07 那由多百夢の悪夢
黒くて細長い枝のようなものを手に持った少女が俺を見ている。
無邪気そうに金色の瞳をキラキラと輝かせて、両腕を無理矢理広げさせられた状態の俺を──
「はじめは長いものを刺して、肩に向かって段々短くしていけば、羽みたいになるとおもって」
やめろと叫ぼうとして身体中が震えているせいなのか、何がどう作用しているのかわからないが何故か声を出すことはできない。
でも、少女は俺の表情を読み取って得意気な笑みを浮かべて近付いてくる。
「痛いけれど、可愛くなるピアスや刺青と変わらないよ……安心して」
意味が無いことはよくわかっていても身をよじると、冷たい壁に背中がついて、鎖はそれにこすれて音を立てた。
「……同時に刺した方がすぐに終わるわね。ねぇ、手伝って」
少女が後ろに向かって声をかけると、もう一人彼女とうり二つな少女が同じものを持って歩いてくると、あきれたように少女を見る。
「最初からそうすれば良かったじゃ無い」
「一人でやりたかったんだけど、気が変わったの」
しばらく少女達はなにかを話して───俺は、諦めて目を閉じる。
両側から痛みが電流のように走って、それでも悲鳴をあげないように口を塞いで堪えていると、どちらかが俺の頭を撫でているようだった。
「いつまでもつかしら」
「良く耐えたね、百夢くん」
「まだ何本もあるのに」
はじめに耐えることを念頭に煎れていたのか、いないのか、驚くくらい優しい声がして俺は閉じていた目を開いた。
「……」
笑みを浮かべているのは最初に俺に近付いてきた方だろうか?
*
唐突に場面が切り替わったかと思うと、俺は学校の屋上に立っていた。
風が強くて、自分の髪や制服のスカートがふわりと持ち上がったことに気が付く。
俺はこんなに髪が長かったか?
いや、そもそもどうして女の制服なんて着ているんだろう?
戸惑って、なにか自分の姿を確認するものは無いかとスカートのポケットや上着のポケットを探ったものの何も持っていない。
おそるおそるYシャツの胸ポケットを上から触ると、いつもの俺には無い柔らかいものがついていて……それに気付いた以外は、何もはいっていなかったくらいだ。
身体は勝手に屋上のフェンスを上ったかと思うと、一歩踏み出すように下へと落下して、視界は黒く塗りつぶされた。
*
那由多百夢はここ最近、良く悪夢にうなされる。
あまりにも立て続けに見るものだから、普通の夢とはなんだろうと考えることが増え、これが自分にとっての普通なのかも知れないと思いはじめて、最後にはそんなことはないと否定し思考をやめて、重苦しいため息をついた。