキしないのかぁ……なんか兄妹愛みたいな感じ?」

 私の生返事を受けつつ誠也は立ち上がる。夕飯の支度を始めるんだろう。手伝おうかな、と腰を浮かせたときに誠也は思い出したように笑った。

「そーいえばさぁ。今日山崎に、お前と俺って恋人というより兄妹じゃね?って言われたわ。」

 あーあ、上手くいかないのね。逆だったらとっても素敵。

「まぁ、諦めずに頑張ってドキドキ探すわ。いつでもかかってこいよ。」

「なんじゃそりゃ。」

「ほら、惚れさせてよ、早く。」

 私だって、ねぇ、出来るなら早く叶わない恋なんて捨てて誰かに全部渡したいよ。合法的な初恋がほしいよ。君なら出来そうなんだ。あと一押し。


 ほら振り返らせてよ、誠也。


 ―好きっていまいち分からない、なんて嘘だけど。

2020.10.11書き直し

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