4話ー戦い
中学生の頃1度、交通事故にあったことがある。2人を巻き込むの大きな事故だったらしい。後になってわかったことだが、その時俺は、6針縫う重症だったそうだ。どうして事故になったのか、俺は思い出すことができなかった。部分的な記憶喪失というやつだ。でも今思い出すことができた。
俺は、あの日、友達をかばって事故にあったのだ。
まるで今のように…。
3メートルはあろうかという巨体。それは、こちらへ向かって走り始めた。俺は走りながら、それを「鑑定」する。
クイーンスパイダー 「ネビア」
Lv.20
体力.200/200
魔力.10/10
攻撃力.500
防御力.1000
素早さ.250
運.150
固有スキル.鉄壁の守り
うん、これは勝てないね。女王蜘蛛でしたか。
ネビアがよだれを垂らしながら、こちらへ走ってくる。下手なホラー映画より正直怖い。
10匹ほどいる小蜘蛛もその後についてくる。
俺はネビアに向かって走る。ぶつかる、その瞬間、俺は、思いっきり屈んでスライディングする。8本ある足の内側をくぐり抜け、その後、すかさずジャンプする。
走ってきている小蜘蛛の群れを飛び越し、少女の元へ着く。そのまま止まることなく、少女を抱え、壁際まで退避する。「きゃっ!」、少女は驚きの声を上げる。
「よしっ…。」
狙いどうり、成功した。
しかし、これで逃げることは難しくなった。大部屋には扉が1つしかなく、それは今、ネビアを挟んで反対側にある。やるしかない、そう思い、迫ってくる小蜘蛛を迎撃すべく構える。
どうして、なぜ、リリナの心の中はその気持ちでいっぱいだった。
今、目の前で蜘蛛の魔物と戦っている男の人は、どうして私を助けてくれるのだろう。彼と私とは、赤の他人であり、なんの関係もない。
彼は私の代わりに戦い、傷ついている。まるで、あの日のように…。
リリナの父は、ギルド所属の冒険者だった。それなりに名前が知れ渡っていて、リリナは父のことが誇らしかった。父はいつも優しく、そして厳しく、リリナのことを見守っていてくれた。
ある日、リリナは父の仕事へついて行った。父は大事な仕事だと言って、反対してきたが、リリナは無理言って連れて言ってもらった。仕事は、ある山に生えている植物の採取だった。その山の魔物の強さはたいしたことなく、父に鍛えてもらっていたリリナでも、楽に勝てる相手ばかりだった。
そして事件は起こった。
いるはずのない魔物、いや、魔物ではなく、魔人が山にはいた。
そこからは壮絶であった。
リリナへと、襲いかかってくる魔人。リリナは、恐怖から体が動かなかった。
ポタ、ポタッ。
流れ出る血。
しかし、それはリリナのものではなかった。
それは父のものであった。
リリナを庇い、父は背中に大きな傷を負っていた。
「逃げろ!行けっ!振り返るな!」
それが父から聞いた、最後の一言となった。
リリナは無我夢中で逃げた。後ろでは、金属の交錯する音がする。父がリリナを逃がすため、時間稼ぎをしている。リリナは振り返ることはなく、麓の村まで走った。リリナが応援を呼び、そして、戻ってきた、その時にはもう、父は帰らぬ人となっていた。
リリナは自分を責めた。自分が付いていったから、父は死んでしまった。自分が、自分が…。リリナはその想いに囚われ、後悔した。
そして、後から知ったことだが、父の探していた植物、それは、病気の薬で、依頼失敗が原因で、山の麓の村の老人が1人亡くなった。
これ以上、人が死ぬのは嫌だ。守れる力が欲しい。その想いから、リリナは冒険者を目指した。いつか、強くなって、あの魔人を倒すと、そう心に決め。
それから、母の目を盗んでは、近くの森や遺跡で、魔物と戦った。そのおかげで、今では冒険者並みに強くなった。リリナはそう思っていた。
だから、今回、遺跡で行方不明になった鍛冶屋のおじさんを探しに、遺跡に赴くことにした。
蓋を開けてみれば、リリナはまた、助けられる側になってしまった。
目の前では、必死に小蜘蛛を蹴散らす少年、服は破れ、あちこちに傷がある。
「嫌だ。もう、私は…。」
リリナは折れそうな心を振り絞り、剣を取る。
「私は…!」
リリナは小蜘蛛の群れへと走り出した。
襲ってくる蜘蛛を避けながら、少年の元へとたどり着く。
「後ろは任せて!」
「…。」
少年は何か言いたげだったが、傷ついていることをおくびにも出さず、笑ってこう言った。
「後ろは、任せたぞ!」