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文字の墓場  作者: mesotes
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晴嵐-4

某HPにあるSIさんの「フラグメント13」の後の話。

ちなみに……SIさんのメインストーリーは諸般の事情により「0.Lovers End」だけです。






 ――放心していたのはどれくらいだろうか。


 数秒かもしれないし本当は数分、いいや、数十分だったのかもしれない。

 しかしすぐにそんな事はどうでもいいと思い当たった。


 ――冷たい。


 雨が降っている。俺は仰向けに倒れているため、さっきから雨粒が顔に当たっていた。

 周りは雨で泥だらけだった。おまけに自分が倒れているのは泥の水溜り。背中が冷たい。

 ああ。そんなのはどうでもいい。


「……負けた、か」


 そうだ。俺は、あいつらに負けた。

 認めたくはない。認めるものか。認めて、たまるものか……!


「……ちくしょうが」


 ……バカか俺は。

 俺が認めようが認めないが、今の俺が全ての答えだろうが。


「動かねえ……なぁ」


 起き上がることはおろか、指一本動かせない。

 ここまでボロボロにされたのは随分と久しぶりだった。


「ちくしょう……ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう……ちくしょうがっ!!」


 負けたくなかった。


 ――邪魔なものは全て薙ぎ払い。


 立ち止まりたくなかった。


 ――ずっと前へ進んでいたかった。


 振り返りたくなんてなかった。


 ――そうすれば気づきたくないものを気づかずにすんだのだから。


「ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう――っ!!」


 情けない慟哭。それが厚く暗い雨空へと吸い込まれていく。

 ああ。顔が冷たい。

 だが、それがありがたい。

 つまらないものを見られずにすむからな――


 ――ただひたすらこのやり場のない怒り、そして穴を胸に俺は駆け続けていた


 ――そうすれば耐えられた


 ――ただ前だけを見て、たった一つの望みだけを……それ以外からは目を逸らし


 ――そうして前へ前へと突き進んでいたからこそ今まで俺は折れずにここまで来れた


 ――ずっと、ずっとこの気持ちを置き去りにできたのに――!




「――静ねぇ」




 それは禁忌の言葉。

 今までずっと口にしなかった言葉。

 俺の弱い心。

 俺の全て。

 それこそが俺の胸に巣食う虚ろの源。

 全てを暴き、晒しだす言葉。


 俺が俺であった全てはあの人の側にこそあった。


 あの人に憧れていた。

 誰よりも強い人だった。俺なんかよりずっとずっと強い人だった。

 その精神は何者にも屈せず、犯されず、ただただ眩しかった。

 明るい笑顔は俺に居場所を与え、安らぎ知った。

 触れ合う手は温かく、優しく包んでくれた。


 大好きだった。

 大好きだったんだ。


 だからこそ、許せなかった。


 どうして俺は助けられなかったんだ。

 どうして俺はあそこにいなかったんだ。

 どうして俺は何もできなかったんだ。

 どうして俺は側にいなかったんだ。




 今まで見ぬふりをしていたものが溢れ出る。

 もう、到底止められそうになかった。




「ちく、しょう……」




 雨音が聞こえる。

 泣きじゃくる子供のような声はそれでも消せず

 ……すぐ近くから聞こえる嗚咽だけが耳から離れなかった。







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