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 その日一日、ダンの気分は最悪だった。

 自身の現世の職務であるはずの高校生活に集中できない。普段は解けるはずの課題にも、躓いてしまう。なぜだろう? 「落ち着きが無い」と叱る先生達の言葉を聞き流しながら、ダンは心の奥底で呻いた。

「何があったの?」

 いつの間にか、本日の授業は全て終わってしまったらしい。ダンが所属する特進科ではなく普通科にいるはずのミカの声が、ダンの耳元で響く。

「今日、ずっとぼうっとしてるって聞いたけど」

「いや」

 心配する重いお下げに、ダンは首を横に振った。

「勉強のしすぎ? 今日はもう帰って寝たら?」

「そうする」

 ミカの提案に生返事を返し、重い鞄に本日出された膨大な課題を詰め込む。そのまま、足を引きずるようにして家に帰り、自分の部屋の柔らかいベッドに、ダンは身を投げ出した。だが。

「確かめに、行かないと」

 重い身体を、何とか引き起こす。

 前世に向かう呪文を唱える前に、ダンは、十時間ほど前に立ち止まったのと同じ粗末な扉の前に立っていた。

 その扉を小さく開けると同時に、鉄の臭いが鼻を刺激する。まだ明け切らぬ夜の帳よりも暗い液体が、粗末だが清潔だったアキのベッドを汚しているのが、ダンの瞳にはっきりと、映った。壊れた水差しの破片が散らばる床の上にも、どす黒い染みが広がっている。その少し上にある、ベッドからぶら下がる細い腕は、紫色に変色した肌を見せていた。

「なっ……!」

 息が、できない。

 どす黒い染みが広がる、固いベッドの上に俯せに横たわるアキの表情は、ダンが立つ場所からは見えない。しかしながら、身動き一つしない細い身体と、鉄の臭いを伴うどす黒い染みを見るだけで、ダンには、何が起こったのかが分かる。……自分が、引き起こしたのだから。

 唇の震えが、全身に広がる。

 現世に戻る呪文を唱え、ダンは、全てから逃げ出した。

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