盗賊
シィルがサービスでポーションをつけて以来、ランドルムが常連客になってくれた。
見た目は少し怖いけど、それでも自分を驚かせまいと精一杯笑顔を作ってくれていた。
その顔が怖いとは言い出せなかったが。
あのときはやたらと自分のポーションが中級じゃないかと疑っていたようだが、それもあの時だけでどうやら違うとわかってくれたようだ。
あの後シィルも中級ポーションの作り方を調べてみたのだがシィルが聞いたこともないような素材を使うため簡単に作れる気がしなかった。
第一簡単に取れるようなもの以外、シィルは素材採取にも行けない。なのでマリナに別の薬の作り方も教えてもらっていたが、未だにポーション以外の薬は作ることができない。
それでも毎日買いに来てくれる人がいるおかげでなんとか暮らしていた。
◇◇◇
そんなある日の夕刻時、シィルの家を数人の人物が取り囲んだ。
「こんなところに大きい家が建ってるな? どうしてだ?」
「さぁ、どうせお貴族様のお遊びだろう」
「げはははっ、それもそうだな。だが、これも好都合だな。この人数で取り囲めば……」
「金目のものと女をさらってあとは皆殺しだな……」
シィルの家を取り囲んだのは数人の盗賊たち。
手には短剣を持ち、身軽そうな格好をしていた。
「よし、いくぞ!」
盗賊の一人が合図をする。
そして、中の人物をおびき寄せるために扉をノックする。
「はーい、どちら様ですかー?」
中からは男とも女とも取れる中性的な声が聞こえて来た。
どっちだ? まぁとりあえずさらうか?
視線を送り、行動を確認する。
そして、扉が開いた瞬間に盗賊たちの意識は飛んでいた。
◇◇◇
「あれっ、アランさん? 今日はどうされたのですか?」
シィルが扉を開けるとそこにいたのはアランだけだった。
しかもいつもとは違い、剣を携え、鎧を着込んでいた。
まるで冒険者の依頼をこなして来たあとみたいに……。
それにしてもまるで複数人いたように見えたが、実際はアランだけ……。
そのことだけは不思議に思い、シィルは首を傾げた。
「いや、ちょっと虫がうろついていたから退治してたんだよ。それでたまたまシィルくんの家の近くを通ったから挨拶がてらね」
アランがウィンクをしてくる。
なんだか少し寒気がするもののシィルはそのまま彼を中に招き入れる。
「とりあえず中に入りますか?」
「うん、それじゃあ少しお邪魔させてもらうね」
アランは手を挙げ、どこかに向かって軽く振るとシィルと一緒に部屋へと入っていく。
その手の上げ方はまるで他人に合図しているようだったが、シィルはそのことに気づかなかった。
◇◇◇
「あいつ、逃げやがった!」
シィルの家を取り囲んでいた盗賊をロープで縛りながら、ニーグは同じ仲間のアランに悪態ついていた。
なんとかシィルに気づかれる前に盗賊を全員捕まえることができたのはよかったが、すでにシィルの家の扉を叩いたあと……。
誰かが出ないといけなかった……、それはわかるもののその後家に入っていく道理はなかったはず。後始末も残っているのに……。
「……んっ、後から罰なの」
冷ややかな目をシィルの家に向けながらミリシアは不気味な笑みを浮かべていた。
「とにかく早くこいつらを引き渡そうぜ! にしてもこいつらもバカだよな。なんの守りもないように見えたのか?」
「んっ……、ここは下手すると貴族の家よりも守られてる」
「そうだな。時間がある時は俺たちが見張って、それ以外の時はそれなりの数の兵士たちに守らせてるらしいもんな。当のシィルには気づかれないように」
目を回してる盗賊たちを縛り終えるとミリシアが魔法で彼らの体を浮かせていく。
「しかもあの家には結界が張ってあるから並の人間じゃ破ることができない。そこを突破するとなんでも治すポーションを持ってる男がいるんだもんな。俺でも侵入なんてしたくないぞ」
「……だからこそアランも中に入った」
恨みたらしくいうミリシアにニーグも同意する。
「とりあえずさっさと引き渡しに行くか。それで酒と料理を持参でシィルの家に行こう。もちろんアランのツケで」
「……うん、仕事サボった罰だね」
ミリシアとニーグは口元を釣り上げてニヤリと微笑みながら、街の方へと向かっていった。




