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第3話 付喪神(仮)

 皆さんおはようございます。元勇者のストールです。


 突然ですが異性の寝顔って見たことありますか?もちろん家族以外でです。実はまったくないわけではないのですが(異世界で冒険者とかやってると見らさることは割とあるので)...何?うらやまけしからん?そんなこと知りませんよ。そんなに羨ましければ異世界転生したらいいと思いますよ。


 そんなことより今俺は割とまずい状況だったりします。まあ簡単な話、目の前にセレンちゃんの寝顔があるわけです。

 ここまでは割とありがちなシュチュエーションだと言う人もいると思うのですが、まずいのはここが彼女の部屋であること、そして自力ではこの場から動けないことです。まあ自分ならこんな変態は即通報ですね。


 まあ今はありがたいことに付喪神か何かだと思われているようなので、バッチリ猫を被って行きたいと思います。


 起きた持ち主にかける言葉は


「おはようございます。」


 ですかね?




 ―――――――――――――――――――――――





 皆さんおはようございます。冒険者のセレンと申します。...私は一体誰に話しかけているんだろう。


 質問なのですが、自分の持ち物が朝の挨拶をしてきたことはありますか?


 私の場合朝起きたら襟巻きが「おはようございます。」と言ってきました。今まで大事にしてきたつもりだからもしかしたら付喪神かなと思ったりしたけど、昨日は動いていたし、疲れているのかなとも思ったけどそんなこともないようです。


 ただ、動いたのが貰ったストールだったこと。それに今の挨拶。

 まだ確証は得られてないけれどきっと...。




 ―――――――――――――――――――――――




 挨拶したものの、俺の持ち主セレンちゃんはフリーズしてしまった。さすがにストールが喋るのはショックだったのだろうか?

 しかし、フリーズから復帰したセレンちゃんはそんなことはないようだった。


「おはよう。ストールさん。朝から質問で悪いんだけど喋れたの?!」


 む、やはりその質問か。喋った!?を期待していたのだが。さて、付喪神的にはどう答えるべきか...。


「喋れるようになったのは少し前かな。」


 うむ、我ながら無難な答えだと思う。


「そうなんだ。いつから付喪神だったの?」


「いつから...昨日の朝からかな。いきなり首に巻かれて冒険だったからびっくりだったよ。」


「...」


 あれ?反応が返って来ないぞ?何か地雷でも踏んだかな。

 顔が少し赤い。あっ...これはアレですね。着替えを見た変態付喪神が処分されるんですね。

 それは困るので違う方に話を振ろう。


「それよりも早く行かなくてもいいの?多分昨日のおじさん達待ってると思うよ。」


「あっ、そうだった。はやく準備しなきゃ。」


 そう言って彼女は着替えを始めた。もちろん俺の死角になっているところで。




 ―――――――――――――――――――――――




 着替えてストールさんを首に巻き、階段を駆け下りながら心の中で絶叫する。


(ああぁぁぁぁぁあ!見られてた、絶対に着替え見られてた!ダメだもうお嫁に行けない、どうしよう...。)




 ―――――――――――――――――――――――




「こちらが付喪神の、ええと...」


「ストールです。よろしく。」


 1階の酒場に着くと昨日のおじさん達に紹介された。

 反応はもちろん「喋った!?」で、本来はこのリアクションが正解だと思う。


 ただね...おじさん達、顔が怖いですよ?

『俺らのセレンちゃんの首に巻かれやがって』みたいな目で睨まないでくださいよ。


「ストールね。俺はダムス。まあよろしくな。」


 腕のつもりのストールの右側で握手をする。


「しかし付喪神ねぇ。実物を見るのは初めてだな。神ってことは敬わないといけないのか?」


「ぜんぜんそんなことないです。気にせずお願いします。」


「ふむ、そうだストールさんとやら、昨日の宴会の話聞いてたろ?あんたにも手伝って貰おうかな。」




 ―――――――――――――――――――――――





「どうでしょう?」


 今私は服屋にいるわけなのですが...


「10点」


「10点」


「10点」


 貰うことになったいた服は選び終わり、あとはサイズに合わせて直して貰うだけなのに...


