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人気が無い場所を選び、夕刻の光が落ちる石畳を進む。
しっかりと見覚えのある、粗末な扉を、ダンは静かに押し開けた。
おもむろに、部屋の中を見回す。ベッドと机だけでいっぱいいっぱいな狭さも、その狭い空間を丁寧に整頓して使っている様子も、ダンが覚えている光景と一切変わらない。師匠に連れられてこの王城に来てからずっと、アキはこの部屋を使い続けている。確信に頷くと、ダンは机に置かれた小さな水差しに目を向けた。本やインク壺から慎重に離して置かれたその水差しに飲料用の水を入れておくのが、アキの習慣。その習慣が今でも続いていることを、水差し半分ほどの高さで揺れている水面で確かめると、ダンはおもむろに、左手に握り締めていた瓶の蓋を開いた。
無色の液体が、水差しの中の水を掻き乱す。
こちらの世界には解毒剤の無い、毒。無味無臭の液体だが、おそらく、……アキは気付く。祈りにも似た感情を首を横に振ることでごまかすと、ダンは空になった毒薬の瓶を握り直し、そそくさと、人気の無い空間を立ち去った。




