乗り物酔い
真っ青な顔をして、口元を押さえるケリー。
それを見て慌ててポーションを取り出そうとするシィル。
「待って! お兄ちゃん、それだとすぐにポーションがなくなっちゃうよ。それよりも……」
シィルを止めたリウは杖をケリーに向けて呪文を呟き出す。
「癒しの光よ。悪しきものをかの者から祓いたまえ。ヒール!」
杖の先端が光り、少しケリーの顔色が良くなる。
「あくまでこれは一時的なものだよ。乗り物酔いは馬車に乗ってる間継続して起こるから、その度に私に言ってね。ポーションで治すよりこの方がいいから……」
シィルのポーションなら一瞬で本人の体調も良くなるだろう。
ただ、治るのはその瞬間だけで、しばらくずっと馬車に乗ってるのだからまたしばらくしたら乗り物酔いになる……。
それを繰り返していると数が決まっているシィルのポーションがあっという間に底を尽きてしまう。
「でも魔法もいつまでも使えるわけじゃないよね? 使えなくなったときはポーションを使うから言ってね」
シィルが心配そうにいうがリウは心配ないとでも言いたげににっこりと微笑んだ。
◇◇◇
それからというもの数時間おきにケリーに回復魔法を使うリウ。
それが数日続くとさすがにその顔には疲れが見え隠れしていた。
「大丈夫? そろそろ僕のポーションを?」
「い、いえ、まだ大丈夫……」
リウに無理ばかりさせていたからなぁ。
シィルは少し反省しつつ、鞄からポーションを取り出す。
「ダメ……だよ。それは王都で使うんでしょ?」
「うん、王都で販売する予定の分だけどケリーが大変なんだからポーションの一つくらい使うよ? 足りなくなったら作ればいいんだから――」
「あの……少しいいですか?」
シィルとリウが言い合っているとおどおどとした様子でマリナが小さく手を上げてくる。
「普通のポーションだと乗り物酔いは治りませんよ? もしかしてシィルさんのポーションは……」
「えっ!?」
流石に少しくらい効果があると思っていたのだけど、治らないとは思わなかった……。
シィルは思わず驚きの声を上げる。
「いえ、シィルさんのポーションが実は上級ポーションとかで乗り物酔いにも効くのかと思いました……」
「そんなことあるはずないよ。そんないいものが作れるならただのポーション売りなんて言わないよ。それにそんないいものが作れるならもっとすごい人たちが買って……」
基本的に上級ポーションともなればそれなりの値段がする。
なのでそれを買うことが出来るのは貴族の人や冒険者でもランクの高い人たちだ。
誰の手にも渡るものではない。シィルのポーション以外は……。
ただ、シィルはふと最近自分のポーションを買っていった人物が……全てとは言わないもののその多くが上級ポーションの購入層と重なることに気づく。
でもそんなすごいものがただの薬草と水だけで作れるはずがないと自分の考えを否定しようとする。
いや、そういえばマリナはシィルの知らない薬の作り方を知っていた。もしかしたら上級ポーションの作り方も?
胸にモヤモヤとしたものを抱えながらシィルはマリナに尋ねてみる。
「もしかしてマリナ様って上級ポーションの素材やつくり方って知ってますか?」
「シィルさんなら私のことはマリナ……でいいのですよ? 上級ポーション……ですか。確か素材は癒し草とポーションだったはずですよ。その癒し草は魔力の濃い洞窟の奥深くしか生えないとかで珍しい草のはずです」
やっぱり上級ポーションは薬草と水だけで作れるような代物ではなかったようだ。
少し残念に思いながらもどこかホッとするシィル。
上級ポーションなんて作れるなら今ののんびりとしたポーション売りの生活ができなくなりそうだもんね。
そんなことを思っていると突然前方より兵士達の声が聞こえてくる。
「魔物だ! 魔物が現れたぞ!」
町の外だと普通に魔物が現れる。
それはこの世界では常識なのだが、どうにも兵士たちの声色に焦りが見える。
「どうしたのです?」
マリナが兵士の一人に尋ねる。
「はい、魔物が……、ウルフの大群が現れました!」
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