新生活
第2章始まります。
シィルが新しい家に慣れるまでそれほど時間はかからなかった。
初めはどこを見ても真新しく、木の香り漂う新しい家だった。
しかし、連日連夜この家には客が訪れていた。
まず初日はみんなでシィルが家を持ったパーティを……。
◇◇◇
次の日は酒瓶を持ったミグドランドが……。
なんでも家だとエリーとミグドランドの妻の目が光りろくに飲むことも出来ないそうだ。
「シィルくんも飲むかい?」
頬を赤くしたミグドランドがシィルのコップに酒を注ごうとする。
すると玄関をノックする音が聞こえ、ミグドランドの魔の手を逃れることができた。
「はーい……どちらさまですかー?」
玄関の方へと近づいていく。そして、扉を開けるとそこにはエリーがいた。
「あれっ、どうしたの?」
「シィルさん、こちらでお父様を見かけませんでした?」
シィルの後ろでは必死にミグドランドが首を横に振っている。
教えるなってことだろう。
しかし、教えなくて後々バレてしまうと怒られるのは自分だ……。
少し悩んだ結果、さりげなく横にずれるシィル。
するとエリーの目にミグドランドが映る。
「あーっ、いましたー! もう、お父様ー! お医者さんからお酒を止められてたでしょ!」
「い、いや、だってシィルくんの家が完成した記念なんだから……」
「それはもう昨日したでしょ! ほらっ、帰りますよ!」
「いーやーだー!」
家の方へと引っ張られていくミグドランド。
それを呆れ顔でシィルは眺めていた。
◇◇◇
その次の日はリエットとマナがたくさんの料理を手にやってきた。
「お兄ちゃん、どうせ一人寂しくご飯食べてるんでしょ? マナたちがご飯作ってきたよ!」
「わ、私のも食べてね。あまり自信がないけど」
わざわざ持ってきてくれたのだからと二人を食堂へ案内する。
そこには十人でも軽く座れる長テーブルとたくさんの椅子が置かれていた。
「せっかくだしここで食べよう」
「うわーっ、前来た時はたくさんの人がいたからそこまで思わなかったけど、改めて見ると広いねー」
リエットが感嘆の声をあげる。
やっぱりそうだよね。家を渡された時、もしかしてこれが標準サイズの家かと不安になったけど、やっぱり大きいんだよね?
そこは少しホッとする。
そんなリエット達を席に案内してシィルは作って来てもらった料理を取り分けるお皿を準備する。
それを二人に渡して、シィルも席に座る。
「それじゃあ食べよっか!」
「「はーい!」」
リエット達の返事を聞いた後、並べられた料理をみる。
少し黒くなった部分もある野菜炒めと鮮やかな黄色の卵焼きがどちらもたくさん置かれていた。
そして、目の前には不安そうにチラチラとシィルのことを見て来るリエットと野菜炒めを嬉しそうに食べるマナ。
その様子からシィルはちょっと失敗した方はリエットで綺麗な卵焼きはマナが作ったと想像できる。
マナは前に一度卵焼きを失敗している。今度こそはと思ってもおかしくない。
せっかくだしマナの成長ぶりを見ようと卵焼きの方に手をつける。
「あっ……」
リエットが小さく声を漏らす。
やっぱり先にリエットのを食べたほうがよかったかなと思いながらもそのままそれを口に運ぶ。
うん、見た目だけじゃなくて味もしっかりして美味しいな。
「これは美味しいね。うん、僕好みの味だよ」
それを言うとなぜかリエットが顔を真っ赤にする。
さて、次はリエットの野菜炒めだよね。
少し黒くなったそれを口にするとやはり焦げた部分が少し苦くなっている。しかし、それ以外はおかしいところはない。
焦げなくなったら完璧だろう。
「うん、味は美味しいね。焦げなくなったら完璧かも……」
思ったことをそのまま口に出す。
「はーい」
するとなぜかマナが返事する。
返事が遅れただけ? そういえばさっき卵焼きを食べた時口いっぱいに料理を頬張っていたし……。
少し疑問に思いつつも残りの料理を食べていった。
◇◇◇
三日目には今まで姿を消していたSランクパーティ、赤い星のアラン、ニーグ、ミリシアがやってきた。
その手にはやはり酒瓶が握られている。
「おい、せっかく久々に帰ってきたんだから酒場で女の子を……いててててっ」
ニーグがミリシアに引っ張られるこの状況も懐かしい。
なんだか久々に会った気がする。
「今まで何されていたのですか?」
「うーん、教えてあげたいのはやまやまなんだけど、少し秘密の依頼を受けていてね。でもそれも終わったから今日からはまたこの町にいるからね。何かあったら連絡してくるといいよ。それよりも今日は飲もうか」
アランがお酒を開ける。
そして、それをコップに注いでいくが、シィルの分には果物のジュースを入れる。
「シィル君にはまだ早いからね。こっちのジュースで我慢してね」
アランが笑みを浮かべながら言ってくる。
「……それにしても家いいよね。うちのパーティも買わない?」
ミリシアがぽつりとつぶやく。
「いやいや、僕が散々言ってきたじゃないか? それなのに稼いだお金を全部女性や魔導具に使ったのは誰だったかな?」
「……だって魔導具が呼んでるんだもん」
「女性に金を使って何が悪い!」
顔を伏せるミリシアと堂々と威張るニーグ。
それをシィルはただただ苦笑いで眺めていた。




