リウとリエット
シィルのポーションを見た少女、リウはどうしてもあれがただのポーションだと思えずに町の道具屋へと足を運んだ。
「いらっしゃい……あれっ?」
声をかけてくる道具屋のおじさんの視線をかわしながら目的のポーションを見る。
「……違う」
シィルの作ったポーションほど癒しの魔力が込められていない。
ならどうしてシィルのだけが?
リウは少し残念に思いながらトボトボと道具屋を出て宿へと戻っていく。
しかし、そこで宿代がとっくに尽きていたことを思い出す。
「はぁ……」
大きなため息を吐く。
どうしてこう上手くいかないのだろう……。
リウは自分の性格を恨んだ。
どうしても人前に出ると緊張して話せなくなる。一対一なら覚悟さえ決まればなんとか……。
しかし、二人以上になると緊張のあまり逃げ出してしまう。
いくら自分に魔力の才能があるからってやっぱり旅に出るなんて無理があったんだよ……。
物などに込められた魔力を見ることに特化していたリウは、自分の町にいた魔法の師匠に、その才能を磨くために旅に出ることを勧められた。
必死に首を振って嫌がっていたのだが、それをこなしたら王宮魔術師になることも夢ではないと言う言葉を聞いて、彼女以上に両親が乗り気となり、気がつくと旅立つことになってしまった。
その時のことを思い出し、もう一度大きくため息を吐いた。
◇◇◇
どこか野宿ができるところがないかと探して回る。
すると先ほどシィルに声かけていたリエットに声をかけられる。
「あれっ、君は前シィルくんの後ろにいた……どうしたの?」
「…………!?」
突然後ろから声をかけられたことで慌てて逃げようとする。
しかし、気がつくと手を掴まれていた。
「逃げないでよ。君には色々と聞いてみたかったんだよ。なんでシィルくんをつけているか……とか」
「えっと……その……」
口をパクパクさせるリウ。
「もしかして緊張してる?」
リウは必死に首を縦に降る。
それを聞いてリエットははぁ……っと大きくため息を吐く。
「とりあえず落ち着くまで待つから深呼吸してくれる?」
言われるがままリウは深呼吸する。
それでなんとか落ち着くことはできた。ただ、心臓の音はバクバクと言ったままだが。
「それでどうして君はシィルくんを?」
「う、うん……、あ、あの子が持っていたポーション……、なんだか様子が変だったから……」
緊張のあまり少し早口になりながら理由を説明する。するとリエットの顔が少し険しくなる。
「もしかしてそれをシィルくんに?」
「う、うん……、あの子はただのポーションだって言い切っていたけど……」
それを聞いてリエットは少し安心した様子だった。
「シィルくんが信じなかったんならいいんだけどね……」
「……?」
どういうことだろう? まるであの子がポーションだと思っていることがいいことのように。
リウは首をかしげるとリエットが詳しく教えてくれる。
「あのね、これは私も教えてもらったことなんだけど、今シィル君があの薬を作れていることは奇跡にも等しいことなんだって……。ちょっとした感情の変化とかであの薬が作れなくなるかもしれない。そう考えると彼自身にもなるべくこのことがバレないようにしないといけないんだよ」
「で、でも、それだとあの子がずっとだまされていることに――」
「だからこそ、シィルくんに何かあったときはみんなで助けるんだよ。それくらいしかできないからね……」
少しさみしそうな目を向けるリエット。
「た、例えば少し多めにお金を払うとか……」
「出来るときにはしているんだけどね……何か理由がないとシィルくんが感づいてしまうかもしれないから……」
色々と考えてみるがリウには他に何も思いつかなかった。
「あっ、そうだ! 今からシィルくんの家に行くんだけど一緒に来るといいよ!」
「えっ、あっ、その……」
「遠慮はいらないよ! その方がシィルくんも喜ぶからね」
リエットに腕を引っ張られるリウ。
◇◇◇
そして、そのままシィルの家まで連れてこられる。
扉をノックするとシィルが小走りに出てくる。
「はーい。あっ、リエット……どうしたの?」
「遊びに来たよー。この子と」
リエットが突然リウを前に出すので少しこけそうになる。
それをシィルがそっと抱きしめる。
「だ、大丈夫?」
「う、うん……」
すぐにシィルから離れるもののリウの顔は真っ赤に染まっていた。
「と、とりあえず中にどうぞ……」
シィルが中へ案内してくれるのでリウたちはそのまま入っていく。
今日は誰も来ていなかったようで広い部屋に一人さみしくいたようだ。
いや、スラはいるものの部屋の隅の方で寝息を立てていた。
なるほど……シィルが喜ぶというのはこういうことなんだ。
ようやくリエットの言葉の意味を理解したリウ。
確かにこれだけ大きな家に一人で住むと少しさみしいかも――。




