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一話 智子(ちこ)

 智子が付き合った初めての彼氏は潰れた蜜柑みたいな顔した男だった。

 中学の入学式で一目惚れして、影からこっそり見守る事二年、好きが溜まりかね思い切って告白して付き合い初めた人だった。

 登下校を五回程一緒して、頃合いをみて手のバージンを捨てようと試みた智子に、潰れた蜜柑顔の愛しの彼が言った。「重い」と。

 虎視眈々と狙ってた、彼の汗臭い丸々と太った不器用そうな指で出来た小さな手のひらは、後日、よく似た指で出来た女の子の手と繋がれていた。


 二人目の彼氏は、茄子が虫食いに合った後握り潰されたような顔をした男だった。

 高校の入学式で一目惚れして、弓道部の彼を追いかけ、全く興味のなかった弓道部に自分も入った。

 彼の半径一メートル以内はいつも人が居なかった。

 ツンばかりでデレのない彼の性格もあって、友達が一向に出来ない彼の横を智子はいつも独占した。

 一年そうやって学園生活を過ごしたのち、努力に努力を重ねた智子は弓道の大きな大会で優勝した。そして、トロフィーとメダルを彼に捧げて告白した。

 手のバージンはその日の帰り道に捨てた。彼の手は肉刺だらけで、智子の小さな手をすっぽり包んでくれた。

 登下校を二十一回一緒してデートを二回重ねた。

 頃合いをみてファーストキスを捨てようと試みた智子に、茄子が虫食いに合った後握り潰されたような顔した愛しの彼が言った。「ウザい」と。

 虎視眈々と狙っていた彼の、下唇の突き出た年中醤油が沁みて痛そうだったカサカサの唇は、後日教壇の前で別れの挨拶を述べ、どこかの地へ去っていった。


 三人目の彼氏は、柘榴を高層マンションから落っことしたような顔をした男だった。

 大学受験のための予備校で出会い一目惚れして、それからは必ず彼の隣の席をキープした。

 解る問題もすべて解らない振りして彼に聞いた。

 勿論志望大学も同じ所に変えた。

 彼の趣味に合わせて、全く興味のなかったサブカルチャーに受験勉強と同じ熱心さで取り組んだ。

 センター試験が間近に迫った日、彼が泣いて欲しがっていた、魔女っ子キャラの一点物フィギュアを、貯金全部使って手に入れ、プレゼントして告白した。

 ファーストキスはその日に捨てた。

 彼の唇は物凄く肉厚で、智子の小さな唇は、ぱっくり喰われるみたいに収められ、愛撫された。

 合格発表の日、無事二人の番号を見つけ、お祝いがてら頃合いをみてバージンを捨てようと試みた智子に、柘榴を高層マンションから落っことしたみたいな顔をした愛しの彼が言った。「キモイ」と。

 虎視眈々と狙っていた彼の、十代とは思えないほどメタボった、太りじしの体は、後日大学構内で見つける事は出来なかった。



 三人とも智子は精一杯好きだった。


 だから、振られたのだとわかった後は体中の水分を捻り出さんばかりの勢いで、涙を流した。パンクバンドもびっくりな大音量で、声を上げて泣いた。


 好きだったのだ。本当に。


 

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