旅立ち
第3章1話始まります
シィルたちは各々旅に必要だと思うものをカバンに詰め込むとマリナの案内の元、馬車へと向かった。
町外れに置かれたそれにはすでに周りを何人もの兵士たちで囲んでいた。
前回みたいに第一王子たちと一緒ではなく、マリナ一人だからこその対応なのだろう。
「本当はシィルくん二人がよかったのだけどね……」
チラッと横目でシィルを見てくるマリナ。
しかし、その様子にシィルは気づくことがなかった。
「それにしてもお兄ちゃん、いっぱい持ってきたね。何が入っているの?」
リウがシィルの持つ鞄を指さしながら聞いてくる。
「もちろんポーションとその素材だよ! いつでも作れるように準備しておいたんだよ」
「あっ、そうか……。王都だとあのポーションの素材が取れるかわからないもんね」
「うん、そうだよ。素材自体はあると思うんだけどやっぱり使い慣れたものじゃないとあまり使えないもんね。王都の側でもあると思うけど……」
ポーションの素材なのだから結構簡単には見つかるだろう。
ただ、シィルのポーションは特別なわけだからあまり下手な素材で感覚を狂われては困るなとリウは同意しかねていた。
「ちなみに今持ってる素材も合わせてポーションはどのくらい作れそうなのですか?」
「だいたいが作ってすぐに売れてたから今持ってるのは十本かな。あと素材は多めに集めてあるから二十本分くらいは作れるよ」
エリクサーの効果があるポーションが三十本……。
今回はお祭りに行くだけだからあまり使うようなことにはならないと思うけど、無茶な使い方はさせられないな。
リウはその数を紙に小さくメモしておいた。
◇◇◇
「うわぁ……町の外ってこんな風になっていたんだ……」
馬車が動き出して数時間後……、シィルは初めて見る景色に思わず見入っていた。
その様子をマリナは微笑ましく眺めていた。
「この辺りはまだ草原しか見えませんよ。何か変わったもので見えましたか?」
さりげなくシィルの隣に行き聞いてみるマリナ。
馬車の中なのでその距離は肩と肩がくっつきそうになる程近いのだが、外の景色を見ていたシィルはそのことに気づいていなかった。
「変わったものはないかな? それでも見たことない景色を見るのは楽しいよ」
話しながらマリナの方に振り向くシィル。
そこでようやくマリナの顔が目と鼻の先にあることに気づく。
「えっ、マリナ!? ち、近っ!?」
慌てふためくシィル。
ただ、馬車の中ということもあり、突然動いたことにより体勢を崩してしまう。
「危ないですよ!」
少し強めに言いながらシィルの体に抱きつくマリナ。
「あっ……」
それを見ていたリウが小さく声を漏らすが、シィルにはそれどころじゃなかった。
突然抱きつかれたことによって赤くなる顔。それはマリナも同じようで、しっかり自分を支えながらもその顔は真っ赤に染まっていた。
「も、もう……大丈夫……ですよ」
緊張のあまり上ずった声でそれだけ告げるシィル。
するとマリナは慌ててシィルから離れ、後ろを向いていた。
「う、うん……、そ、そう……ですよね。でも……馬車で慌てるのは……危ない……ですよ」
後ろを向きながらゆっくりと話すマリナ。
その行動はシィルのためのものだったので、素直にお礼を言う。
「えぇ、あ、ありがとうございます……」
するとマリナは顔を染めながらも少し嬉しそうにはにかんだくれる。
しかし、そんな二人の間に割って入ってきたのはリウだった。
「もう、お兄ちゃんは危なっかしいよ……。マリナ様も少し近づき過ぎですよ。あまり馬車の中ではそういったことは控えてください」
「そ、そうでしたね。シィルさん、ごめんなさい」
リウに怒られてマリナが謝ってくる。
「いえ、僕の方こそ……すみません」
それにつられるようにシィルの謝る。
「はいはいっ、この話はもうこれで終わりにしましょう。ねっ、ケリー君からも何か言ってあげてよ」
いつも元気なケリーは今日、何一つ言葉を発していなかった。
その理由はすごく簡単なものだった。
「お、俺……、気分悪い……は、吐きそう……」
【残りポーションの数、三十本】
22,000PT突破!
たくさんの人に読んでいただけたようで本当にありがたいです。
ありがとうございます。
第3章1話始まります。
気に入っていただけましたら、画面下部の評価をどうぞよろしくお願いします!




