脇道
先ほどの爆発音で少し慌ただしくなっている街道をシィルたち四人が駆けていく。しかし、逃げ惑う人たちが障害になり中々先へと進めない。すると街道沿いにあるお店から小さな少年が飛び出してくる。
「兄ちゃん、どうしたんだ?」
エプロン姿で手に野菜を持ちながらシィルたちに話しかけて来たのはライだった。
「うん、急いでユーグリッド様の館に行かないとダメなんだけど、人が……」
すでにまともに走ることもできない。
あれっ、そういえばどうやってライは自分たちに追いついたのだろう?
シィルは不思議に思うがその疑問はすぐに解決される。
「わかったよ、それならこっちだ。付いて来て!」
ライは街道から逸れる道を走っていく。
「そっちは遠回り……」
言われたように追いかけながらも明らかに遠回りをしていくライに言う。
「いや、これだけ人がいるんだ。まともな道だと慣れてない兄ちゃんたちは時間がかかる。俺一人ならなんとかなるんだけどな」
そのまま路地裏の少し薄暗い通りを駆けていく。元が人通りの少ない道……確かにここを通るのならあまり人は気にしなくて良さそうだ。
でも、普段から通らないようにしてる理由は、あまり治安の良い場所じゃないからなんだけど、大丈夫なのかな?
少し不安に思いながらシィルたちはライを追いかけていった。
◇◇◇
しかし、意外なことに裏道では特に困ったことも起きず、結果的にユーグリッド様の館に早く着くことができた。
「ありがとう、ライ。助かったよ」
「こんなこと、兄ちゃんにしてもらったことに比べたら安いもんだよ。また何かあったら言ってくれよ!」
それだけ言うとライはそそくさと去っていった。
もしかするとこういった貴族街は居心地が悪いのかもしれない。
ライを見送ったシィルたちは早速館の中へと入る。
すると、そこにはすでに剣や鎧で身を固めた兵士たちやミグドランドの姿があった。そして、その後ろには第一王子のアルタイルと王女のマリナの姿もあった。
きっといち早く安全を確保したのだろう。
ただそうなるとあと一人……第二王子イルトの姿がないことが気になる。
そう思いながらシィルはミグドランドへと近づいていく。
「シィル君、こんな時にどうしたんだい? 用がないなら後で……」
「いえ、ギルド長から街で爆発があったことを伝えて欲しいと……」
「うん、わかってる。そして、それを起こしたのが第二王子イルト様と言うことも……」
えっ!?
シィルはかなり驚き口をぽっかり開けてしまう。
「ど、どうして?」
「それはわからない。ただ見たものによると人の形相をしていなかったらしい。もしかしたら魔のものに魅入られたのかも」
魔のものに魅入られたら姿形が変貌し、その姿は魔物に近づくらしい。そして、そうなると元に戻すことはほぼ不可能になる。まだ完全に変貌していないなら可能性は残されているが……。
そこでシィルはふと、先日イルトと会ったことを思い出す。
確かにあの時、ポーションが肌にかかると煙を上げるおかしな状態だった。もしかしたらあの時から変化は始まっていたのかも……。
もしあの時に誰かに話していたら治っていたかもと考えると悔やんでも悔やみきれない。
「姿形が変わるくらいまでいってしまってはおそらくもう手遅れであろう。そのために今はこうして討伐隊を組んでいるところだ。いや、実際に会って見て可能性があるなら…… 一応シィル君も私たちの後に来てくれるか? ここや街中では危険があるかもしれない。王子様や王女様も一緒に来てもらうんだが……」
それが一番安全ならそうしたほうがいいよね?
少し考えるとシィルは一度頷く。するとその回答に満足したミグドランドが小さく微笑む。
「よし、それなら早速出かけるよ」
ミグドランドが兵士たちと一緒に先を行く。アルタイルだけは少しご不満なようだが。
「どうして俺が後ろで控えているだけなんだ!」
確かに見るからにけんかっ早そうだもんね。
自分に被害が出ないようにアルタイルとは少し距離を開けておく。すると今度はマリナが話しかけてくる。
「シィルさん、何かあったら私の後ろに隠れてくださいね。こう見えても私、強いですから」
マリナがその細い腕で殴るポーズをする。
うん、あまり強そうには見えない……。いざというときは自分が動かないといけないかも……。
少しシィルの顔が強張る。すると隣でリエットが脇腹を突いてくる。
「緊張しすぎだよ。何かあっても私たちがいるから大丈夫だよ」
リエットがエリーに視線を送る。すると彼女も小さく微笑んでくれた。
「うん、わかったよ。それじゃあいこう」
シィルたちもミグドランドに遅れないように少し早足気味に彼らを追いかけていった。
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