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勝負の行方

本日四話目

 シィルが目を覚ますとマナのいたベッドはすでにもぬけの殻であった。更にソファで眠っていた自分に毛布がかぶせてあった。

 これはマナに掛けてたものだ。つまり、彼女が起きた時に自分にかけてくれたということだ。彼女なりに感謝してくれたのだろう。

 そう思い、朝のポーション作りに繰り出していく。


 そして、ポーションを作り終えるとその足で冒険者ギルドへと向かう。するとギルドの前でいつものごとくリエットが待っていた。そして、彼女はシィルの姿を見ると小走りで近づいてくる。



「シィルくん、昨日の結果が出てるよ。聞きにくる?」



 シィルがポーション用にと採取していた薬草は全てマナのカバンに入れておいた。これを合わせたらあのマナって子の勝ちってことは聞かずともわかる。

 まぁ結果くらいは聞きに行ってもいいな……。

 シィルはリエットに続いて冒険者ギルドの中へと入って行く。


 ギルド内にはすでにアランたちやエリー、マナの姿があった。あとは発表を待つだけ……といった感じである。

 するとギルドの奥からライヘンが姿を見せる。



「よく集まってくれた。お互いたくさんの薬草を集めてくれて助かったぞ。これでしばらく薬草採りの不人気な依頼を出さなくても……いや、何でもない」



 つい口を滑らせてしまったライヘンにシィルは苦笑を浮かべる。あまり冒険者っぽい依頼じゃないから不人気なのも仕方ないだろう。



「では結果を発表しよう……」



 意味深に間を置くライヘン。腕を組み、ジッと言葉が告げられるのを待つマナ。

 昨夕の採取数にシィルが譲った薬草を加えたら、結果は当然マナたちの勝ちになるはず……。

 目を閉じてそう言われるのをジッと待つ。しかし、ライヘンから告げられたのはまったく違う結果であった。



「僅差ではあるが、この勝負はシィルたちの勝ちだ!」



 その結果はシィルを驚かせたが、当のマナは当然と受け入れているように見える。



「えっと……、どういうこと? 僕の薬草を加えても足りなかったの?」



 困惑するシィル。すると、マナが彼に近づいてくる。



「マナはまだ力不足だったみたい。お爺ちゃんの考えをちゃんと理解していなかったもの。もっと自分に自信が持てるようになってからまた勝負してくれるかしら?」



 手を差し出してくるマナ。そこにはシィルが渡した薬草が握られていた。

 どうやらこの薬草は採取してきた分として提出しなかったようだ。

 マナと薬草を何度も見比べて、ここは受け取るべきかなと判断したシィルはそのまま薬草を受け取る。



「うん、その時はまた相談に乗ってあげるよ。でも、僕は冒険者じゃないから……その……勝負は勘弁かな」



 昨日、ウルフ相手に何もできなかったことを思い出し、少し苦笑いするシィル。それを見たマナは微笑み、手を上下に振ってくる。



「どうしたの?」

「少ししゃがんでくれる?」



 マナは顔を赤くしながら言ってくる。

 何をするのだろうとマナの目線の高さまで腰を落とすと彼女はゆっくりとシィルに近づいてくる。

 そして、頬に感じる柔らかな感触……。



「あっ……!?」

「うそっ……!?」



 エリーとリエットの驚きの声があがる。シィルはその感触を受けた頬を触り、ゆっくりと顔を染める。

 マナも真っ赤な顔をして、両頬に手を当てていた。



「色々とありがとうね。これはお礼だから!」



 お礼という部分を強調して言ってくる。



「あ、うん、そう……だよね。あはは……」



 思考が追いつかず、ただ乾いた笑みを浮かべるシィル。するとまるで見せつけるかのようにエリーがシィルの腕を取ってくる。



「冒険者にならないのでしたら、これからどうされるのですか?」



 一応エリーなりに心配しているのかもしれない。確かに住んでいるのはこの町ではなさそうだ。今までこの町に住んでいたシィルはマナのことを知らなかった。



「うーん、しばらくはこの町にいようかな? 色々と学びたいこともあるからね」



 マナは指に手を当て、少し目を細めてシィルのことを見る。

 ただ、そうなるとお金を稼ぐ方法が必要になるよね?



「それならうちで働かない? 冒険者になるのは規定で15歳からだけど、ここなら他にも仕事あるよ。そっちなら大丈夫ですよね?」



 リエットが確認を取る。



「確かにそうだね。今ならちょうど給仕の人を募集しようとしていたんだ。それでよかったらどうだい?」



 給仕……。あぁ、ここは酒場も兼ねてるからお酒を配ったりするのか。確かにそれなら年齢関係なく出来るし、お金ももらえる。



「どうしよう?」



 少し迷うマナはシィルを横目で見てくる。意見を求めているのかもしれない。

 そう感じたシィルは自分なりの考えを伝える。



「せっかくだからやって見たら? ここなら色んな冒険者の人が来るし、仲良くなっておくと後々役に立つよ」

「そう……それならやってみようかな」



 マナが乗り気になってくれた。

 これでこの件は解決かな?

 なんだかただのポーション売りの自分が変に動いてしまったけど、結果的にいい方向で解決してよかった。

 憑き物が取れたような柔らかい笑みのマナを見て、シィルもどこかホッとした。

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