策謀
やはりあいつがそうだったんだ!
アルタイルは少年の家から出たあと、宿の方へと駆けていった。
するとそんな彼を呼び止める声がする。
「お兄様? どうかされましたか?」
その声の主はマリナであった。
「マリナか……お前の探していたポーションだが――」
「シィル様のことですか? 何かあったのですか?」
先ほど見つけたシィルのことをマリナに伝えようとしたのだが、彼女はすでに知っているようだった。
「お前……どうしてそれを?」
アルタイルすら先ほど見つけたばかりだ。それをどうして先に知っているのか?
少し疑問に思ったアルタイル。
顎をさすり今までのマリナの行動を考える。
「そういえばこの町に着いてからすぐどこかに行っていたな? どこに行っていたんだ?」
「お兄様には関係ありませんよね?」
少し高圧的な部分のある兄に対しても一歩も引かないマリナ。
そんな彼女の態度は昔からだ。
アルタイルは少しため息を吐き、マリナに背を向けた。
「何しているかわからねーがあまり危険なことはするなよ」
それだけ告げると手を上げて去って行った。
◇◇◇
アルタイルが去って行ったのを確認したマリナはホッとため息を吐く。
自分の兄とは言え、あの威圧……どうしても緊張してしまう。
もし兄にシィルさんのことを詳しく知られたら……いえ、彼のことは見つけてきたようですけど、彼に抱くこの淡い気持ちがばれてしまうと……。
昔、マリナが死にかけていたときに父が持ってきた薬……。
なんでもシィルという少年が作ったもので、どんな怪我病気でも治す効果があると私にだけこっそりと教えてくれた……。
最初はあまり信じられなかったものの、実際に飲んでみるとその効果は確かに絶大で、あっという間にその病気は治ってしまった。
ただ、それ以降シィルという少年のことを尋ねても一切教えてはくれなかった。幼心に想いだけをつのらせる日々……。自分は王女、将来は政略結婚させられるものと思っていた。
そして、今回の街の巡行。
ただあちこち見て回るだけだと思っていたのだが、とある冒険者が持っていた薬を見て心臓が破裂するかと思った。
それはなんでもシィルという少年が作ったポーションらしい。
ただの冒険者なら眉唾物と断じるところだが、そのポーションを持っていたのはかの有名な『赤い星』のアインヘッド・ラグズリーであった。
彼ほどの人物が嘘を吐くはずがない……。つまり、この町に昔自分を救ってくれた彼がいる……。そう考えるといても立ってもいられずにアインにその少年がどこにいるのかを聞いてしまった。
本来ならあんまり会うのはよくないのかもしれない。
それで一度会うだけのつもりだったのだが、憧れの人物……ついつい話してしまった。
すると幼い頃から抑え込んでいた想いが爆発する。
アインの話では、シィルはこの町で結構有名な人物のようだ。それはマリナにとっては好都合かもしれない。
基本的にマリナには政略結婚しか認められない……。しかし、彼がどんな病気でも治す薬を作れる人物で有名人ならば……。あとは手柄の一つでも立ててくれたなら、自分との結婚を父も認めてくれるかもしれない。
まぁ最後はシィル自身の気持ちもあるだろうけど、自分なら……。
王女であるので婚約となると相手にもそれなりの地位が必要になる。そして、マリナは控えめながらも自分の容姿には自信があった。。
ただ、この町で手柄につながるような問題なんてそうそう起こらないですよね……。
マリナはため息を吐いて空を見上げた。
◇◇◇
アルタイルは一人になって妹のことを考えていた。
本人は隠しているようだが、あれはどう見てもポーション売りのことを気にしていた。
王女という立場じゃ惚れた腫れたで一緒にはなれない。ただ、あれだけの力の持ち主なら可能性はあるだろう。あとは『誰か』が後押しすれば……。
しかし、力はともかく、そこまでして王家に取り込むべき相手なのか……、まだシィルと会ったばかりのアルタイルは彼を測りかねていた。
とそんな時に遠目にエリーの姿が見える。さっと側の草むらに隠れる。
するとそこにいたのは賢明そうな彼女ではなく、顔を染め、明らかに隣の人物に気があるような雰囲気を見せている彼女とかであった。
本当ならその視線は自分に向けられるべきなのに……。すこし腹立たしい気分になる。
一体相手は誰なのか?
もっと顔を出し、その人物を見る。
そこにいたのはあのポーション売りであった。
あいつがどうして……いや、あのポーション売りならマリナの気持ちを利用すればエリーから引き離すことができる。そして、傷心の彼女に近づけば……。
ほくそ笑むアルタイル。
それなら作戦を考えないとと彼らに気づかれないように急いで宿へと戻っていった。




