薬草採取
本日二話目
翌日、ギルド前でアランたちの到着を待つ。
するとようやくやってきたアランがいきなり頭を下げてくる。
「ごめん、シィル君。ニーグだけがどうしてもダメだったよ」
まぁ昨日の今日だもんね。何か予定があったらしかたないか。
「いえ、気にしないでください。僕の方も無理に頼んだわけですから」
でも人数が後一人足りないのか……。Sランクの二人がいれば問題ないとは思うけど……。
シィルは顎に手を当てて少し悩む。するとそんなシィルの側にエリーがやってくる。
「それなら私が手伝いましょうか?」
もう体調はいいのだろうか?
という疑問は残るものの顔色はよく、見た感じ元気そうなので問題はないようだ。
「うん、ありがとう。ただ無理はしないでね。何かあったらすぐに休んでくれていいから」
エリーが頷くのを確認する。その後、アランたちの方を見ると彼らも頷いてくれていた。彼らもエリーが加わることに反対意見はないようだった。
これでなんとか四人……。相手のマナは一体どんな人を連れてきたのだろうか?
シィルはマナがいる方を見る。するとそこに立っていた一人は見知った顔だった。
「なんでニーグがそっちについてるんだ!?」
アランが驚きの声を上げる。一方のニーグは前髪をかきあげ、白い歯をマナに見せつけながら言ってくる。
「なぜってお嬢さんに頼まれたからさ。先に頼まれた以上断るわけにはいかないよ」
「……そう。なら遠慮はいらないわね」
小声でミリシアが呟く。その目の奥は笑っていないようだったが、ニーグは全く気づいていなかった。
「あはははっ……、ま、まぁ彼はミリシアに任せるといいよ。後のメンバーは問題なさそうだね」
アランが苦笑しながら二人が睨み合っているのを眺めていた。するとライヘンがシィルたちの中心にやってくる。
「お互い人が揃っておるな。ならこれからしてもらう依頼を発表しよう」
ライヘンが掲げた紙を食い入るように見つめる。そこにははっきりとこう書かれていた。『薬草の採取。量はあればあるほど良い』と……。
あれっ? 依頼ってそんなことだったの?
それなら自分にもできそうだとホッとするシィル。アランたちも「昔、よく採る数で競い合ったな」と懐かしんでいた。
しかし、ただ一人顔を真っ赤にして憤慨してる人物がいた。
「な、なんでそんな依頼なのよ! 冒険者と言ったら普通は魔物討伐でしょ!」
ライヘンに詰め寄るマナ。しかし、彼は涼しい顔をしていた。
「魔物の討伐はギルドの中でも実績のあるパーティか数で攻めるかのどっちかをとるに決まってるだろう? もし討伐に失敗してしまうとどれだけ被害が出るかわからないからな」
確かにライヘンの言っていることはもっともだなと感心するシィル。しかし、マナはそれでも納得できないようで食い下がっていく。
「だいたい薬草採取で差が競えるはずが……」
「やってみるといいよ。それですぐにわかるから」
「……それもそうね。私が勝てばそれでいいんだもんね」
渋々だがようやくライヘンに食い下がるのをやめる。それを他の人たちは苦笑いで眺めていた。
◇◇◇
町の外に出ると早速シィルたちは薬草採取を始める。
毎朝している薬草採取がこんなところで生かせるとは思わなかった。
ただ、ポーションに使える薬草だけは自分のカバンへ……。
い、いや、そんなことをしていたら負けるかもしれないよね。
涙を飲んで分けるだけにとどめておいた。
「ミリシア、お前には負けないぜ!」
「……それはこっちのセリフ」
ニーグとミリシアはお互いが競い合ってかなりの数の薬草を採取している。それを苦笑しつつアランもどんどんとその数を増やしていった。
「なんで私がこんなことを……」
ぐちぐちと言いながらも薬草を採る手は緩めないマナ。ただその速度はあまり早くない。あまりやり慣れていないのかもしれない。
ただ、それ以上にエリーはゆっくりとした動きだった。
まぁ昨日まで寝込んでいたんだし、あまり無茶されても困るか……。そのぶん自分たちが頑張ればいいよね。
シィルも気合を入れて薬草を採取していく。
◇◇◇
それからシィルたちはそれなりの数を採取し続け、気がつくと町から少し離れてしまった。
「そろそろ戻りますか?」
日も暮れ始めたのでシィルがそう提案する。そのカバンの中にはすでに入りきらないほどの薬草が見え隠れしていた。
「うん、そうだね。僕たちはそろそろ引き上げようか。ミリシアは異議はないよね?」
アランが聞くとミリシアは小さく……しかし、得意げに頷いた。
「お、俺はまだ……いてててっ」
まだ採取を続けようとしたニーグはミリシアに頬を引っ張られていく。しかし、マナだけは帰ろうとしない。
「まだよ。まだ……」
それもそのはずだ。
目に見えてわかるほどシィルたちとマナたちの採取量に差があった。それはシィルが自分用の薬草を除けているにもかかわらず……だ。
「もう結果はついたよ、戻ろう」
シィルがマナに告げるが、彼女は脇目もふらずに薬草を採取していた。
「まだ帰らないわ! 私は負けるわけにはいかないもの……」
彼女にも何か事情があるのかもしれない。
「うん、それなら気がすむまで採取しようか。すみません、アランさんたちは先に帰ってもらえますか? 一応ギルド長には僕とこの子が残ってることだけ伝えてください」
「あ、あんたも残らなくていいわよ!」
マナは顔を真っ赤にして否定してくる。しかし、日が落ちたあとこの辺りは真っ暗になってしまう。さすがにそんなところにこの少女を一人残すことはできなかった。
「いえ、僕ももう少し採取したかったんですよ……もちろん自分用の薬草なので依頼の方には関係ありませんが」
「そう……、なら勝手にするといいわ」
マナが承諾してくれたのでシィルはアランたちに目配せをする。
「わかったよ……。後のことはよろしくね」
それだけ言うとアランたちは町へと戻っていった。ただ一人、エリーだけはその場に残ったままだったが……。
「どうしたの? エリーも先に帰っていいよ?」
「いえ、私もまだ残ります。辺りが暗くなってきたら明かりをつける人がいりますよね?」
そう言って指先に光魔法で明かりを灯すエリー。それを見たシィルはしょうがないなと言った感じに頷いた。




