第9話 旅立ち
朝になった。荷物をまとめて1階に降りていくとそこにはいつもの皆はおらず女将さんが出迎えてくれた。
「気を付けてね。部屋は空けておくからいつ帰ってきてもいいんだよ。ストールさんもね。」
と言ってくれた。でもお客さん来たら部屋は使わせてあげてね?
女将に挨拶を終えて約束の広場に向かう。この街の門に1番近い広場で、そこに馬車を停めて待ってくれているそうだ。
いつもならダムスさん達、冒険者の皆さんに囲まれていただけあって少し寂しい感じがしなくもない。
通りを抜け広場に出ると沢山の人が出迎えてくれた。今までお世話になった方々だ。
「おう、セレンちゃん凄いじゃねぇか。王様から会いたいって言われたんだって?」
中にはダムスさん達もいる。
「えっ?病院は?」
「外出許可は貰ってるよ。」
ダムスさん達にも挨拶を済ませ、馬車に向かう。真っ直ぐ馬車へ歩けるのはいいんだけど、両側に人だかりが出来てて、そこを注目されながら歩くのはとても恥ずかしい。
「セレンちゃんってアイドルみたいだよね。」
というのはあとからストールさんから聞いた感想。
「いやー、人気者ですね。」
馬車の前で待っていたリカル姉さんがからかうように言ってくる。今はちゃんとできる美人モードだ。
「こんなに人が集まるとは思ってなかったからびっくりですよ。あなたはこの街の方々に愛されてますね。」
馬車に乗り込もうとすると、街の代表がやってきた。
「これは街の皆からの気持ちです。これ以上は荷物になってしまいますからね。」
そう言って少し大きめの包を渡された。
「近くに来ることがあったらまた来てくださいね。」
そう見送られ馬車に乗る。ドアが閉まりゆっくり馬車が動き出し窓越しに皆に手を振る。馬車はスピードを上げていき門を越えあっという間に街を出てしまった。
「よかったのですか?戻って来る事もできましたよ?」
「いいんです。元から離れるつもりだったので。」
窓から見えるアスクルの外壁を眺める。あの街には沢山の思い出がある。まだリジムさんだった頃のストールさんにバレないようにこっそりお店の手伝いをしたこと、クエストでも色んな人のお世話になった。でもこれ以上は頼りすぎてしまう。皆は気にしなくていいと言ってくれるけどそういう訳にもいかない。だからこれを機会に旅に出ることにした。
馬車の中ではリカル姉さんとストールさんとの3人でこれまでの話をした。
ストールさんは私に自分は冒険者だと嘘をついていたと告白した。本当は王直属特務騎士団団長で当時は既に冒険者としての活動はしていなかったそうだ。私としてはそれで怒るつもりもないし、立場とかそういう難しいことが絡んでいるのはなんとなくわかったから心配されていたことが少し嬉しかった。
リカル姉さんはその後団長を継いで活動していたらしく、やることが多くて大変だった様だ。
馬車の中の会話ではストールさんは終始謝っていた気がする。
「そうだ、質問いいかな?」
聞いてきたのはストールさんだった。
「セレンちゃんは魔物とかを殺したりするのは平気なの?」
これはアングリ・ボアや異形の事だろう。生き物を殺すことに抵抗があってもおかしくはない。
「平気じゃないよ。生きてく上で仕方が無いこともあるって割り切っているだけだから。それに最初に魔物に襲われた時は凄い怖かったな。」
「それは魔物がってこと?」
「それもあったけど、それだけじゃなかった。魔物相手でも命を奪うってことが怖かったんだ。魔物に襲われたら死んじゃうってのも、死なない為には魔物を殺すしかないってのも知ってたけど、ちゃんと理解出来てなかった。ダムスさん達に助けられて、その魔物が倒されるのを見ていて実感したんだ。」
そこまで話をして場の雰囲気が少し暗くなってしまったことに気が付いて、話題を元に戻した。
馬車での旅は3日続いた。
リカル姉さん達が約1日で辿り着けたのはかなり無理をしたかららしかった。馬をひたすら走らせ続け街に着く度に馬を交換、魔術で馬の体力を底上げしていたそう。
リカル姉さんはもうあんな行軍はこりごりだと苦笑いしていた。
「そろそろですね。セレンちゃん窓の外を見てみてください。」
馬車が丘を登り切り見えてきたのは、アスクルよりも遥かに大きく長い外壁、それに囲まれた街並みに中央にはお城。
「うわぁぁぁぁ。」
思わす感嘆の声が出た。
自分の村とアスクルの街しか見たことが無かった私には初めての光景で、見ることはないと思っていた光景にとても興奮した。
「ようこそ!ここが世界最大の商業都市、王都ウルカウです!」