騒動
エリーが一部ミリーになっていた誤字を修正させていただきました。
あの日以来、アランが冒険者パーティに勧誘することはなくなった。
それはいいのだが、ここ数日連続で彼に会っていることが少し気になる。
「シィルくん、今日の夜は空いてるかい? ちょっとした臨時収入が入ってね。よかったら一緒に食事でも行かないかい?」
アランがそう言った途端におびえた表情をするエリーとリエット。
シィルの手を引っ張り、彼から遠ざける。
「ど、どうしたの?」
一人訳がわからないシィルは二人の顔を見比べる。
「シィル君はわからなくていいの!」
「敵はリエットさんだと思っていましたけど、まさかこんな所に伏兵がいるとは思わなかったです……」
事情は説明してもらえずに、助けを求める目をアランへと向ける。
しかし、彼も事情がわからずに首を傾げていた。
「そうだ、せっかくだし二人もどうだい? お金の心配はないしいいお店を見つけたんだよ。ただ、一人で入りにくいところなのと、僕の仲間はちょっとあれでね……」
さりげなく指でさし示すアラン。
その先にいたのは、街道を通る女性全てナンパしていくニーグと魔導具屋へ恍惚の表情を浮かべながら入っていくミリシアの姿であった。
確かに彼らと食事に行くのは大変そうだ。
シィルは苦笑いを浮かべる。
「そこで他に知り合いはと思ってシィル君が浮かんだんだよ。一緒に来てくれるなら大歓迎だよ」
手を差し伸べて満面の笑みを向けてくるアラン。
「ど、どうしようシィル君。すごくいい人だよ?」
ふらふらと付いていきそうになるリエット。
しかし、我に返り一言だけ口に出した。
「でもシィル君は渡さないよ!?」
◇◇◇
アランに連れられてシィルたちがやってきたのはこの街の中でも高価なものが置かれてる貴族街近くの料理屋だった。
「こ、こんなところ本当にいいのかな……」
シィルとリエットは少し恐縮しながらお店に入るが、エリーとアランはさも当然のようにいつもの佇まいのまま入っていく。
「へぇー、中はよそと変わらないんだね……」
中は意外にもシィルのなじみある食堂とそうかわらない雰囲気であった。
ただ、料理の方は何があるのかもわからずにアランとエリーに注文を任せる。
「それでアランさん、わざわざ僕をこんなところに誘うなんて何かあるのですか?」
いくら臨時収入があったからと言ってこんな貴族街にあるような高いお店へと来るはずがない。しかもお金はアランが出すと言っている。
これは何か裏があるのではとシィルは考えていた。
するとアランはテーブルに肘を置き、手を顔の前に持ってくると悩ましげな表情で言ってくる。
「実はシィル君に聞きたいことがあるんだ――」
やはり用事があったようだ。
自分にわかることだったら良いけど……。
さすがにお金まで払ってもらって何もわかりませんとは良いづらいよね。
「シィルはマリウスという人物を知っているか?」
マリウス……たしか伝説の冒険者って言われていた人……だよね?
少し自信はないもののおそらくそうだろうとシィルは小さく頷いた。
するとその返事に満足したのか、アランは言葉を続けてくる。
「それでシィル君が冒険者になりたくない理由ってやっぱりマリウスという人物が……いや、なんでもない。今の質問は忘れてくれ」
まずいことを聞いたとアランは少し顔をゆがめる。
しかし、当のシィルは一体何聞こうとしていたのだろうと不思議に思っていた。
「とりあえず急ぎの話はこれだけだ。さぁ、飯を食おう」
気がつくと目の前にはおいしそうな料理の数々が置かれていた。
たしかにこれを置いたままはよくないよね?
シィルは今にもよだれが出そうになるのをこらえながら、料理に手を付けていった。
◇◇◇
次の日、シィルは珍しく一人でポーションを売り回っていた。
ここ最近無茶をしすぎたのか、エリーが体調を崩してしまったようだった。
もちろんその体調はシィルのポーションですぐに治ってしまったが、さすがにすぐにつれて回る……なんてことはできないのでゆっくりと休んでもらおうことにした。
久々に一人でポーション売りに回る。
「あれっ、今日はエリーさんはいないんですね」
エリーの姿がないとわかると男の冒険者たちは何も買わずに去っていった。
やはり彼女がいないと売り上げが悪いなぁ。
シィルは少し落ち込みながらも、なんとかポーションが売れないかとさらに進んで回る。
すると冒険者ギルドの前で何やら騒動が起きていた。
「ちょっと、どうして私がギルドに入れないのよ!」
赤髪の気の強そうな少女が職員に詰め寄っていた。
ただ、問題は少女の年齢であった。
どう見ても二桁に届きそうにない年齢の少女が凄んだところであまり怖くなかった。
「どうかしたのですか?」
ちょうど騒動を見守っていたリエットがいたので尋ねてみる。
「実は、突然あの少女がギルドへやってきて、『私を冒険者にしなさい!』と言ってきたんですよ。一応ギルドは十五歳からしか入れないという規約がありますので断ろうとしてるのですけど――」
少女が全く聞く耳を持たないわけか。
シィルは少し苦笑しつつも当初の目的を果たそうとする。
「なるほど。それでリエットさん、今日はポーションいくついりますか?」
「あっ、そうだね。今日は五本買おうかな?」
ガサゴソとポケットからお金を取り出すリエット。
すると突然少女がシィルを指差して言ってくる。
「あの冒険者に勝ったら私を冒険者にしてよね!?」
それほど強そうな冒険者が?
シィルは周りを見るがそこにいたのはシィルとリエットだけ……。
そして、少女の視線は明らかにシィルを向いていた。
ただ、それでも信じられないシィルはゆっくりと周りを見る。でも、他に視線が向けられそうな人はいなかった。
シィルは自分に指さしながら聞いてみる。
「えっと、僕のこと?」
すると少女は自信に満ちた顔で頷いた。