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文字の墓場  作者: mesotes
6/10

晴嵐-2

フェイとヒカリのキャラクターはSIさんのキャラで、物語の主人公です。

私の晴嵐と静音の姉弟はそっちの物語にサブキャラとして作ったものです。






 広い土地と広い空。日本を思い出す度にこの国の大きさを実感する。

 道を歩いていくとようやく俺の家が見えてきた。

 さて、今日は古狸のクソジジイから出された『仕事』をやらなきゃならねぇ。とっとと必要事項を収集してまとめねーと。

 あのジジイの『取り引き』はハッキリ言っていつも厄介な事この上ねーが、その見返りは十分に魅力的なんだよな。ジジイの力は広い。つーか、何したらあんなに顔が広くなるんだよ。

 ……仕事は北東部の裏街か。後でマークの店に顔出すか。くそ、あのぼったくりの所に行くと考えると頭が痛くなる。

 あー、くそ。最近出費が激しいな。去年の一大計画で随分とバラまいたのがまだ響いてやがる。さすがに単独でSG(スターレス・ガーデン)の本部潜入、そして盟主とサシでの面会までこぎつけようってーのは無茶だったか。

 SG・No.1の留守を狙ってのこの一大博打。最後の最後でNo.2に阻まれちまったな。運良く引き分けに終わったが……シャレにならねーよな、チクショウが。

 ま、なんとかSGの大半の機能をぶっ潰してやったし、対等であるためにはそんくらいはしねーと話になんねーからな。

 しかし……No.2があれでNo.1は想像もしたくねーな。どんなバケモノだよ。おかげでとっておきのネタ……せっかく確保した武器庫のカードを切る事になっちまったし。

 重くなった肩を引きずりつつ、無駄に広い庭を突っ切って玄関のノブを回す。

「帰ったぞ」

 この土地では珍しい習慣ではあるが、靴を脱いでリビングに続くドアに向かう。

 この家の住人は俺を除いて1人、姉貴の静ねぇだけだ。クソ親父はまだ『仕事』とやらでどっかふらついてるにちがいねぇ。後、人間じゃねえけど家で暮らしているのが金太と青鸞だ。前者は犬、13の俺より年上で、後者は小鳥の姿をした魔獣だ。

 だが今日は姉貴の気配がねぇな。この時間帯にいねーとなると………ま、買い物あたりだろーな。

 ガチャ。

 リビングのドアを開いてそのままバッグを下ろそうと手をかけて――

「あ、こんにちはーっ!」

 ……バタン。

 なんとなく上を向いたが見えるのは天井だけだ。

「…………」

 ガチャ。

「むぅー、なんでドアを閉めるの?」

 ……あーっと。

 リビングにいたのは最近知り合ったフェイの旦那と一緒にいる10歳のヒカリっつー女のガキ。そのガキの横にはノッソリと寝そべっているラブラドール、金太。いや、横というより抱きついている。金太は大人しいからな。最近寝てばっかしのような気もするんだが……まぁ年が年だ。仕方ない……と思う事にしている。

 ――そんな事はどうでもいい。

「なんでオメーがここにいる?」

「うん! あのね――」




 ピンポーン。

『あら、ヒカリちゃんじゃないの。一人? どうしたの?』

『一人じゃつまんないからあそびにきたの!』

『あららー。んんー、残念だけど私もこれから大学の実験が入って直に出かけなきゃならないの』

『えー』

『そうだ。よしっ! じゃあヒカリちゃんは家の中でキンタと一緒に待っててくれない? もうじきにラン――あ、晴嵐ね、が帰って来るから、ランと一緒に遊ぶのはどう?』

『うんっ。いいよー』




 つまりは、そういう事らしい。

「あんの姉貴はぁ……!」

 手の中の書置きを力一杯握りつぶてやる。くしゃくしゃになった紙の端には「PS.もしヒカリちゃんを泣かせたら承知しないわよ」などとありやがった。

「…………」

 チラリと横目でガキを見る。ガキもこっちを見ている。

「…チッ」

 自然と舌打ちがもれる。不快ななにかが胸の内で首をもたげ、むしょうに頭が冷えてくる。自分がどんどん鋭利になるのを感じる。

 こいつは苦手だ。

 いや、こいつに限らず…俺はガキそのものが苦手だ。感情のままに振る舞い、時には予想もしない行動に出て振り回される……

 何より、うっとおしい。

「一人で遊んでろ」

「えーっ。つまんないよー」

「んなこと、俺が知るか!」

「う~……」

 リビングの中央でこっちを睨んでいるガキに構わずテーブルの端に腰掛ける。問題はやはり金だ。このままだと装備の調達もままならない。特に爆薬は底をついているし、毒を含めた各種薬も在庫が不安だ。投げナイフも後20本は買い足さないと。……この前街の各所にある装備の隠し場所を2つ、セーフハウスを1つ潰されたしなぁ。くそっ、いい所だったのによ。

 やっぱり今は選り好みせずにガードや探索・調査の仕事を請けるべきか。古狸の仕事が終わったら少し金集めに奔走すっか。ちくしょう、頭痛ぇ……。ま、それでもSGと協力関係を結べた事でパイプも結べたし、多少は名が売れた。これからはそっちからの仕事も来るだろう。まあ最初は様子見程度のものだろうけどな。それに期待すっか。

