傷と月
取り留めなく自己セラピー。書くという手段により。
月光が、その神々しい金の粒子を、僕の皮膚へ刻む。刺青のある皮膚へ。それは冷たく甘く浸透して、浸透し、さらに浸透しながら、夢の神経を覚醒させるんです。こんな易傷期めいた、青くさい感覚に浸るのが僕は好き。音楽にはジョビンを選ぶ。おんおん林立した、これもまた仄青い影や光の粒子みたいな、ボッサのリズムのあいだ、あいだに、陶酔するんです。
このような時間をひさしく味わっていない。
肉体もかつて与えられていた機能性を失してしまいました。今の僕にあるのは四十男の見すぼらしい体だ。かつては女性の心を焦がすことも可能でしたが、現在では路ばたの石ころと大差はない。皮膚に象られた傷の魔方陣も、鋭利に響きはしない。月光に共鳴したりはしないんです。
今朝がた、奇妙な夢を見ました。
水族館のような場所で、水槽の中に人間の死体を発見する男。まわりに雑談する人物はいるが、男だけが水中の死体という異変に気がついているらしい。男は色を失い、声を失いつつも、異変を周囲へと知らせようとするのですが、刹那。男自身がまるで手品みたいに、その場から消えて失せるんですよね。
刹那ののち。人々はようやく、ざわめく。何故ならば、水槽中の異変に気づくとともに。さらに、さきほどの男が同じ水中に溺れもがいていることを認めるから。
そう。そうです。不思議なことだが、男は死骸のある水槽へと瞬間移動したんですよね。
そこは寂れた水族館で、大して人の目というのがありはしない。
実際を観察していたのは、人ならぬ水棲生物、魚や、ヒトデ、そんなものらに過ぎないがために、その死体を作り出したのは、同じ水槽の中にいた男ではないか、ということになってしまう。ちなみに死骸そのものには絞殺の痕跡があり、どうも男性の手などで力まかせに首を絞められたようなのでした。
状況がそろい、男は断罪されてしまいます。
そのような、取り留めない夢を見ました。
コメディともトラジェディともつかない。不安の姿が何となく美しいが、さしたる意味も介さない。だからと言うと、だから、何でもありはしないんです。
起床しましょう。
今日はまた母を見舞います。