町の散策
慣れない広い部屋で居心地の悪い一日を過ごす。
そして、次の日にシィルたちは町の方へとやってきた。
本当なら町の案内を楽しみにしていたのか、マリナもついてこようとしていたのだけれど何か用事が出来たようでシィルたち三人で見て回ることになった。
「やっぱりすごい人だよな」
「そういえばケリーは王都出身だったよね?」
「あぁ、そうだ。せっかくだからこの町の冒険者ギルドに行ってみないか?」
すごく行きたそうに目を輝かせるケリー。さすがにこの状態で行かないなんて言えないよね。
それに今日は町の散策が目当てだしポーションを買ってくれる人が多い冒険者ギルドは場所を覚えておいた方がいいだろう。
「うん、それじゃあケリーに案内を頼めるかな?」
「おう、任せておけ!」
頼られることが嬉しいのか、ケリーは少し照れ、鼻がしらを軽くこする。
そして、その照れを隠すかのように少し小走りで先に走っていった。
◇◇◇
冒険者ギルドはちょうど町の中央部のお城近くにあるようだった。
そして、冒険者ギルドへとやってくるとケリーは先に中へと入っていった。
シィルたちも後に続くように冒険者ギルドへと入って行く。
しかし、目の前に広がるのはシィルのよく知る冒険者ギルドではなかった。
中には酒場のような場所はなかった。
というより、この建物の二階が酒場となっているようで冒険者ギルドへときた人の邪魔にならないようになっているみたいだ。
そして受付の人も数人立っていて、忙しそうに冒険者や依頼主の相手をしていた。
冒険者一つとっても場所が変わるとここまで変わってくるんだな……。
シィルは思わず感心してしまう。
「相変わらずここも変わってないんだなー」
ケリーがどことなく嬉しそうな顔をする。
すると受付の奥から四十歳くらいのおじさんが出てくる。
「おっ、ケリーじゃないか? どこに行ってたんだ?」
「へっへー、なんとあの噂のポーション売りであるお兄ちゃんの家に泊めてもらってるんだ!」
嬉しそうに語るケリー。
するとおじさんがシィルの姿をジッと見てくる。
「ふむ……君が噂の……」
なぜ王都に自分の噂が広まってるんだろう……。
不思議な首をかしげるシィル。
「いや、すまん。自己紹介もまだだったな。私はミュードリア・ガンマーだ。よろしく頼む」
手を差し出してくるミュードリア。
一瞬どう反応したらいいかもわからなかったので、その場に固まってしまう。
ただ、ジッと見てくるケリーの顔をみると悪い人に見えない。
恐る恐るシィルも手を差し出すとそれを掴み、勢いよく上下に振ってくる。
それにつられるように体が動くシィル。
「おっと、すまん。君のことはライヘンから聞いてるよ。なんでも優秀なポーション売りらしいね」
一体どんなふうに聞いてるのか気になるな。少なくとも自分はただのポーションしか作れないはずなのに……。
シィルは曖昧な笑みを浮かべる。
おそらくライヘンが話したことが王都に来るまでに大げさな話となってしまったのだろうと感じたシィルは何も言うことはなかった。
「今日は挨拶だけだけど、また噂のポーションを売りに来てくれると助かる」
いやいや、そこまで大げさに言われると逆に売りに来にくくなるんだけど……。
ようやく手を離してくれたミュードリア。
そんな彼に対して相変わらずシィルは同じ表情を向けていた。
「それじゃあせっかくだしゆっくりしていくといいよ。私はまだ少し仕事があるから失礼させてもらうよ」
そう言うとミュードリアは受付の奥へと入っていった。
すると緊張の糸が解けたからか、疲れがどっと出る。
ぐぅ……。
それと同時に聞こえてくるお腹の音。
もちろんシィルではない。でもすぐそばから聞こえたということもあり、周りを見渡してみるとリウが顔を真っ赤にしていた。
「そろそろお昼だし、ご飯にしよっか……」
シィルが提案すると真っ赤な顔のリウはコクコクと首を縦に振っていた。
あと少しで23,000!!
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