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02 少女と少女の邂逅

〈02 少女と少女の邂逅〉


 ツインテールにした長い紺色の髪と、どこかで見たことがある金色の瞳をした少女は黒いスーツの男達に絡まれていた。

 たまたま通りかかったとはいえ、見捨てるわけにはいかない。

 俺は鎌……を出そうとして、少女を怖がらせるわけにもいかないから特に武器も持たずに素手でやることにした。

 気配を消してまず一人目、腕を掴んで投げ飛ばす。二人目、腹部に蹴りを入れて気絶させ、背後に回った三人目は肘を顔面に入れてまた蹴りを入れる。

「おい、逃げるぞ」

 三人が倒れているうちに、女の子の手をとって走って逃げる。なるべく人通りが多い道を選んで、とりあえず近くの喫茶店に入った。

「大丈夫か?怪我は?」

 きょとんとしている女の子に声をかける。

「えっと……大丈夫」

 走って息を切らしているくらいで、特に目立った外傷はないことに安心したが、表情としては怯えているようだ。

 俺はメニューを開いて読みながら、置かれた水を一口飲んだ。

 ああ、そうか。

 視線を女の子に向ける。

「俺は那由多百々……そうだな、少なくともお前を怖がらせるつもりはない」

「えっと……統堂……星です」

 統堂?

 妹がいる、なんて聞いたことがないが……。

「星か」

「助けてくれてありがとう」

 お礼を言われると結構照れ臭くて、笑うことにした。

「いや、礼には及ばない……なにか甘いものでも食べて忘れようぜ」

 メニューを差し出すと、星は戸惑いがちに、「いいの?」と訊ねてきた。

「ああ」

 成り行き上入ってしまったのと、星が名字で統堂と名乗ったことから、この少女について少し知りたいと思った。つまりはほとんど俺の都合だから……甘いものの一つくらい奢らないとな。

 もちろん、一人で帰らせるわけにもいかないから、ちゃんと送り届ける。

 店員を呼び注文を済ませて、星に質問することにした、

「いま、何歳だ?」

「12歳」

 どこか大人びているようで、ただ大人に近づき始めた年齢か。俺と4つ離れてるな。

「あの……なんて呼べば良い?」

 さんをつけて呼ばれるのはなんとなく恥ずかしいし堅苦しい。

 かといって先輩呼びも……。

「好きにしろ」

「じゃあ、百々お姉ちゃん」

 顔が熱くなった。

 妹を溺愛する奴の気持ちが少し理解できそうだが……もしかしたらもう二度と会うこともないだろうし、慣れなくても良いか。

「……わかった」

 嬉しいのか、星は俺に笑みを浮かべる。

「星は能力者か?」

 能力者だから誘拐されそうになったのか、それとも違うから襲われたのか……どっちにしろ助けることが出来て良かった。

「そうよ、あと、魔法も少し使えるの」

「魔法か……勉強家だな」

「いつもは芥川……運転手みたいな人が近くにいるんだけど、今日は用事でいなくて……」

 聞きたいことを察したのか、星はそう答える。

「なら、家まで送る」

「いいえ、その必要は無いわ」

 断られたところで、注文したケーキと飲み物が来た。星は俺が注文したシフォンケーキを物珍しそうに眺めて、我に返ったように自分の選んだ洋梨のタルトに視線を戻した。

「……一口いるか?」

 星は少し恥ずかしそうに顔を赤らめると、おずおずと自分の皿を俺の前に出す。

「交換……しよ?」

「ああ」

 短いやり取りをして、お互いに一口ずつフォークで切り取って、自分の皿に移して食べる。

 タルトはあまり食べる機会が無いけれど、果物のつやつやした見た目と甘すぎないカスタードクリームが良い具合にバランスが取れている。

 星はふわふわしたシフォンケーキの食感に不思議そうな表情を浮かべていたが、すぐに顔がほころんだ。

 特に会話もなく黙々とケーキを食べ終えた時に、星は鞄から黒い皮製のバングルを取り出した。

 何やら円形の模様がある銀のプレートと黒い石のついているそれは、彼女の服装とは少し不釣り合いに見える。

「これ、お礼」

「えっ?」

「お守り」

 差し出されて戸惑いつつも、星は真剣な表情で言う。

「きっと、百々お姉ちゃんに必要になるわ」

 効果があるかはともかく、受け取ってさっそく左手につけて見せた。

 俺は能力で星の髪の色と同じ蝶のブローチをガラスで作り出して、そのまま差し出した。

「えっ……?」

「お守り……みたいな効果はないが、やる」

 ちょっとやそっとじゃ壊れないような強度と耐久性にしておいたから、大切にして貰えれば十分だ。

「ありがとう。百々お姉ちゃん」

 お礼を言われなれていないせいかやっぱり少し恥ずかしい。星は早速ブローチをつけてくれた。

 会計を済ませて喫茶店を出ると、星は携帯電話を取り出して何処かへ電話している。その様子を見守りながら、もう星には会えないような気がした。

 短い時間だったが名残惜しく思えて、レシートに俺の携帯電話とアドレスを書いて、電話を終えた星に渡した。

「困ったことがあったら使え……まぁ、ブローチが割れたときくらいだろうが」

「お姉ちゃん……きっとまた会えるわ」

 星の頭を撫でる、直後にやけに乱暴な運転の車が俺たちの前に停まった。

 一気に星の表情が呆れ顔に変わる。

「はロぅ!お嬢!」

 窓が開いて、何故かゴーグルをつけた赤髪の男が、聞き取れそうで聞き取れないおかしなイントネーションでそう言った。

「ソッちノ上玉クらスの女は誰ダ?」

「お前が運転手か?」

 上玉って、誉められてるのかよくわからないな。

「ソうそウ、オレが芥川、運転手でパイロット!」

 ハイテンションで不安定な話し方だが、大丈夫かこいつ。

 星は車の助手席に乗り込むと、おもむろに芥川のゴーグルを外した。

「ああっ、なんで外すんだよぅ!」

「うるさいからよ」

 その手慣れている感じと、やっと聞き取りやすい話し方になった芥川は、改めて俺を見た。

「星がお世話になったみたいだな……オレはゴーグル無いと正気に戻れないが、ありがとう。気をつけて帰るんだぞ」

「……星をよろしく」

 それを聞いた芥川はまたゴーグルをつけ直した。

「マかセな!」

「じゃあね、お姉ちゃん」

「ああ、またな」

 窓が閉まって車が動き始めて、星が手を振る。

 俺はそれが小さくなって消えていくのを見てから、帰路につく。


(おわり)


(おまけ)


 百々の話したことを、俺は呆然としながら聞いていた。星という妹かもしれない少女の存在のことは、後々秋と話し合ってどうするか考えないといけない。

「百々」

 それよりも、どうしても、これだけは言いたい。

「なんだ?」

 俺的には人格的なものを疑われるかもしれないけれど、悲しいけどこれ、戦争なのよね。

「それなんて百合」

「は?」

 百々がきょとんとして、分かりやすく言うにはどうしたものか。

「フラグ!これ、フラグ!」

「なんだそれ」

 百々と星の薄い本が出たら多分10冊は買っても良い。三次元を二次元に変えるって難しいけど、これはこれでありなんじゃないかな。

「……フヒヒ」

「?」


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