マナの決意
本日三話目。一万ポイント突破記念更新です
なんでこの人はこうも付きまとうのよ! ただギルドの近くで目に付いた中から弱そうな人を選んだだけなのに……。
マナは心の中で悪態をつきながらも薬草の採取に集中する。
既に周囲は明かり無しでは何も見えないほどの暗さになっており、それに気づいて初めてシィルのありがたさを理解する。
「さすがにそろそろ戻らない?」
「まだ帰らないわよ! あんたが一人先に帰るといいわよ」
ツンケンとした態度で接してしまう。しかし、シィルは何も言わずに隣で同じように薬草を採っていた。
辺りが真っ暗になって明かりがないと目の前もわからない状態なので、もし帰ると言われたら困っていたのだが、まだいてくれるようだ。マナは少しホッとしながらもそれを顔に出さずに薬草探しを続ける。
◇◇◇
「どうしてそこまで冒険者にこだわるの?」
それはおそらく何気無い質問だったのだろう。ふとシィルの口から飛び出したその言葉……しかし、マナはその言葉で昔のことを思い出してしまった。伝説の冒険者とまで言われた自分の祖父がいなくなるその日のことを……。
「マナは……マナは……おじいちゃんがいなくなった時から、代わりにマナが冒険者に……伝説の冒険者になるって決めたの」
マナは感極まって目に涙が浮かぶ。するとシィルは何かを考え込むように口に手を当てていた。
「その伝説の冒険者ってマリウスって人だよね?」
ようやく絞り出した言葉がそれだった。その人物で当たっているのでマナは小さく一度頷いた。そして、さらに悩み出すシィル。その顔は何度も自分のカバンの方へと向けられていた。
「これだけあれば……うん……」
少し悩んでいたようだが、何か決意を固めて強い目をマナへと向けてくる。
「あの……、これを――」
シィルが自分のカバンを差し出そうとしたその時、エリーが声を上げる。
「シィルさん、魔物が!」
少し慌てた様子のエリー。彼女の指差す方向には狼型の魔物であるウルフが一体いた。アランたちが倒したキングウルフの集団の一体が生き残り、彷徨っていたのだろう。でもただのウルフならとエリーは手を前に出し、シィルはポーションを取り出す。
「僕たちができるだけ時間を稼ぐからその間に逃げて!」
それだけ言うとシィルはエリーの近くへと向かって行った。
「ファイアー!!」
エリーは炎の魔法を唱える。差し出した手からは手のひらより少し大きいサイズの火の玉が飛び出し、それがまっすぐウルフめがけて飛んで行った。が、その直線的な軌道はウルフにも簡単に避けられることを意味していた。
ウルフは火の玉を余裕を持ってかわすと、そのままシィルたちめがけて駆け出していく。
魔法使いと戦えないポーション持ち……。
この場を彼らに任せてしまったら自分は一生冒険者を名乗れない。初めての魔物相手で体は強張っている。しかし、ここは行かないと!
震える自分の体に喝を入れて、マナはまっすぐウルフへと駆け出していく。
さすがにこの行動はシィルたちも予想外だったようだ。しかし、彼らの反応が遅れたおかげで先に魔物へとたどり着くことが出来た。
「喰らえぇ!!」
グッと足を踏みしめて気合のこもった拳をウルフのお腹に食らわせる。さすがのウルフもその一撃はまともに浴びてしまう。
冒険者になるために体を鍛えているとはいえ、少女の拳はウルフにろくなダメージを与えられなかった。しかも、それがウルフの癪に触ったようでそのまま長い爪でマナの体を引き裂いてくる。
「ぐっ……」
燃えるような痛みがマナを襲う。そして、その場に倒れてしまう。
しかし彼女の危機は好機ももたらした。ウルフの意識がマナに向いた僅かな隙をついて、もう一度エリーが魔法を唱える。
「ファイアー!!」
反応が遅れたウルフはその火球に身を包まれる。
「ぐるぁぁぁぁ!!」
ウルフは最後の力を振り絞り、大きな咆哮を上げ、そのまま絶命していった。
そして、シィルは慌ててマナのそばによる。
「気休めにしかならないかもしれないけど、ポーションをかけるよ!」
それだけ言うとシィルは直接傷口にポーションを掛ける。暖かく優しい光に覆われるマナ。
しかし、この感じは以前どこかで……。
和らいでいく痛み……。
……あっ、そうだ。以前自分が大怪我した時に祖父が持ってきた薬……、あの感覚に似てるんだ……。そんなものが使えるってことはこの人は祖父の知り合い? となると祖父が本当に伝えたかったのは冒険者として名を上げることじゃなくて人を救う人物になれと言うことだったの?
薄れる意識の中でマナはそんなことを思っていた。
◇◇◇
次にマナが目覚めたのはどこかのベッドだった。
そばのソファでシィルが寝ていることを見るに、彼がここまで運んでくれたのだろう。そして自分のベッドを貸し与えてくれた。
ウルフに切り裂かれたお腹のところを触って見る。傷一つ感じられない。実際に服をめくってみるが、やはり傷の一つも残っておらず、完全に治っていた。
「すごい……」
どう考えてもただのポーションでは治るはずのない傷。でも、この人が祖父の教えを受けたすごい人なら話は別だよね?
だんだんとシィルを見る目が変わってきてるのを感じる。彼に目を向けるとなぜか頬が熱くなる。
それを隠そうと自分のカバンに目を向けると明らかに自分で採取した以上の薬草がそこにあった。
そういえばウルフが現れる直前、彼はしきりとカバンを気にしていた。もしかして、自分に薬草を渡してくれようとしたのか?
自分のことより人の心配をしてくれる彼に思わず目頭が熱くなる。しかし、それを腕で拭うと一つ決意する……。




