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青い秋  作者: UTUTU
8/18

暗黒聖夜

聖夜というのに、暗く、黒く。まあ、こんなもんでしょう。変わりなく鬱々。

 聖夜というのに激しく凹んでいます。

 クリぼっちなのは確かですが、もう少し本格的に懊悩しているんです。

 母が体を患い、手術を要し入院しているんですね。まさにクリスマスの明日、手術となる訳ですが、ゆえに今日は妻を連れて見舞いをしまして、僕一人は地元に残り、明日を迎え、付き添う段取りとなっています。

 それだけなら凹みはしないのですが、母が急激に老耄を深めており、まあ、今や、まさしく認知症高齢者です。ここ二ヶ月ばかりで本当に別人のようになってしまいました。

 ただいま、実家で床を延べて、ひとり哀切を噛み締めています。

 すでに書いたことですが、入院中の病院を抜け出したりもしました。どうもその際、仕舞っておいた預金通帳やらキャッシュカードを紛失させてしまったような様子です。入院前、一緒に確かめた位置に見当たらないので、ちょっと途方に暮れています。困惑している。

 なにやら玄関の鍵も開け放されていました。トイレは使いっぱなしで流していないし、傷んだ飲み物がコップに注がれたまんまでした。意味不明に内服薬が、本棚へポンと置かれていたりもする。これらが精神の働きを反映しているとするなら、やっぱり澱み、なめらかでは無い。ゴツゴツ、おんおんとしているんです。

 病院では子供のように夜尿もしていると聞きましたし、ブカブカのズボンを穿いて、人前で脱げてしまったりと何だか目を覆いたくなるような振る舞いをしているみたいですしね。

 まずは介護認定調査を受けなくては、と思います。

 その前に無くなった通帳やらカードはどうしよう、今後のお金の管理は、などとモクモク黒雲のごとく心配事が湧いてしまいます。

 それに。

 夕方ごろ、一人暮らしの高齢者と知ってなんでしょうか、怪しい人物がインターホンを鳴らしました。応対すると、地震の調査がどうだの、やはり家を間違えましただの、しどろもどろとなり忙しなく立ち去りましたが、今の時代、一人暮らしの高齢者を選りぬくことなんて難しくはないのでしょう。もしかしたら、通帳やカードだって虎視眈々としている空き巣にやられたのかもしれません。

 そう考えだすと穏やかならない。

 とっても聖夜という気分ではありません。

 それにノンキしている場合ではないかもしれません。とっくにやられたかもしれないとは言え、カードを止めるべきなんでしょう。でも、ハッキリしない母に会いに病院まで足を運ぶ甲斐があるかどうか。口座番号やカードの番号だって、手掛かりになるようなことは分からないでしょう。手術前夜というのに、オロオロさせるだけでしょうからね。

 いくらも入っていない口座でしょうし。

 とは言え、その、いくらでもない金額が今の僕には大事なのも確かです。

 恥ずかしながら、転職を繰り返すうち、目下、失業状態であり、単発派遣で食いつないでいるんですよね。国家資格を持っているので、幸いにも二月からは就職が決まっていたりはするのですが、今、きわめて不安定な経済状態です。妻もノンビリしたもので、夏に仕事を辞めて以来、自宅で油を売っている。それこそ、いくらも蓄えがないのは我々夫妻のほうなんですよね。

 こう考えると暗澹として参ります。


 嗚呼。まあ、しかし。

 ここは虚構の象牙の塔なんですよね。


 飛翔を志すべきでしょう。手慰みでも、マスタベでも、痩せ我慢でも、そうすべきだ。


 今、ヤケ喰いをしたところです。

 それから、ニンフェットの幻覚に浸りました。


 あとは、ダークサイやゴアを垂れ流しましょうか。


 脳に桃源郷を。


 今宵は真っ暗な、聖夜。


 髑髏が哄笑するような、百鬼夜行の闇を、せめて脳裏に咲かせておきます。


 こういう時は、こう言うんでしょう。


 何よりも、まず音楽を。

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