 古狸から渡された資料数枚を片端から頭に入れ、すぐさま焼却し廃棄していく。やるべきことは思ったより多くはなさそうだ。

 そうしているとガキは俺の隣までやって来て、不満げに頬を膨らませて俺を見上げていた。

「ねー、あそぼう」

「やだね」

「ねーねー、つまんないよ。いっしょにあそぼーよ」

「いやだっつってるだろ」

 素っ気無くあしらう。この手のやつはちょっと甘い顔するとつけあがるからな。

 しっかし……

「オメー…俺が怖くないのか?」

 自分でもなんだが、俺は周りから怖がられている。目つきも悪ぃし、声も自然とドスがきいている。俺が話しかけると大抵のやつらはビビって逃げていくし、或いは身を縮ませる。

 いや、まあ静ねぇは例外だが。下手すると俺より胆力あるかもしれねーからな。

「ん? なに?」

「……んにゃ、調子狂うガキだっつったんだよ」

「あー! なんかバカにしてる?」

 ますます膨れっ面になる。

 するとガキはキンタを連れてきてバタバタと走ってきた。

「いけー、金太! 晴嵐をやっつけろーー!!」

 キンタをけしかけたりと好き放題にうるさく俺の周りを走り回る。

 あまりのうっとおしさに俺の我慢も限界にきて、机を思いっきり叩いた。

「調子に乗るな……! 俺はな、お前みたいなガキのお守はまっぴらゴメンなんだよ!」

 大人も怯えすくみ上がらせるほどの怒声が家中に響き渡った。

 ここまですれば、もう俺に寄ってくる事も――

「……おい」

「うー……」

 ふと見るとしゃくりあげ、いまにも泣き出しそうなガキがいた。

 おいおい。泣くとかまじかよ。勘弁してくれ。面倒すぎる。

 いや、俺のせいだって事ぐらいは分かるけどよ、それでも――


「ウォン!!」


 突然空気を震わせる咆哮が真正面から叩きつけられた。

「キ、キンタ…?」

 今、吠えたのか? キンタが?

 ちょ、まて。キンタが吠えるのはいつ以来だ? ここ2,3年はまったく覚えがねーぞ。

 いつも家で寝そべってばかりいて、どんな他人がテリトリーに来ようがなにしようが何の反応も示さなかったキンタだぞ!

 なのになんで急に!?

「ウォン、ウォン!!」

 っつ…! う、うるせえ。な、何だよ。何が言いたいんだ。

「ウゥ~~~……!」

 低く唸る声。俺とヒカリの間で仁王立ちするその姿。

「ひっく、ひぐ……」

 目に涙を一杯に溜めた子供。それを背にキンタは力強い目で俺を真正面から向き合っていた。

 そう…か。なるほど。

 ……あー、くそ! くそったれ!

「2対1じゃ、分が悪ぃよな。あーあ」

 キンタはヒカリの味方か……あー、ちくしょう。

 ガリガリと頭をかきむしる。

「悪かったよ」

 ピタリとしゃくりあげる声が止まる。

「……本当?」

「ああ。ほら、仲直りするぞ」

 仕方なく右手を差し出す。そこに恐る恐るといった風にヒカリの小さな紅葉にような手が乗せられた。




 ☆☆☆☆☆☆




「…………」

 つ、疲れた。

 これだからガキは……容赦なくあちこち暴れまわりやがって。もうちょっと落ち着けってんだ。くそ。

 隣ではなんでかニコニコ平然としているヒカリがいる。

 まさかまだ遊び足りないっつーのか、こいつは……

「あのね、それでね、フェイってばね――」

 さっきからヒカリはここ数日の父親の事を喋り続けていた。

 まったく、よっぽど旦那の事が好きらしい。顔は満面の笑顔だった。

 その幸せそうな姿に、ふと余計なおせっかいが心の底からでてきた。

「……なあガキ。好きなヤツはたくさんいればいいが……いつも、一番大好きなヤツを決めておけ。例え、その選択が家族や仲間、恋人であってもな……」

「せーらんにはいるの? 一番が」

「……」

 一番、か。

「――静ねぇ」

「え?」

「静ねぇの作る肉じゃが、だな」

「へー、おいしいそう」

「……ああ、そうだな」

「あのね」

「ん?」

「わたしはみーんな好きだよー」

「……ああ、そーかい」




 ☆☆☆☆☆☆




「ただいまー」

 パタパタパタ…ガチャ。

「ヒカリちゃーん? ランと仲良く――」

 ドアを開ける。ノブを回し、部屋と通路を区切るドアを開くと新たに部屋の様子が押す力と比例して目の中に飛び込んでくる。

「……」

 部屋には静音の予想もできなかった光景。思わず目を丸くして、すぐに満面の笑顔に変わる。

「ウォン」

「おかえりーっ」

 そこには、金太とヒカリちゃんにのしかかられて床に潰れている晴嵐の姿。

「……なんだよ」

 うつ伏せの状態から顔をあげて見上げるランの表情は……面白いくらいに苦虫を食べ続けさせられたソレに近い。

 とりあえず、感想を一言。

「へー、随分と仲良くやってたみたいね」

「ふざけろ……このクソ姉貴……!」

 いつもの減らず口も、この状況じゃあ可愛いもの。

「あー、だめなんだよっ。そんなわるいことばつかっちゃったら」

「ぐ……!」

「はいはい。二人とも仲良くしてたみたいだからお姉さんがご褒美をあげる。うーん、そうね。何かお菓子作ってあげよーか?」

「わーい!」

「俺はいらねぇ!」

 バタン! と荒々しくドアを閉めて二階へ退散する晴嵐。

 残った二人は……

「ランの事、仲良くしてあげてね、ヒカリちゃん」

「うん!」

 10の少女に13の男の子を頼む姉、静音ここにあり。







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