プロローグ
「部長、午後に会議入りました。」
その一言を聞いて、午後の休憩時間は始まった。仕事の中で唯一身体共に休まる昼休みは、午後の憂鬱な時間を想像するだけでやるせなくなくなる。
「わかった。村岡。後で休憩終わったら、この資料の整理頼むわ。」
嫌そうな顔をしつつも彼は
「わかりました。」
と返事をする。
そうして席を立って、歩き始めた。
俺の名前は、御堂 つるぎ。 若干28歳にして、将来性の高い電機メーカーの部長になった俺は、世の中で俗に言う勝ち組というやつだ。
大学の頃同じサークルにいた、サークル1、いや、大学1、と言っても過言ではないくらい可愛い女性と結婚することになった。
そう、マジのマジで勝ち組なのだ。
しかし、そんな俺にも悩みはある。昔から優等生であった俺は、周りの目を気にしすぎてしまうのだ。
妬み嫉みといった目で見られることが、本当の本当に耐えられない。そんな時、ふと思うことがある。
「もっと別の世界に、もっと別の人間として生まれ変わりたいなぁ。」と。
そうしたら、こういったしがらみから解放されるのかと、期待し、望み、願っている。
まぁ、無理だとわかっているが…。
とか考えつつ、部屋を出た俺は、トイレに行った。 昼休みの最初はいつもトイレに行く。
これは俺の日課だ。いつもは、一番奥の個室に入って、座ってぼーっとするのだが、今日に限って、そこは空いていなかった。
昼休憩始まって、すぐ来たはずなのに、と、不思議に思いつつ、奥から2番目の個室に入る。
その選択が、今後の俺の人生を、180度変えてしまった。
「こんにちわ。」
トイレに入ると目の前には女性がいた。髪は長く、肌は白く、まるで、どこかのお伽話から抜け出て来たかのような、そのくらい美しい女性がいた。
「えっ!なっ!どっ?」
おれは狼狽えた。いや、それはそうだろう。だって、男子便の個室に女性がいて、こんにちわって挨拶してくるなんて、誰が予想できる。
そんな俺にお構いなく、彼女は続ける。
「あなたは選ばれました。おめでとうございます。これからある場所へ行ってもらいます。」
「ある場所ってどこ?」
「そうですね。端的に申しますと、この世界ではない別の世界、とでもいったところですかね。あなたにはそこで世界を救ってもらいます。」
えっ?今なんて言った?世界を救う?んーと、聞き間違いかな、と思って聞いてみる。
「えーと。今なんて言いました?世界を救うって言いました?」
「はい。あなたに世界を救ってもらいます。今から強制送還させてもらいますが、世界を救う対価として、こちらの世界で、何か1つ願いを叶えてあげます。」
マジだ…。マジのやつだ。しかも今、強制送還って聞こえたような。拒否権ないのかよ。
いや、確かにどこか違う世界へ行きたい、とは願ったが、それはあくまで、なんというか、冗談というか、的なやつで、実際今の生活を捨てるとなると、色々と厳しいものがある。
まぁ、行くしかない、というのなら行く。そしてこの世界で願いが1つだけ叶うのいうのなら…
「残して行く、俺の妻がこれから先幸せに暮らせるようにしてくれ。これが俺の望みだ。」
「かしこまりました。では移動を開始します。」
そうして俺はこの世界とおさらばすることになったのだ。遠のく意識の中、期待と不安に胸を躍らせながら…
俺という存在はこの世界から抜け出し新しい世界へと旅立って行くのだった。