第4話 新装備!
朝になった。どうやら考え込んだまま寝てしまったらしい。こんな体でも眠くなるし疲れてはいるようだ。
「ストールさん、おはよう。」
「おはよう、セレンちゃん。」
「今日は昨日の装備に取りに行くんだよね。急いで準備しなきゃ。」
セレンちゃんは今日も元気がいい。着替えも手早く済ませる、もちろん見えないところで。
酒場には既に全部が届いていた。セレンちゃんは嬉しそうに部屋に戻って新しい装備に着替え直してみんなにお披露目となった。
「おおー、似合ってる似合ってる。」
「どうだい?動きにくくはないか?」
「大丈夫です。むしろ今までより体が軽い感じがします。」
「そりゃ良かった。」
一応もう1着も合わせてみて問題は無さそうだ。
「それじゃあ初Dランククエスト行ってきます!」
彼女は冒険者ギルドへ駆け出した。
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Dランクになると出来ることが多くなります。むしろ冒険者だと胸を張れるのはDランクからとも言われています。
今回受けるのは平原の魔物の調査。一昨日に私が遭遇したアングリ・ボアは、本来もっと森の深いところにいる魔物だそうです。森以外にもそういうことが起こっていないかを調べに行くということになっています。
ちなみに、実際に異常あった森の方にはBランクのダムスさん達が向かいました。
今回の平原の調査、他にも目的があります。装備の慣らしです。
ほぼ全身が新しい装備になっているので、いざという時に上手く使えないと命に関わります。
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「動物も植物も特に問題は無さそうですね。」
ギルドで渡されたチェックシートに書き込みながら周りを確認して歩き、指定された植物を回収する。
「そうだね。そもそも異常があれば行商人達から報告があるはずだしね。」
平原には街から街へ繋ぐ道があって、一日に何台もの馬車が行き来する。彼らが魔物の異常に気が付かないはずはない。
「さて、依頼も終わったことだし装備を試して行きましょう!ストールさん解説をお願いします。」
「えーと、まずはブーツについて。どう?使ってみた感想は。」
その場で一度ジャンプしてみてから、
「やっぱり体が軽いよ。それに疲れにくい気がする。」
「そのブーツはダンジョンからの出土品で、中に仕組まれている魔法によって...」
「難しいのでもっと簡単に!」
「つまり、足回りの補助でジャンプ力や走る力が強化されて、履く人の足のサイズに合わせて大きさや形の変わる魔法のブーツです!」
「よろしい!...あれ?これとてもすごいやつなのでは?」
「その通り。めちゃくちゃレアです。」
「...お値段は?」
「良いお値段するんじゃないかな。多分高いから誰も買わなかったんじゃないかなと思うけど。それ以前にある程度の冒険者には必要なかったりするんだけどね。」
また高いものを貰ってしまった。
「グローブは武器が扱いやすくなってるはずだし、服の方も丈夫で汚れにくく加工されてるな。」
新しいダガーを一通り振り回して鞘に戻す。
「...帰ったらダムスさん達にもう一回お礼行ってくるね。」
「それがいいと思うよ。」
その後も装備を確かめているとストールさんが質問してきた。
「そのポーチには何が入ってるの?」
「これ?これはね。」
フタを開けて手の上に中身をあける。
「なっ!これは魔石じゃないか。どこでこんなに手に入れたんだ!?」
「え?ストールさんだよ?これはね、私の魔力をストールさんが魔石に変えてるんだよ。」
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もう一度よく襟巻きに刻まれた魔法陣を確認してみる。ふむ、魔力を吸収する魔法陣に、こっちは魔力を魔石に変換する魔法陣、温度調節機能?!こんな魔法陣は知らないぞ。
あれ?さっきのブーツよりもこっちの襟巻きの方が凄いじゃん。これ貰い物って言ってたけど、プレゼントした奴どこでこれ手に入れたんだよ...。
そもそも魔石は遺跡や一部の魔物からしか取れない。今は大丈夫みたいだけど悪用しようとする人が居てもおかしくはない。
そうだ、魔石といえば
「セレンちゃん、これいくつか貰ってもいい?」
「いいけど、どうするの?」
「まあ見てなって。」
受け取った魔石に集中する。魔力をインクのイメージで練り、糸のように引き伸ばして魔石の表面に魔法陣を描いていく。
だんだん思い出してきたぞ。属性を持たないオレはこうやって魔術を再現したんだった。
今回やるのは、魔石内の魔力を解放して結晶を生成、その結晶で何らかの形を作るというもの。出来上がったのは折鶴の形の結晶がたくさん。
「およ?」
思っていたよりもたくさんの結晶ができた。込められてる魔力にあわせて増えるようにはしていたけれど。
セレンちゃんは驚いて声も出ない様子
「...り。」
「え?」
「なんでもない。そろそろ戻ろう。」
ギルドに着くと人が常に出入りし、バタバタと騒がしい。
「治療魔術使える奴はいるか?!とりあえず医者呼んでこい!」
「腕の立つ冒険者を集めろ!」
何事かと中を覗くと血まみれになったテルムが倒れている。
どうやらボロボロになっているのを門で保護されたらしい。
「どうしたの?!」
「セレンちゃんか...無事で良かった...ほとんどは返り血だから大丈夫だ。」
「ダムスさんとレントさんは?」
周りを見渡しても2人の姿はない。
「あいつらはまだ森のはずだ。俺だけ逃げて来ちまった。」
ギルドの職員さんが駆けつけてきてみんなを下がらせた。
「治療しながらで申し訳ございません。何があったか教えて頂けますか。」
「ああ。」
彼はその時の状況を話し出した。