シィルの過去
自分の目的……将来の夢……。
それについて一晩考えてみた。
ただ毎日ポーションを売り続けていただけで、シィル自身には夢なんて呼べるものがないことを……。
◇◇◇
昔、自分にポーション作りを教えてくれたおじさん……。
自分はもう作ることができないからと言って教えてくれた。
「それならおじさんの代わりに僕が作るよ!」
そして、作り上げたポーションを見ておじさんは目を輝かせていた。
「もう一度……もう一度だけ作ってくれないか?」
本当につくり方を覚えたのか調べているのだと思い、シィルは再び同じ要領でポーションを作り上げる。
「そうか……材料自体は同じものでできるという噂は聞いたことがあるからな……でも、これは本当にそうなのか? もしそうなら我が国に招いて……いや、下手に別の環境に置くと今のポーションが作れなくなるやもしれんな。このことを伝えてしまっても同様か……。それなら貴族たちに護衛を……、それもダメだ。のちの道具とされるかもしれん。……結局はこのまま何も見なかったということにした方がいいのかもしれんな」
ポーションを見ながらおじさんは小声で呟く。
それがシィルにはポーションを調べているように見えていた。
「わかった。もし何か困ったことがあるなら王都へ来なさい。儂の名前を出せばすぐに駆けつけられるようにしておこう」
「何か困ったこと? ポーションを作っていると困ることでも起きるのですか?」
シィルは不思議に思いながら聞いてみる。
「あぁ、色々とあるからな。君が困ったと思ったときは儂が力になるからな」
それだけ言うとおじさんは帰っていった。
シィルの作ったポーションを一本、さりげなく持って帰りながら……。
◇◇◇
それ以来おじさんの代わりに始めたポーション作りが生活の糧となって、生きていくために続けて来た。
けれど、少しは蓄えもできた今……何か自分がしたいことを考えてもいいかもしれない。
しかし、そうは思ってもいざ何がしたいのか考えても思いつかない。
「今までポーションしか作ってこなかったわけだもんな」
「すらぁ……」
スライムのスラを抱えながら考える。
しかし、すぐに思いつかなかった。
一人で考えていても思いつかないかもしれないな。
そう思ったときにちょうどリウが起きてくる。
「あっ、お兄ちゃん。おはよう」
「うん、おはよう」
「どうかしたの? 何か思い悩んでるように見えるけど……」
リウが心配してシィルの顔を覗き込むように見てくる。
せっかくだしリウにも聞いてみようかな。
「大丈夫。ただ今後の目標……夢について考えていたんだよ。リウは何か夢とかってあるの?」
「夢……? 私はやはり偉大な魔法使いになること……だよ。魔法を使うものとして当然かなと」
そういえばそれが目的でリウは旅に出たんだったな……。まぁ性格が災いして、魔法の練習どころか働いてお金を稼ぐこともまだ出来ていないのだけど……。
でも、今あることを極める……。確かにそれもいいかもしれない。
例えばポーション売りの自分なら……なんでも治せるような薬を作るとかかな?
いやいや、未だにポーションしか作れない自分がそんなもの作れるはずがないよね。
候補として考えてはいいけど、どうにもピンとこないなぁ。
他の人にも聞いて見てもいいかもしれないな。
そう考えたシィルは早速家を出た。
◇◇◇
いつものようにギルド前までやってくる。
するとギルド前を掃除しているリエットに出会う。
「シィルくん、どうしたの? 今日はやけに早いんだね」
「いや、少しリエットに聞きたいことがあってね」
「私に?」
不思議そうに聞き返してくる。
「とりあえずそう言うことなら中に入ろっか?」
リエットに誘われてシィルはギルドの中に入っていく。




