イルトの暴走
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爆発が起きた場所は悲惨な光景であった。周囲にある建物は半分ほどしか姿を保っておらず、所々でボヤが発生している。そして、何より目を見張るのはその中心で暴れているイルトの……イルトだったモノの姿だ。
おおよそ人としてはあり得ないその姿。背中には翼が生え、体は石のように硬く、皮膚は少し緑がかっていた。身に着けた高価な衣類は膨張した筋肉によって無残に引き裂かれ、彼をよく知るものでなければ残った衣類から王子であることを判断するのは不可能であろう。その魔物の顔はどこか恍惚としており、口からはダラダラと涎が垂れている。
「ふははははっ! これだ! これだ!! これこそが俺の求めた力だ!!!」
イルトは魔法で……またその拳で周りにあるものを全て壊していく。
「くっ、歯が立たない……。やつは化け物か……」
先に来ていた冒険者の面々がイルトと対峙していたが、その体に傷すらつけられていないようだった。
「退け! 俺がやる!」
ライヘンが前に出る。ギルド長というだけあってそれなりの力は持っているのだろう。しかし、イルトの前ではそれも赤子同然の力であった。
剣を振りかぶって近付くライヘンに対して、イルトは欠伸をしながら軽く魔法を放つ。小石程度の小さな球体。この程度なら触れても平気……と思ったライヘン。しかし、その考えが間違いだった。
その球体にはかなりの魔力が込められており、それに触れた瞬間にライヘンの顔が驚愕に染まる。そして、そのまま後方に飛ばされていった。
「ライヘンさん!?」
シィルは驚き、彼を介抱すべく前に出た。するとそれに気づいたイルトが嬉しそうに声をあげる。
「よう、ようやくきたなポーション売り……。待っていたぞ!」
なぜ自分が呼ばれるのかわからずシィルは不思議そうにイルトを見る。すると彼はそのまま言葉を続ける。
「お前に受けたこの傷の痛みは忘れたことはないぞ! お前さえ倒せば俺に敵はいなくなる――」
そう言いながらイルトが見せてきたのは以前ポーションがかかってしまった腕の部分だった。そこの部分だけは魔物のような色ではなく、普通の肌色をしていた。その部分を見せながら、尚も怒りを滾らせる。
それに少しおびえたシィルは一歩後ろに後ずさる。するとそんなシィルをかばってエリーとリエットが前に出る。
「シィルさんはやらせませんよ!」
短剣を構えるリエットと、手を突き出していつでも魔法を唱えられるようにするエリー。しかし、そんな二人をまるで気にも留めずイルトはまっすぐシィルに向かってくる。
周りにいる冒険者や兵士の人を軽々と殴り飛ばしながら――。
そんな状況におびえた兵士や冒険者たちに脱走者が出始めている。
もちろんシィル自身も逃げ出したい。しかし、それを状況が許してくれない。どういうことかシィルを目の敵にするイルト。その原因がシィルのポーション……。
「も、もしかして……!? みなさん、イルトさんの弱点はポーションですよ」
シィルの声にハッとなる冒険者たち。各々が鞄の中からポーションを取り出し、一斉にイルトに投げつける。
「ふん、そんなものが通じる……ぐぁぁぁぁぁぁ」
余裕を見せていたイルトだが、冒険者たちの投げるポーションを浴びた瞬間に悲鳴を上げた。
そして、体中から白い煙が上がり、苦しみ出す。
「な、何が起こったんだ……あいつのポーション以外は――」
そこで冒険者たちが持っている瓶を見てハッとなる。
「ま、まさかお前たちが持っているのは!?」
「んっ、普通のポーションだが? ギルドで購入した。これを使うと調子がいいんだよな」
「お前もか、俺もそうなんだ。ただすぐに売り切れちまうんだよな」
すでに動くだけの余裕のないイルトを見て冒険者たちが騒ぎ出す。
最近リエットがやたらとポーションを買っていっていたのはこういう事情があったのか。調子がよくなる成分なんて入っていないんだけどね……。たまたまよくなった人が噂でも流したのだろう。
シィルも苦笑いをしながらも、少しホッとしてその話を聞いていた。
やがて煙が収まると、イルトは元の人間の姿に戻り、力を失って倒れ伏していた。
するとすぐにミグドランドさんの兵士に拘束されていた。
「俺の……俺の計画が……ポーション売りめ……覚えていろよ……」
兵士に捕まったイルトは恨み言をシィルに吐きながら連行されていった。
えっと今自分が絡む要素ってあったの? だってポーションが弱点だったってだけだよね?
そう呟くシィルに、リエットはやれやれと首を横に振るばかりであった。
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