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それぞれの思惑

 シィルと別れたあと、アインたちはユーグリッド邸へとやってきていた。



「見事に振られたな」



 ニーグがアインをからかうように言ってくる。

 ただ、長年彼と一緒にいるアインにはそれが彼なりの慰めだと理解できた。



「あぁ、そうだね。彼ほどの力がある人物は引き入れたかったのだけど見事にね」



 左手を握ったり開けたりしながら乾いた笑みを浮かべるアイン。

 Sランクの冒険者ともなると常に危険はつきもので、彼の左手も以前に魔物の攻撃を受け、ろくに力を込められなくなっていた。それでも利き手が無事だったのは幸運だったが。


 しかし、そんな左手がシィルのポーションを飲んだ途端に治ってしまった。

 それこそ飲んですぐは信じられずにその辺りにあるものや剣を実際に振るってみたりもした。

 しばらく使っていなかったので利き腕ほどの剣の冴えはないが、ポーションを飲む前の状態では振ろうとすると剣がすっぽ抜けていた。

 それを考えるとかなり良くなっている。


 シィルはこのポーションをその場で即興で作り上げていた。

 これほどの回復力を秘めた薬をすぐに作れるのなら自分たちの依頼ももっと簡単にこなせる……そう思いパーティに入ってくれるように頼んだのだが、どうにも断られてしまったな。


 今はすでに空になっているポーションの瓶を眺めながらアランはため息を再び吐いた。



「まるで恋人に振られたみたいだな」



 落ち込むアランに声をかけたのはミグドランドであった。すると瓶をすぐに片付け、顔の表情を引き締める。

 ミグドランドはこの辺りがさすがSランク冒険者だと感心してしまう。冒険者は多数いるが、どちらかといえばならず者が多い印象がある。しかし、アランのように礼節をわきまえるべき時はわきまえる、しっかりとした者がいるのも事実である。

 そして、アランのこういった部分も気に入り、また、五年ほど前に助けられたこともあり、ミグドランドはなにか依頼をするときは決まってこの赤い星のメンバーに頼むようにしていた。



「それで今日は何のようだ?」

「うむ……、それに答える前にあのポーション売りの少年……どう思った?」



 ジッとアランの目の奥を見つめるミグドランド。それはまるで何かを推し量るようでもあった。



「本当にすごいな。神に愛されているのか、魔法の才能があるのか、とにかく彼のポーションには感嘆の声しか上がらない」



 シィルのことを聞いてくるということはミグドランドも彼の力については何かしら把握してるのかもしれない。

 そんな彼相手にただのポーション売りでした……とは言えず、今思っている事実をそのまま告げる。

 するとミグドランドはその回答に満足したのか、数回頷いてくる。



「あぁ、そうだ。そして、私の娘の命を救ってくれた恩人でもある。だからこそ彼には不幸になってもらいたくはないんだよ。今後も君たちにできる範囲でいいからさりげなく彼の手助けをしてほしい。無論その報酬は払っていく」

「そのくらいのことならお安い御用だ。ただ、その結果、彼が僕たちの仲間になるといったらそれはそれでいいんだろう?」



 先ほど振られたことは御構い無しにミグドランドに聞くアラン。

 さすがにこの返しは予想外だったのか、ミグドランドは笑い声を上げて言う。



「あははははっ、もしも、そのようなことがあるならその時は遠慮する必要はない。ただ、そんなことは絶対にないだろうがな」

「絶対にない?」



 その一言は流石のアランも聞き捨てならなかった。

 初めから諦めるなんて冒険者としてできることではない。そのことはミグドランドも重々承知のはずだ。なのにどうして?



「聞きたそうな顔をしているな。私もさすがに気になって彼のことを調べていたんだ。するとこの名前が浮かび上がった。『マリウス・オズフォンバーグ』。この名はアランも聞いたことがあるだろう?」



 ミグドランドから唐突に上がる名前。

 しかし、この名はこの世界に住むものなら大抵は聞いたことのある名前だ。特に冒険者ギルドに籍を置くものならほぼ全員が知っている。誰もが憧れ、しかし、誰も到達できていない伝説の冒険者の名前だ。



「あぁ、聞いたことがあるが……まさか!?」

「そのまさかだ。どうも彼のポーション作りはマリウスから教わった物らしい」



 そのことに一番驚いたのはミリシアであった。



「うそ……、だってマリウス様は生涯誰も弟子を取らなかったって……」

「でも、うちのエリーがそう教えてもらったんだよ」



 正確には全て聞き取れなかったらしいが、『マ……』という名前の先生がいることをエリーが教えてくれた。

 それを聞いたミグドランドは『マ……』と言う名前で伝説のエリクサーの生成方法を知っている人物なんて伝説の人物であるマリウス以外考えられなかった。



「確かにマリウス様ならあのポーションの作り方を知っていっても可笑しくなさそうだ」



 自らの手を動かしながら頷くアラン。



「でもそれならなおさら冒険者になりたいと思うんじゃないのか?」



 マリウスは伝説の冒険者だ。

 その弟子と言うのなら冒険者を志しても可笑しくないだろう。



「いや、マリウスが命を落としたのは冒険者ギルドに無茶な依頼を頼まれたからと言われているだろう。それでギルドは嫌気がさしているんだよ。そうでないと彼ほどの力を持つ物が一介のポーション売りで収まるはずがないだろう」



 ミグドランドに言われてアランはハッとなる。

 確かに師匠の命を落とす原因となった冒険者……ともなると嫌気がさしても可笑しくないよね?

 うーん、そうなるとパーティに誘うのは時間をおいた方がいいか……。まずはゆっくり……彼を助けながら交友を深める方が――。

 今後どう動いていくかをアランは腕を組み必死に考えていた。

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