1話ー勇者×村男⚪︎
目を覚ますとそこには見たことのない景色が広がっていた!
広がる草原、奇妙な実のなる木、大きな岩、遠くには山が連なり、森が広がっている。
「おお!!異世界きたー!」
柄にもなくテンションが上がってくる。あれ?でもなんかおかしいような …。目線が低い?かな?まぁ、気のせいか。
「ではこちらをどうぞ。」
そう言って、女が渡してきたのは、一枚のプレートだった。金属でできているのか光っている。そして、文字が書かれている。
「これ何?」
「これは、あなたの個人情報を表すものです。よく見てください。あなたの個人情報が書かれていますよ。」
それを聞いて見てみると
御堂 つるぎ 17歳 経験値あと10
職業.村男
Lv.1
体力.10/10(+0)
魔力.10/10(+0)
攻撃力.15(+0)
防御力.15(+0)
素早さ.10(+0)
運.100(+0)
固有スキル.強奪
と書かれていた。ん?おかしいところがあるぞ?年齢…違うだろ。俺は28歳だぞ。
「おいこれ間違っているよ。年齢。俺28歳だもん。」
そう言うと、彼女はこう答えた。
「世界間の移動のエネルギーはあなたの生命力を使ったため、多少若返っております。」
「え、ええー!まじ?」
「はい、本当です。」
ん?理解が追いつかないヨ。若返った?生命力を使った?寿命とかもしかして減っちゃったの?まぁ、でも多少のことは置いておこう。他に聞きたいことは山ほどあるし。もう一度青春を繰り返せるというのなら嬉しいことだ。と、思考をめぐらしていると、
「では、実際に魔物と戦って見ましょう。」
彼女がそう言った。そして、一本の剣を渡された。
「これは木の剣です。装備して見てください。プレートの攻撃力のところが変わるはずです。」
と言ってきたので、手に持ってみる。すると、プレートの、攻撃力の部分が、15(+20)、となっていた。おぉ!すごい上がったな。というか、見るからに雑魚そうな、木の剣でこれだけ上がるということは、俺の初期値弱くね?とか思っていると、彼女は「ついてきてください」と言って歩き出した。
歩くこと5分、魔物と遭遇した。まぁ、魔物と言ってもスライムだが。
「では、戦って見てください」
彼女にかっこいいところを見せるべく、剣を構えスライムと対峙する。元の世界でのスライムと違って、今目の前にいるスライムはかなりグロい。ドロドロとして、漫画でいうR18ものに出てきそうなやつだ。
スライムはズルズルと這いながら襲ってくる。あまり速くなく、動きも一直線で読みやすい。ので、カウンターで斬りつける。すると、予想外のことが起こった。斬りつけたところが、ドロドロとくっつき、まるで何事もなかったかのように、また襲ってきた。
「えっ!ちょっ!まって」
まってくれるはずもなく、猛スピードで体当たりされる。「うっ。」とうめき声が上がる。軽く2メートルほど吹き飛ぶ。痛ぇ!
「気をつけてください。体力が0になると死にますよ。プレートで確認してください。」
と彼女が言う。プレートをちらりと見ると、体力.7/10(+0)、となっていた。つまり、今のをあと3回食らうと死ぬわけだ。「くそっ!」と、声が漏れる。こちらの攻撃が通らないのに、どうやって倒せばいいと言うのか。
ふぅー、と息を吐き落ち着く。よく考えると、相手はスライム。相場は、レベル1で確実に勝てる相手。次の一手で仕留める。そう心に決める。
「ぶぉーー!」と言いながら、スライムが襲ってくる。速い!が、一直線!読める。間一髪避けると、通り過ぎたスライムの背面に、思いっきり垂直斬りをいれる。
クリティカルで入ったのか、スライムは、今度は真っ二つに割れた。そして、動かなくなった。
ふぅ。スライム相手に大接戦だった。シビアだな。と思っていると、
「おめでとうございます。今のでレベルアップです。」
と彼女が言う。プレートを見てみると、確かにレベル2になっていた。そして、プレートの一番下に30という数字があった。
「レベルアップしたらポイントを振り分けることができます。」
まだポイントは振らずに置いておく。そして、疑問に思っていたことを聞いてみる。
「俺の、このステータスは強いの?」
「プレート見せてもらってもいいですか。」
というので、渡す。彼女は、それをまじまじと見つめ、顔をしかめた。「えっ、弱っ!しかも、村男。勇者じゃない…」と小さな声で言う。むむ、やはり弱いのか。残念だ。すると彼女はこう言った。
「あなたの名前、御堂筋 つるぎ、じゃないんですか?」
「御堂 つるぎ、だ!」
すると、彼女の顔はますます険しくなる。そしてボソッと、「間違えた」と言った。
えっ?間違えたってなにを?もしかして、異世界召喚されるのは、俺じゃなかったのか。実は、その、御堂筋 つるぎ、ってやつが勇者ってことか。だとしたら、なんのために、俺はここにきたんだ。
「お、おい。間違えたってどういうことだよ。」
「てへっ。」
「てへっ、じゃねーよ。すると俺は、ここにくる必要なかったのか。」
「てへっ。」
彼女はもじもじしながらはぐらかしてくる。
くそっ!この野郎、完全間違いやがったな。しかもさっきまでのクールビューティーはどこいった。そして、俺の堪忍袋の尾が切れた。「んぎゃーー。てめー、なにしてくれてんだ。ピーして、ピーして、ピーーだぞ。俺を元の世界に戻せー!」とめちゃくちゃ叫んでしまった。
まぁ、だって仕方ないだろう。俺はなんのためにこの世界に来たのか…。
「ご、ごめんなさい。で、でも、それは無理です。私下っ端なので。」
と、彼女は涙目で言う。俺は唖然とした。
「で、でも、魔王倒したら、対価としてきっと願い事1つ叶えることができると思います。ので頑張ってください。」
と言って、俺に、なにやらパンパンに膨らんだ袋を渡してきた。
「それでは、頑張ってくださいー。」
俺は正気に返って「ちょっ!まって…」
俺が言い終わる前に、彼女は光に包まれて消えてしまった。
こうして、俺の異世界生活は始まった。
余談だが、このあと1時間ほど、彼女に対する文句を叫んでいたことは、仕方のないことだろう。