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第6話 策程でもない考え

「どうだ、撒けたか。」


「さあ、どうでしょうか。」


 ダムスとレントは幾つも作ったグラウンドケージの中の一つに潜んでいた。


「他のやつにはトラップを仕掛けて置きました。時間稼ぎにはなるでしょう。」


 実際さっきから動きはない。少し前まではトラップが作動して轟音、その後異形の絶叫が聞こえていたのだが。


「腕の出血は止まったようです。」


「そうか、痛み止めはやめていいぞ。ここからは魔力を温存しないとな。」


 レントは光属性の魔術で痛み止めをしていた。他の属性魔術と違い光属性は基本誰にでも扱うことができる。今回の痛み止めは治癒の効果は無いものの冒険者には欠かせない便利な魔術だ。


「あと魔力はどれくらい残っている。」


「そうですね。グラウンドケージで数回、トラップ込だと1回分ですかね。」


「そうか...そろそろ夜になる。ヤツが夜行性かどうかはわからんが、遺跡周辺に留まるならそれでよし、街に向かうなら討伐隊が到着するまで足止めしなきゃならん。」


「討伐隊来ますかね。」


「来るだろうな。アスクルは大きな街だ。住人も多いし、商人も多く来る。ここでダンジョンが発生、しかも魔物が暴走してるとなれば来ないはずがない。」


「早くて明日の朝ですね。」


 2人は気付かれていない今なら逃げることもできる。それでも逃げないのは異形をここに拘束しておく為と、被害を最小限に留める為だ。


「ヤツめ動き出した。」


 土の壁が崩れる音にトラップが発動する音。しかし異形の声は聞こえない。


「アイツ遺跡の構造物を使ってトラップを回避していますね。学習している。」


「ここに来たタイミングで飛び出すから、そのタイミングでグラウンドケージを使ってくれ。ヤツの顔面に一発ぶちかましてやる。」


「わかりました。無理だと思ったら引いてくださいよ。」


 2人は自身の得物を握って息を潜める。


「来た!」


 土の天井が崩れる前に互いに別の方向へ跳ぶ。

 異形を囲む様に土がせり上がり、ダムスは斧を振りかざそうとした瞬間


「ダムスさん、どいてぇぇぇぇぇ!」


 聞き慣れた声が森に響いた。ダムスの目に映ったのは、目の前の異形が横に吹き飛ぶ瞬間だった。




 ―――――――――――――――――――――――




(上手く行った。次は...)


 襟巻きの腕の部分を使って木の枝を雲梯の応用で移動する。この方法は森の地面を走るよりも速く、飛び道具が使いやすい。普通にこれをやるとセレンちゃんの首が締まるので、一度体に巻き付けてから肩を通すようにしている。セレンちゃんにかなり負担がある筈だが今回ばかりは仕方ない。


「もう1発!」


 セレンちゃんが放つ魔石は強い衝撃を受けると炸裂、結晶を発生させるように魔法陣を組んである。親指と人差し指の間に魔力を展開し、パチンコのように発射する。これも簡単な魔法陣によるものだ。

 2発の魔石弾を受けてよろついた異形はこちらに注意を向けた。


「よし。こっちに来る。」


「さっきの地点まで誘導すればいいんだよね?」


 移動しながら確認する。いたるところに土の壁が出来ている。恐らくレントだろう。それに異形の方にもたくさん傷がある。致命傷にはなっていないが、動きを見るにかなりのダメージが蓄積されている。それにこの森を短時間で突破したテルム。やはりこのパーティーかなりの実力者の集まりだ。

 手負いと言ってもさすがヌシクラスの魔物だ。木を薙ぎ倒しながら追ってくる。


「こ、これほんとに大丈夫なの?」


「大丈夫だ。上に跳ぶぞ、構えろ!」


 枝を使って上空に跳び上がる。そして、異形がこちらのちょうど真下にさしかかった瞬間、地面に魔法陣が浮かび上がり地面が陥没、そして幾つもの結晶の槍が異形を貫いた。


「やったぁ!」


 けれど致命傷にはなっていない。トラップがあることはわかっていて避けたのかもしれない。そもそも結晶の槍はトラップには向いておらず本当に足止めにしかならない。

 でも、一瞬あれば十分。


「真上取ったぁぁぁぁ!」


 襟巻きの両端に魔力を込める。左には魔力の弓を、右には魔石3個使用した結晶の大矢を。それを番えて...撃つ!!!


 強い魔力を纏いながら突進する大矢は、唸りながら顔を上げた異形を貫いた。


 セレンちゃんに衝撃が伝わらないように着地し、構えなおす。

 異形は...まだ生きていた。致命傷になったはずなのになんという生命力だろう。

 次の手は...ダメだ、セレンちゃんがもう限界だ。木を渡る高速移動に急な上昇、大矢使用時に放出した魔力。冒険者に成り立ての女の子が耐えられるものでは無い。


 異形が穴から這いずり出て来て、腕を振りかざしたところで腕が千切れた。異形は落ちた腕を不思議そうにしばらく眺めて地面に崩れた。


 


 ―――――――――――――――――――――――




「それにしても入院なんて大袈裟だよなぁ。」


 ここはアスクルで一番大きな病院の一室。


「これくらいかすり傷だっつーの。」


「私なんか魔力の使い過ぎの軽い貧血ですよ。」


 全員大したことないみたいなこと言っているけどかなりのダメージを負っている。ダムスさんは右腕にヒビが入っていて左腕は肘と肩が脱臼、浅いが裂傷もある。テルムさんは左足と脇腹に魔物による裂傷があった。医者が言うには、この状態で森の奥からアスクルの門まで辿り着けるはずがないそうだ。レントさんは目立った外傷は無かったものの急性魔力減少の症状に陥っていた。これは短期間に魔力を消費し過ぎると起こる現象で、下手をすると死ぬ可能性がある危険な状態だったそうだ。


「とりあえず3人とも大人しくしててくださいね。あんまり文句を言うと、お医者さんに言いつけて入院期間伸ばしてもらいますよ。」


「「「はい、すみません。」」」


 あの後すぐ他の冒険者の皆さんが駆けつけてくれて一件落着となった。次の朝に増援が到着、その日の夕方には王都から調査も兼ねた増援が到着した。既に自体は収束していた為増援の部隊は解散、残った調査隊から俺達も聴取を受けた。

 今日の夕方には異形の魔物と遺跡の調査が終わりギルドで報告会があるそうだ。病院の3人はあとから説明するそう。

 宿に戻って一息つく。


「体は大丈夫?昨日かなり無理させちゃったけど。」


「大丈夫大丈夫。私の方が無理言って皆に心配かけちゃったし。」


 全部終わった後ギルドの職員さんや冒険者の人達にかなり怒られた。あの状況で飛び出して行ったのだ、当たり前だろう。


「でも、セレンちゃんが動かなければ少なくともダムスとレントは助からなかったよ。」


「...ありがとう。」


「それに上手く行かなくてもセレンちゃんを逃がす手段は用意してたからね。」


「そ、そうなんだ。」


 ストールさんは凄かった。あの状況で私をフォローしながらあの魔物を倒してしまったのだから。


「今回は上手く行ったんだ。ほら、そう落ち込まない。」


 左手の甲を見る。魔力を込めるとうっすらと光の図形が浮かび上がる。ストールさんが描いてくれたパチンコの魔法陣だ。こんな事出来るのは...


「やっぱり凄いね、()()()さんは。」


「いいや、俺はなんにもしてないよ。」


 やっぱり...


「あれ?セレンちゃん、今なんて?」


「やっぱりね。私のこと忘れちゃったんだね、()()()さん。」

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