「さっきから10点しか出てないですよ。」


 ファッションショーが始まってしまいました。


「セレンちゃんこれも着てみて...」


「ストールさんも止めてくださいよ!」


 ただ楽しそうにしてる皆さんを止めるのも申し訳ない、と思っていたら彼らが満足するまで、1時間以上着せ替えさせられてしまいました。




 ―――――――――――――――――――――――





 次に訪れたのは鍛冶屋だった。ここで直すのはダガーの持ち手部分や刃の部分の長さなんかだろう。


「それにしてもあのダガー中々良いものみたいですね。」


「お?分かるか、ここの職人はかなりの腕でな、頑丈で扱いやすくメンテナンスもしやすい。なんで有名になってないのか不思議なくらいさ。」


「でもこれはかなりの値段するんでしょう?」


 金属、持ち手の部分、それに鞘まですべてが上質。それに作業も丁寧でその辺の鍛冶屋ではお目にかかれない逸品だ。


「実はこれタダなんだよ。セレンちゃんにプレゼントするって言ったらお代はいらないってさ。あっ、これはセレンちゃんには内緒な。」


 すごい太っ腹だな。


「さすがにタダだと申し訳ないから、奴には後で何か奢るさ。」




 ―――――――――――――――――――――――





 最後は冒険者御用達の店。ここは冒険者に必要な物は大体揃っていて、ほとんどの冒険者はここで買い物をしているらしい。

 貰ったポーチはベルトにつけるタイプで、出し入れしやすいように調整して貰っている。


「あれもいいな。」


「これなんかどうよ。」


 傍から見れば商品を吟味しているベテラン冒険者達に見えるかもしれないけど、実は私のために選んでるなんて知ったら周りの人達はどう思うんだろう。


 そしてなんとなく予想出来ていたけど、ポーチだけじゃなく武器を握りやすくするためのグローブから薬などの消耗品まで買って貰ってしまった。

 絶対に貰いすぎだと思う。





 ―――――――――――――――――――――――





 夕方になって宿に帰ってきた。さすがに今日中には出来上がって来ないので明日取りに行くことになっている。

 セレンちゃんはもうエプロンに着替えて店の手伝いでパタパタと忙しそうだ。


「それにしてもストールさんよ、あんたいい目してるぜ。いや、目は無いか、アッハッハ!」


「確かにそうだな。特に服のセンスはすげえな。もしかしてお洒落の神様なのか?」


 と、こんな感じにおじさん達とも仲良くなりました。


「あんたら飲み過ぎだよ!他の客の迷惑にならないようにしてくれよ。しかもセレンちゃんの着せ替えやったんだって?なんで呼んでくれなかったんだい。着せたい服沢山あったのに...」


 いや、女将さんは来なくて正解かな。多分1時間じゃ済まなくなると思うし。


「そう言えばなんでセレンちゃんはこんなにモテモテなんですか?」


「あの子ね、昔よく分からない病気でね。あの子の父親が『何か治す方法は無いか』っていう依頼を出してね、ここのメンツはその頃から関わりがあるのさ。私達じゃあなんにもしてやれなかったんだけど、その後にとある冒険者が治してくれたらしくてね。今はあんなに元気さ。」


「女将さーん、人手がー。」


「おっと、喋り過ぎたね。それじゃあ戻るわ。」


 なんだろう今の話、どっかで聞いたような。


「それでよぅ、セレンちゃんのかわいいのなんの...」


 その後も、セレンちゃんの手伝いが終わるまで、しばらくおじさん達に付き合わされてしまった。





「ねぇ、付喪神さん。」


「ん?どうした?」


 酒場での手伝いが終わって部屋に戻ってくると、ベッドに横になったセレンちゃんが質問してきた。


「私ね、付喪神さんの名前を勝手にストールさんって付けたじゃない?あれ迷惑だったんじゃないかなって。」


「ああ、そのことね。全然気にしてないよ。むしろ付喪神さんよりもストールさんのほうがいいかな。」


「そ、そう?良かった...。それとね、ストールさんは武器とか服とかのことよく知ってたじゃない?もしかしたら前世みたいなものがあったりするのかなって。」


 ドキッとした。なんでかはわからない。ただ付喪神じゃないことがバレたとかそういうのではないと思う。


「前世か...うーん。」


「さっきの質問やっぱりいいや。」


「え?」


「いいの、おやすみなさい。」


 セレンちゃんは布団を頭まで被って寝てしまった。


 そこでふと、さっきの違和感の理由が分かった気がする。

 それは、自分ってなんだろう。という事だ。今の記憶は多分かなり欠けてしまってると思う。覚えているのは、自分は勇者と呼ばれていたこと、魔王と戦って死んだこと、それと本当の名前はリジム。違うのもあったけど思い出したくはない。

 あれ?他はなぜか思い出せそうで思い出せない。頭の中に霧がかかったみたいだ。


 考えているうちによく分からなくなってしまった。

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