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異変

日間総合3位記念更新

 シィルは今日もポーションを売りに街へ出かけていた。

 そうして町を歩いていると散歩をしていたエリーに出会う。

 彼女を助けてから数日、なぜか薬を売り歩いていると彼女に会うことが増えて来た。


 エリーは少しずつ町を歩ける時間が増えて来ているようで、ポーションを売り始めるシィルの横に立つと一緒に声を出し始める。



「ポーション、ポーションはいりませんかー?」

「とーっても良く効くポーションですよー」



 エリーが声かけを手伝ってくれるようになってからポーションもすぐに売れるようになった。

 それはとてもありがたいことなのだが……。



「ふーん、今日もシィル君はエリー様と一緒なんだ……」



 ギルドの前に行くと口を尖らせたリエットが近づいてくる。これもここ最近の日常であった。

 それでもポーションを買ってくれるだけありがたいんだけどね。



「うん、ポーション売るのを手伝ってくれてるんだ……」



 まぁそれも今だけだろうけどね。きっと体を本調子に戻す一環として体を動かすために手伝ってくれているんだろうし……。



「えぇ、シィルさんといると色々勉強になりますので」



 微笑みながら答えるエリー。どうにもこの二人は仲が悪い。というより一方的にリエットが絡んでいるように見える。

 何かこの二人には確執があるのかもしれないな。

 それを呆れた顔で眺めていたシィル。すると突然傷だらけの男性がギルドの中へと駆け込んでいった。



「な、何かあったのかな……?」



 その異様な光景に二人は喧嘩を止める。



「と、とりあえず中へ見にいってみよう」



 シィルが提案すると二人は頷き、そのままギルドの中へと入って行った。




 ◇◇◇




 冒険者ギルドの中は酒場風で木の机や椅子が多数置かれ、酒や料理がそのテーブルに置かれたりしている。

 メインとなるのは入り口からまっすぐ進んだ先にある受付とその横に掲げられた大きな掲示板。

 そして、その隣には、シィルの全く知らない『伝説の冒険者』と呼ばれる人物の大きな肖像が掛けられていた。

 まだ朝なのに、それでもギルド内にはたくさんの人がいた。


 ただし、先ほどの傷だらけの男性が入ってきたことでその空気は張り詰め、身動ぎしよう者は誰もいなかった。



「す、すみません……、ぎ、ギルド長は……」



 息も絶え絶えに傷だらけの男性は受付の女性に話しかける。

 すると女性は慌ててギルド長を呼びに走った。



「シィル君、ポーション! 使ってもいいかい?」



 そうか……、ポーションを使えば少しでも傷が治るもんね。


 シィルは頷くと急いでカバンからポーションを取り出す。

 それをリエットに渡すと彼女は急いでその男性の側へと寄って行った。



「大丈夫ですか? このポーションを飲んでください」

「あ、あぁ……」



 男性は震える手でそのポーションに口をつける。そして、ゆっくりとそれを飲み干して行く。

 するとポーションの量が減っていくにつれて男性の目は大きく見開いていき、その飲む速度が上がっていった。



「こ、これはっ!?」



 ポーションを飲みきった男性は己の傷が治ってるのを見て驚きを隠せないようだった。



「それで何があったのですか?」



 驚く男性にリエットが慌ててきた理由を聞く。すると話そうとしていたことを思い出したのか、男性が我に返り、質問に答える。



「あ、あぁ……、そっちの方が大切だな。実はここから西方にあるグルードラ森林で魔物達が暴れまわってたんだ。明らかに様子がおかしい……。何か異常があったのかもしれない」



 困惑しながらも男性は慌てていた事情を説明する。

 森の異常!?

 シィルは少し顔色が悪くなる。その森のそばにある小川はいつもシィルがポーション用の水を汲んでいる場所であった。あの水でしかポーションを作ったことのないシィルは、さすがに人ごととは思えなかった。



「そ、その異常というのはあの側にある小川まで影響が!?」

「君はこのポーションの……? 確かに影響は出ていたよ……」

「シィル君? もしかしてそこに君がポーションを作るためのものが?」



 リエットがびくびくとしながら、それでも聞かないといけないと覚悟を決めて聞いてくる。

 シィルは肯定の意味を込め、首を縦に振る。



「そうか……、うん、わかった。少し待ってて!」



 それだけ言うとリエットも受付の奥へと消えて行った。



「リエットはどうしたんだろうね?」



 隣にいたエリーに聞いてみる。

 しかし、返事がないので横を振り向いてみるとそこにあるはずの姿がなかった。



「あれっ? エリーはどこに行ったんだ?」



 シィルは周りを見渡すがその姿は見つけられなかった。

 さすがにこの人混みは耐えられなかったのだろうか。シィルはこれからのポーション作りをどうするか考えていた。

 すると、先ほど受付の奥に行った女性とリエット、あとは三十歳くらいの少し細身ながらも鍛えられた体のギルド長が現れた。

 そして、ギルド長はすぐに声を上げる。



「西方のグルードラ森林の異変……これはこの街を揺るがす大問題だ! そこでギルドとしてはその異変の調査、解決を緊急の依頼として貼りださせてもらう。報酬額は金貨五枚。これは異変解決に貢献したもの全員に同額を払うものとする。少しでも早い解決を期待する!」



 それだけ言うとギルド長は奥に戻ろうとする。

 しかし、シィルの姿を確認すると彼のそばに近づいていく。



「君がいつもうちにポーションを売ってくれるシィル君だね。私はここのギルド長をしているライヘン・ミュルツだ」



 手を差し伸べてくるギルド長。

 シィルは恐る恐るながら同じように手を出して握手をする。



「僕はシィルと言います。普通のポーションを売っています」

「あぁ、それは重々理解してるよ。ただ、本件は是非とも君の力も借りたいんだ……。なんでも君にとってもあの場所は荒らされたくない場所のようだしこの件だけでも力を貸してくれないか?」



 確かに自分にできることがあるのならとシィルは頷く。



「うんうん、いい返事が聞けてよかったよ。あと、もし君がよかったらギルドに加入しないか?」



 そう言いながらギルド長が差し出してきたのはギルドへの入会手続き書だった……。



「さすがにギルドには入れませんよ。僕はまともに魔物と戦えないですから」



 シィルはギルド長が渡してきた入会手続き書をそのまま返す。

 すると少し残念そうにしながらも、この結果は想像していたのかあっさりと引き下がってくれた。



「うーん、残念だけど仕方ないね。ただ君の力を借りたいのは本当だよ。明日の朝、このギルドの前に来てくれるかい?」



 シィルが小さく頷くとギルド長は嬉しそうに笑いながら受付の奥へと戻って行った。

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