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訪問

本日三話目。ブクマ5,000記念更新

「くそっ! あのガキ! 何であんなやつにまで笑顔を振りまかないといけないんだ!」



 ギルドから出た後、誰も見ていない場所で第一王子、アルタイルは悪態をついていた。



「お兄さん、まだ誰が見ているかわかりませんよ。あまり人前でそんなことを言うもんじゃないです」



 先ほどから変わらぬ笑みを浮かべながら兄をたしなめる第二王子、イルト。

 表情を読み取れず、何を考えているのかがわからない彼をアルタイルは不気味に感じていた。



「それでも腹が立つものは仕方ないだろ! あーっ、なんで俺があんなガキに……」



 自分の頭を掻きむしるアルタイル。

 そんな兄二人を見てマリナはため息を大きく吐く。

 アルタイルは王都でも度々トラブルを引き起こし、国王でもあるマークリッドに何度もたしなめられていた。

 その一方イルトは表だった問題は起こさないのでマークリッドなどにかわいがられていた。

 ただ、表には出ないだけでアルタイルを巧妙に操っているのはイルトだと言うことをマリナは知っていた。



「次は貴族のユーグリッド様との謁見です。この町では有力な者ですからあまり悪態は吐かないでくださいね」



 アルタイルが怒らない程度に注意喚起をおこなっておく。

 しかし、マリナの言葉なんて耳に入っていないのか、あたりに並べられた鉢やタルに八つ当たりをしていくアルタイルを見て、再びマリナは大きなため息を吐くのだった。




◇◇◇




 もしかしたらユーグリッド邸で暴れるかもしれない。

 そんな不安がマリナの胸によぎっていたが、意外なことにアルタイルはここではおとなしかった。



「あ、あの……、此度は突然の訪問にもかかわらずこのような……、その……」



 あまり人前でかしこまることのないアルタイルだが、ここでは体を縮こませ、慣れない言葉で話そうとしていた。

 その理由は向かいに座る少女だろう。

 純白のドレスに身を包んだエリー。彼女が微笑むたびにアルタイルはだらしなく頬を緩ませていた。

「いえ、お気になさらず。私の方こそあまりたいしたおもてなしが出来ず申し訳ありません」



 頭を下げるミグドランド。それに習うようにエリーも頭を下げるとアルタイルは慌てだす。



「そんな……、気にしなくていいです。顔を上げてください」

「ありがとうございます」



 ミグドランドが顔を上げるとそれに習ってエリーも顔を上げる。

 するとそのタイミングでエリーが少し咳き込む。



「大丈夫か? まだ無理をしなくても……」

「いえ、大丈夫ですから……」



 ミグドランドが少し心配をして小声でエリーに話しかける。

 しかし、彼女は首を横に振って無事をアピールする。



「どうかされましたか?」



 アルタイルがエリーのことを心配する。



「いえ、エリーは少し前に難病が治ったところでして……。まだ体調が本調子ではないのですよ」

「なんと!? 難病を……ですか?」



 さすがにその言葉にアルタイルはおろか、イルトも驚きを隠しきれなかった。

 ただ一人、マリナだけは驚いていなかったが。



「はい。それも最近とあるルートから入手しました薬によって完治したのですけど、元々体の弱い子なので――」



 体調は治ったと聞き少し安心するアルタイル。

 それがわかると次に気になってくるのはその薬を入手したルート……その話が出ることはミグドランドは想定済みであった。

 そのためにたくさん彼のポーションを買っておいた。

 これからも定期的に入手できる。エリーに必要な分を除いても、このポーションは十分すぎる外交手段となるだろう。

 細く笑むミグドランド。そして、彼の想定通りの質問をイルトがしてくる。



「ちなみにそのルートというのはどのようなルートで?」

「それはそのものとの取り決めで大きな口では言えないのですよ。私も治してもらった手前、はっきりと言えなくて……」



 嘘を織り交ぜつつ、交渉の有利に立とうとする。



「ですが、その薬だけはいくつか準備してあります。よろしければ何本か差し上げましょうか?」



 ミグドランドのその言葉にイルトの目が光る。



「では、一本でかまいませんのでいただけますか?」



 やはり食らいついてきたとミグドランドは心の中でほくそ笑む。

 しかし、それは表情に出さないようにして、エリーに頼む。



「それじゃあ、彼の薬を持ってきてくれるか?」

「はいっ、お父様」



 エリーが立ち上がり、薬がおいてある倉庫へと向かおうとする。

 しかし、その立ち上がった瞬間に足下がふらつき倒れそうになる。



「危ない!!」



 それにいち早く気がついたアルタイルは彼女が倒れないように体を支える。



「あ、ありがとうございます」



 小さくお礼を言うエリーにアルタイルは一瞬固まる。

 しかし、すぐに覚醒すると手を振り、彼女から離れる。



「気にしないでください。王族として当然のことをしたまでです」



 そして、アルタイルは自分の席に着く。


 しばらくして、エリーがポーションを一本持ってくる。



「ほう、これが……」



 イルトが興味深げにそれを眺める。

 そして、一瞬口元をつり上げていた。ただ、それもすぐのことなので誰も気づいていなかった。



「ではこれで僕達は失礼しますね」



 ポーションだけもらうとイルトはさっさとこの館を出て行こうとする。



「おい、まだ話が……」

「あまり長居をするのも迷惑になりますよ」



 それを聞くとアルタイルは言葉に詰まる。

 可憐で儚げなエリーに迷惑を掛けるのはよくないと感じ、イルトの考えに同調する。



「そ、それもそうだな。では今日の所は失礼する」



 アルタイルたちはさっさと出て行ってしまう。

 しかし、マリナ一人だけその場に残る。

 さすがに一人だけ残っているのを不思議に思ったミグドランドが声をかける。



「どうかされましたか?」

「いえ、さっきのポーション……シィルさんの?」



 どうやら彼女はシィルのことを知っているようだった。



「えっと、どうして彼のことを?」

「どうしてでしょうね?」



 微笑みながらそれ以上何も言ってくれないマリナ。それから頭を下げて二人の兄を追いかけていった。


 それを呆然とみていたミグドランドはとある噂話を思い出していた。

 幼少の王女がとある病気で命の危機に瀕したが、そのときに手に入れた薬で一命を取り留めたという話を……。

 それ以来積極的に姿を見せるようになっていた王女には病気だった過去を微塵も感じさせないため、流言飛語の類かと思っていたが――。



「もしかして、王女様の病気を治したのはシィル君のポーション? いや、でもそれなら国王様が彼に多大な恩賞を与えていてもおかしくないはず……。いや、正体がわからずに薬だけ手に入ったとかか?」



 答えの出ない問いを自問自答し続けるミグドランド。しかし、いくら考えてもやはり答えは出なかった。


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