第5話 森の奥で
セレン達がギルドに到着する数時間前...
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~森~
「確かに異常だな。」
まだ森の浅いところにいるにも関わらず魔物が多い。しかし、幸いにもこの森の魔物は3人で対応できる。
「植生にも特に問題は無さそうだな。」
「ということは...奥にある遺跡しかないですね。」
襲いかかってくる魔物を捌きなから進むと遺跡のある広場に出た。この遺跡はそんなに規模はなく、歴史的にもそんなに価値がないとされている。そんな遺跡の壁に大きめな穴が空いていた。3人はその穴の前で立ち止まる。
「これは内側から開けられたものでしょうね。破片の飛び散り方からして恐らく魔物の類いでしょうか。」
「ここを調査した奴らは何をしてたんですかね。こんな事出来るのはダンジョンのヌシぐらいだろ。」
「最後の調査報告は3年前だ、文句を言っても仕方ねえ。そもそも調査隊がこれが出来る魔物と遭遇したとしたら全滅確定だ。」
「ダムスさん、中は割と広いみたいですが入りますか?光魔術で照らせますが。」
「いや、戻ろう。テルムの読み通りダンジョン化してるだろうから、一回報告を入れてからの方がいい。それに嫌な予感もする。」
「ダムスがそう言うんだったら間違いない。それに壁をぶっ壊した危ないやつがうろうろしてるかもだからな。この辺りに魔物がいないのもそれが理由だろ?」
そう言って歩き出そうとしたテルムをダムスが引き止めた。
「ちょっと待て。何か臭わないか。」
「これは...死臭だ!」
「っ!散開しろ!」
3人は瞬時に理解した。まるで入ってくださいと言わんばかりの穴に、遺跡からと思われる死臭、そして道中に死骸が無かったこと。つまりここは狩場であると、そして敵は上から来ると。
さっきまで3人が立っていた場所に異形の魔物が着地した。
(やはり上から!でもなんだあの見た目は、判別がつかない。)
散らばった3人の中で異形が脅威と認識し襲い掛かったのはダムスだった。
(速い!)
ダムスは咄嗟に盾を構える。異形の爪は金属の盾を切り裂きながら吹き飛ばした。
(なんつうパワーだ。相手の踏み込みがもう少し深ければ死んでたぞ。)
一瞬の攻防でできた隙をレントは見逃さなかった。
(グラウンドケージ!)
誰のところに襲い掛かってもいいように詠唱していた地属性の魔術。地面から土の壁がせり上がり魔物を捕獲、または拘束できる魔術だが...異形には効果は薄いようで足止めにしかならない。
(やはりこの程度じゃ止められないか...)
「いっちょあがり!」
壁を突き破り、頭を出した異形の顔面に矢が突き刺さった。
どうやらテルムの放った矢は異形の眼球に命中したようで、顔面を抑えて悶絶している。
「今だ、一旦集まれ!」
ダムスの声で3人は近くの岩陰に身を隠した。
「いいかテルム、お前はこのまま街へ走れ。」
「な、何言ってんだ。」
「私は森を走るのは得意ではないですし。」
「俺はさっきので腕をやっちまった。」
ダムスの腕は爪で掠めた傷だけでなく、盾受けの衝撃でもダメージを受けている。
「つまりお前が1番早く街に辿り着けるってことだ。」
「で、でも...」
「不意打ちを受けた時点でこちらに勝ち目はない。いいから行け!このことを早くギルドに伝えなきゃならん!」
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「これが今の状況だ。」
ダムス達の判断は正しい。ギルドに報告しないと二次被害が出る可能性がある。
「わかりました。ギルド本部に救援要請を、それと急いで救出隊の編成を。」
「待ってくれ、救出隊はいらない。」
「どうしてです?!」
テルムの表情はとても苦しく悔しそうに歪んでいる。
「ダムスの判断だ。『もう俺たちに対処できるレベルではない。街を確実に守り、Aランク並みの冒険者を集めた討伐隊で対処しろ。』これが伝言だ...」
その場にいた冒険者達は何も言い返せなかった。実質Aランクとも言われているダムス達のパーティーで持て余したバケモノに残りの冒険者達で挑んでも全滅するのが目に見えている。
「即急に応援要請と街の防衛の手配を頼む...」
「...わかりました。」
ふと顔を上げたテルムが気が付いた。いない、さっきまで目の前にいたのに。
「セレンちゃんはどこに行った?!」
周りの人達もセレン達がいないことに気が付く。ギルドの入口辺りにいた人が、
「セレンちゃんならちょっと前に凄い顔で走っていったぞ。」
「なっ!なんで止めなかったんだ。あの子は1人でも助けに行くぞ!」
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森に向かって走る。自分が行くことで何か出来るなんて思ってない。
「ちょっと待って、1人で助けに行ってどうするんだ。」
「見捨てられないじゃない!ただそれだけなんだよ。自分だけ助けて貰ってばっかりでなんにも返せないのはもう嫌なんだ!」
ストールさんの制止を聞かずに走り続ける。
「...仕方ないな、こっちの指示に従って貰うけどいいよね?」
「何か策でもあるの?」
「策って程でもないが考えはある。」