スライム
連日連夜誰かが訪ねてきていたシィルの家。
しかし、今日は変わった人物……というか生物が訪れていた。
「すぅ?」
庭の方は出てみるとそこには手のひらサイズのスライムのような生物がいた。
ただ、スライムがこの辺りに生息しないことと、あまり強い魔物ではないため危険がないこと。
そして、目の前にいるスライムが可愛らしい容姿をしていたためにとても魔物のようには見えなかった。
そのスライムがシィルの方をジッと見ている。
いや、睨んでいたという方が正しいだろうか?
その姿はどこか元気が無く、弱っているようにも感じられた。
「どうしたの?」
「すら、すら……」
心配して近づくとその体で体当たりしようとしてくる。
「大丈夫だから……」
安心させるように声を出す。
するとシィルに敵意はないと感じたのか、スライムは大人しくなる。
そして、間近でつぶさに観察したことでシィルはあることに気づく。
スライムの体にはいくつもの傷があった。
もしかしたらそれが元で弱っているのかもしれない。
それならやれることは一つだよね?
シィルはカバンの中からポーションを取り出す。そして、今は大人しくなったその子の傷口にそっとかけていく。
「すっ!? すらすら!!」
傷口にかけて染みるのか、スライムは突然暴れ出す。
しかし、ちゃんと傷には効いているようで、ポーションをかけた部分は淡い光に覆われる。
そして、黒い煙のようなものがその光とともに空へ登っていくように感じられた。
ただ、それは一瞬のことですぐに光も止み、傷の治ったスライムは嬉しそうにその場を回っていた。
「すららっ、すららっ……」
そこまで喜んでもらえるとポーションをかけてあげた甲斐があったなとシィルもどこか嬉しくなる。
そして、一通りその場を駆け回ると今度はシィルの足元に寄ってきてその体をすり寄せて来るようになった。
◇◇◇
「ということがあったんだよ」
ギルド前でシィルがリエットに説明する。
彼の肩にはあのスライムが乗っていた。
そして、その通りといわんばかりに一度「すらっ」と鳴いた。
すると、リエットは少し険しい顔をする。
「でもスライムは魔物なんだよ? 危なくないかな?」
「僕もそう思ってまずアランさんに見せに行ったんだよ。そして、ミリシアさんに見てもらったら、邪悪な魔の要素がない……人に危害を加える恐れのない魔物なんて初めて見たって言われたよ」
「人に危害を加えない?」
リエットは少し興味深そうにそのスライムをじっとみる。
一方のスライムもリエットのことをジッと見ていた。
二人が見つめあって数分……、リエットがため息を吐く。
「うん、確かに危害を加えてきそうにないね。あの『赤い星』のミリシアさんが言うなら間違いはないだろうし……、でもシィルくん、この子が増えて生活が大変にならないの?」
「それもね、一日一本のポーションとあとは何でも食べるから困らないんだよ」
本当に何でも食べる。
今の大きな家もたまにミグドランドがメイドを派遣して掃除させていたのだが、このスライムを飼い始めてからは部屋に汚れ一つ落ちていなくてすることがないと言っていた。
そして、その原因はこのスライムが部屋に落ちていたゴミとかも食べてしまっていたからだ。
それをシィルが知ったのは飼い始めて数日経ってからだった。
「……便利な子なんだね。うちにも一匹ほしいかも」
小声で呟いたあとジッとスライムをみるリエット。
その視線に怯えたスライムがシィルの後ろに隠れてしまう。
「あぁ……。はっ!? な、何でもないよ……。そ、それでこの子の名前ってつけたの?」
名前……そういえばまだ考えていなかったかも。
「まだならつけてあげるといいよ」
それもそうかとシィルは少し名前を考える。
「すら……、すら……」
どんな名前にするか悩んでいるとスライムが喜んで地面の上で飛び跳ねていた。
「どうしたの?」
シィルは不思議そうにスライムに聞いてみる。
するとリエットが代わりに答えてくれる。
「今の『すら……』というのが名前に聞こえたんじゃないかな?」
それを聞いてシィルは固まってしまう。
でもスライムが飛び跳ねて喜んでいることをみるとこれ以上何かいうことはできなかった。
「ただ、正式にこの子を飼うなら念のためにユーグリッド様の耳に入れておいた方がいいかも……。一応今は危険がないかもしれないけど、魔物だし」
「うん、それもそうだね。早速行ってみるよ」
そのまま足早にユーグリッド邸へと向かおうとする。
すると後ろからリエットに呼び止められる。
「ごめん、シィルくん。今日のポーションをまだ買ってなかった」
そういえば自分もリエットに売るのを忘れていたな。
少し反省して慌ててリエットにいつも買ってくれる五本のポーションを取り出す。
「はいっ、銀貨四枚ね」
リエットからお金を受け取るとシィルは大きく手を振ってユーグリッド邸を目指していった。




