現れた君
『久しぶりだね。私のこと覚えてる?慶くん。』
その女の人は言った。
知らない人だ。いや、僕はこの人を知っている。
初めて会ったけど、僕はこの人を覚えてる。
「優雪ちゃん!?」
自然と名前が出た。何でだろう?
彼女は8年前に何処かへ行ってしまった人だ。
だから彼女も僕も8年経ったお互いの顔なんて分るはず無い。
特に僕なんか知り合いに小学校のころの卒業アルバムを見せると異口同音に
「全然面影ないね」
って言われるくらいだ。
でも、何で分ったんだろう?
「何で分ったの?」
不思議だから聞いてみたんだ。
『分るよ。だって慶くん根っこの所が変わらないもん。優しい心は変わってない』
「根っこ?」
『そう、根っこ。人の魂の色、音って言うのかな?具体的には言えないけどね』
フフっと笑って言った。
小学校のときと変わらない、優しい笑顔。
彼女を思い浮かべるとき、いつも背景は真っ白だった。
他の友達を思い浮かべるときは、体育館だったり、グラウンドだったり、教室だったり。何時でも世界の一部が背景に出てきてた。
だけど彼女を思い浮かべるときだけ、何も現れない、ただの真っ白だった。
そんな雪みたいな笑顔が、僕は大好きだった。
『ね、8年前の約束、覚えてる?』
8年前。急に頭の中に一つの文が浮かんできた。
「『8年待ってて。8年たったら戻ってくるから。その時はまた、一緒にお祭り行こう?』」
綺麗にハモった。
『良かった。覚えててくれたんだ』
嬉しそうに笑う君は神秘的で、少し寒気がした。
『ほら、ちゃんと浴衣着てきたんだよ?似合う?』
袖を持ち上げて、くるくる回る。
水色の浴衣に黒い髪を縛ったポニーテールが可愛い。
子供のような仕草だけど、其処には妖しさもあってドキッとしたんだ。
「う、うん。似合うよ」
『良かったぁ。似合わないとか言われたらどうしようかと思った』
エヘヘ、と笑う。
今の僕の頭の中では、会えてよかったと言う気持ちと、一寸した恐怖が半分に別れていた。