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ホワイトレディーの誘惑

そのカクテルは僕にとっては魔性の女だった。


出会いは5月、友人に連れられて行ったバーだった。

「ここはカクテルが美味いから何か頼めよ」


そう言うと友人はサイドカーを注文した。


別にカクテルを知らない訳ではないけど、何と無く迷ってしまった。


「ジンで何かお願いします」


迷った時の正しいオーダーの仕方だった。


「かしこまりました。」


シガーが漂う重厚な店内、バーテンダーはそう言うと軽快な動作でカクテルを作りだした。


ジンはビイフィターだった。


次々にシェーカーに材料を入れ、小気味よく振った。

そしてよく磨きあげられたカクテルグラスに何とも美味そうな液体が注がれた。

「ホワイトレディです。」

何度か飲んだ事はあった。

グラスに口をつけると、ジンの柔らかい香とグレープフルーツの様な甘酸っぱい香が鼻孔を刺激した。


一口飲んだ瞬間、稲妻が走った。


「う、美味い!」


「だろう、ここのバーテンダーはいい腕してる」


友人は得意げに話し、サイドカーに口をつけた。


確かに甘酸味のバランスが絶妙だった。


「何でもバランスだよ」


仕事に遊びに恋愛に、何か一つが崩れても駄目になる。


友人がここへ僕が連れてきた理由が何と無くわかった。


「カクテルって決まった分量入れたからって美味しく出来る訳じゃないんだぜ」

わかった様事を言ってくれる。


確かに、仕事ばかりで私生活には支障がてていた。


一年前に昇進した。異例のスピード出世だった。


それが本当の力だと思わせる為に必死で働いた。


「カミさん大事にしろよ」

友人の言葉は重く突き刺さった。




バランスは大切だ。


それからホワイトレディをよく飲んだ。


見た目白いカクテルは、飲んだ瞬間に色んな色をだす。


この一杯を飲む為に、仕事を早めに切り上げた。


少しづつ自分のバランスが出来てきた。


「ここはカクテルが美味しいから何か作ってもらえよ」


僕は妻にいってホワイトレディを注文した。


「私も同じもの下さい」


バーテンダーは素早く二杯のホワイトレディを作った。


店内に響くシェイキングの音が二人の沈黙を救った。

「美味いだろ」


「本当に美味しいわ」


「気付いたんだ」


「何に?」


「バランスだよ」


「バランス?」


「ごめんな」


「いいのよ」


妻は笑顔でホワイトレディを見つめていた。


「あなたを誘惑したのが、このレディでよかったわ」


確かに僕はこのホワイトレディに誘惑された。


そして気付いた。


バランスが大切だと…


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