憩いの時
『慶くん、今度はあれ食べよう』
君はそう言って僕の手を引っ張る。空いている方の手にはリンゴ飴が握り締められている。
僕は君に引き摺られながら、宥めるように言った。
「優雪ちゃん、落ち着いて。屋台なら他にもあるし、何より今リンゴ飴食べてるだろ?」
すると君は
『じゃあお願い。これ慶くん食べて?』
と言いながら僕の空いている方の手に渡した。
「食べてって……」
顔を赤らめながら言うと、君は小首を傾げて言う。
『お願い』
仕方なく、食べかけのリンゴ飴を齧る。
何か悪いことをしている様で、緊張して甘味以外の味を感じなかった。
「ほら、食べてあげるからもう一寸ゆっくり行こう?」
そう言うと、今度は僕の思考力を奪う発言をした。
『駄目だよ。あの屋台にしか売ってないチョコソースたこ焼きなんだから』
チョコソースたこ焼き?
思考を停止した僕の手を引き、君は人混みのなかを突き抜ける。
そのチョコソースたこ焼きを売る屋台は、チョコとたこ焼きと言うミスマッチが評判を呼んでいるのか、かなりの列が出来ていた。
『よかったー、間に合った。ね? 早くしないと売り切れちゃうって言ったでしょ?』
君は笑顔で僕に言う。
『一寸待っててね。買ってくるから』
呆然とする僕を尻目に、君は列の最後尾に並ぶ。
その君の期待に赤くした顔を眺めながら、僕はリンゴ飴を舐めていた。
やがてリンゴ飴も食べおわった頃、君は笑顔で僕の方へと早足で駆けてきた。その手にはたこ焼きのパックが二つあった。
「…二つも食べるの?」
嫌な予感を無理矢理無視して君に聞いてみた。
『え?慶くんの分だよ?』
やっぱり。軽い絶望感に苛まれている僕を知ってか知らずか
『きっと美味しいから食べてみてよ!』
と君は言いながら僕に手渡す。
その自信は何処から来るんだろうかと思いながら
「歩いて食べるのもなんだから、何処かベンチまで行って食べよう」
と提案し、二人で人混みのなかを歩いていった。
はぐれない様に僕の腕を掴む君の手に、軽い違和感を覚えた。
服の上だからと、無理にこじつけて気にしないようにした。
そして空いているベンチを見つけると、其処に腰掛けてパックを開いてたこ焼きを食べ始めた。