王子来訪
本日二話目
別の薬……考えたことがなかったわけではない。
しかし、その作り方も知らず、売れ行きもポーションが一番いいみたいなので他の物を作ろうとしたことがなかったのだ。
「僕はこのポーションしか作れなくて……」
「よろしければ私が教えて差し上げましょうか? 実際に作ったことはありませんけど本では見たことがありますので」
まさかの申し出にシィルは少し考える。
シィルにとってはありがたい申し出だが、見たこともない相手にそんなことを教えるだろうか?
そう考えると何か裏があるのではと考えてしまう。
「一体何が目的ですか?」
「目的? いえ、私はただあなた様のお役にたちたいだけですよ……」
笑みを見せながら答える少女。
裏がある様には思えないが、ますます彼女のことがわからなくなった。
しかし、教えてもらえる物は教えてもらったほうがいいのではと考えを改め、せっかくなので教えてもらうことにした。
「では教えてもらってもいいですか?」
「はいっ、喜んで」
シィルの方が教えてもらう側なのに少女がとても嬉しそうに答えてくる。
そして、たまにシィルの方を見るとにっこりと笑みを見せる。
まるでその態度は以前少しあったことがあるような……そんな感じであった。
◇◇◇
そして、少女に別の薬の作り方を教えてもらった。
ただ、少女が知っているのはあくまでも本で仕入れた知識だったので、素材の形や色、臭い等の物を判別する情報はわからなかった。
「すみません、まだまだ勉強不足でした……」
シィルの質問に答えられず、少女は少し落ち込んでいた。
「い、いえ、本当に助かりました。ありがとうございます」
完成には至らなかったものの、一方的に教えてもらうばかりのシィルは少女にお礼を言う。
「いえいえ、お役に立てれば私も嬉しいです。あっ、私のことを言っていませんでしたよね? 私はマリナといいます」
少女が手を差し伸べる。
「えっと、僕は……」
マリナの手を取り自分も名乗ろうとしたのだが、少女の言葉に遮られる。
「シィルさんですよね。存じ上げております」
それだけ言うと少女は去って行った。
やっぱり知り合いだったのか? でも名前を言っていったってことは……。
シィルは首を傾げ、少女が去って行った方角をただ眺めていた。
◇◇◇
必要なポーションを作り終えた後、教えてもらった薬を作ろうかと素材を探し始めてみる。
ただ、今の情報だけでは完全に作りきることは出来なかった。
「うーん、毒のある草……そもそも毒がある草なんてわからないよ」
必要な素材はポーションの物と、毒がある草。
少女が知っていた情報はこれだけだった。
毒がある草はそれこそ無数に存在している……。
一体どれを使うのが正解なのか、それが全くわからない。
「とりあえず今は保留にしておこう。また、見つかったら作ろうかな」
今できることを優先しないとね。ポーションを百本……、早く準備しよう。
◇◇◇
そして、ようやく瓶が準備できたシィルはギルドへと向かう。
するとギルドの前にはたくさんの人だかりが出来ていた。
それも女性ばかり……。
「あっ、シィルくん……、こっち、こっちから入ってきて」
建物の裏の方からリエットが手招きをしている。
さすがに表からは入れないのでリエットの方へ向かう。
「い、一体あの人だかりは何なの?」
「前の手紙……ほらっ、ギルド長が見せていたやつ……」
手紙……あっ!
前に見せてもらったやつと言えば王子たちが来るという物だった。
つまり今ここにその王子が来ていると言うことだろうか?
「王子様たちが来るというやつだよね? ただ、どうしてギルドが?」
「ギルド長は元々王都の出身らしいよ。もしかすると知り合いなのかも――」
中には入れてもらったけど、そこは受付の人たちがいる職員専用の部屋であった。
そして、ホールの方を見てみるとそこには長めの銀髪をした青年と同じく銀髪だが、肩ほどの長さの青年、あとは昨日あった少女がいた。
「あっ、あの子は……」
「な、なに? シィル君の知り合いなの?」
シィルが反応するとそれにすぐ食いついてくる。
「うーん、知り合いと呼べるほどの仲かはわからないけど、向こうも僕のことを知っていたし……どうしてだろう?」
さすがに自分に王族の知り合いがいるとは思えない。
シィルは首を傾げていた。
するとそのときに厨房の方からたどたどしい足つきで飲み物を運ぶマナの姿が見えた。
王族に運ぶと言うことでその手は震え、見ていてハラハラとさせられる。
「あっ……」
マナが何もないところで足を躓かせる。
それと同じタイミングでリエットが小さく声を漏らした。
しかし、少し離れた場所からでは助けることも出来ない。
結果、マナが運んでいた飲み物はあらぬ方向へ放り投げられ、その一つが第一王子の頭の上に落ちる。その瞬間、まるで鬼のような形相を見せる第一王子。
ただ、それも一瞬ですぐに笑みに戻ったのでシィルには見間違えしたのかなと思わせた。
「も、申し訳ございません、申し訳ございません」
マナの頭を下げさせ、ギルド長と厨房の料理長が何度も頭を下げる。
「いえいえ、たまにはそういうこともありますよ。私は気にしていませんのでどうか顔を上げてください」
ニコニコと微笑みながら第一王子が言う。
それをみてホッとした様子を見せるマナと料理長。
ただ、ギルド長だけは少し渋い顔を見せていた。




