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新たな明日

作者: runa
掲載日:2026/04/01

人はなぜ考え、感じ、当たり前だと思う世界の中で生きるのか。当たり前とは一体なんなのか。時にそれは縛りとなる。ねじれた心を持つ一人の人間が少しの変化でスッと心が軽くなる話です。

 私は無益なことが嫌いだ。その場限り上辺の会話、電車が来るまで待つホームでの数分、用を足している時の無の時間。

 その中で一番大嫌いなのが時間外労働だ。具体的には、さあ仕事を始める準備をしますよの給料が発生する前の数分間だ。あれほど無価値だなと実感する時間はない。

 ちなみに私はスーパーでレジ打ちをしている。バイト先でまず制服のエプロンを着て、名札をつけ、決められた勤務時間になるまでは時間を刻む、あの謎の機械の前で数分待つ。あの数分が大嫌いなのだ。バイト先に着いた瞬間から給料が発生すればいいのにと毎日思う程憂鬱で大嫌いなあの時間。金が発生しないにも関わらず、その場に留まり少し動かないといけないあの時間。実に無益で無駄な時間。

 出勤してるのにお金が発生しないのはだめだろと言いたいところだが私にそれをいう勇気があったなら、始めからこんなことでうじうじ考えてなどいないだろう。

 周りはどう思っているのだろう。みんな店長に言っているのか…?

 私は金と時間に寛大になれないケチなのだ。そして、気弱だ。

 何かに執着するとその何かに囚われることがある。私の場合は、金と時間だ。

 なぜなら、徒歩での移動は時間短縮の為、あの人を抜かすまで歩かないと標的を定めて、日頃から競歩か群衆をかき分けて人の目なんか気にせず走っているし、歯を磨きながらスクワットやストレッチをしている。たまに歯磨きに集中しすぎて転びそうになると、何をそんなに生き急いでいるのかと自分でもこの無駄を無くそうとする性格に呆れることもある。

 しかし同時にこの厄介な執着がこじれて化けた性格に助けられることもあるのだ。例えば、自分が設定した時間以内に物事を達成する快感と無駄を徹底的に省いて行動することで得られるお得感。

 しかし何故私はこんなにも生き急いでしまうのだろう。何かに追われているかのように無益を嫌うが故に囚われて焦って。私もそんなにバカじゃ無い。時に深く考える事もある。


ゆっくり動いてみたらどうなるのだろう…と。全く想像がつかない。少し恐怖すら感じる。私の世界はどう変化するのだろう。


 朝シャワーを浴びている時に考えついた。私はせっかちのケチなので明日から実行しようではない。今からだ。風呂から出た私はいつもは大雑把に拭いていた体を私はゆっくり拭いてみた。感想は普通に時間をかけすぎて寒かった。せっかく温まった体が湯冷めした。私は一旦計画を忘れたふりをして素早く着替え、髪を乾かし、スキンケアとメイクをして家を出た。

 いつもは駅まで走っているが時間を気にせず少し歩いてみることも出来るのかと天才的な閃きが私に問いかけてきたので実行した。さっきは上手くいかず少しシュンとしたが走ろうと思えばいつでも走れるのだと自分の気持ちを立て直してなんとなくゆっくり周りを見てみた。

 すると普段は気にしていなかった、というか前しか見ていなかった私は今まで気づかなかったことに気づいた。朝楽しそうに歩きながら話す女子高生、庭の掃き掃除をするお爺さん、パンをくわえて走るサラリーマン、朝散歩をするおばあさん、わらわらとひよこのように歩く小学生と幼稚園児、草木の揺れる音、落ちてくる枯れ葉、遠くで歌う鳥の声、夜の影を残しながらも朝を少しずつ教えてくれるぼんやりした太陽の光。

 最初は時間を気にしていたことも関係しているのだろうが、初めての事でなんだか落ち着かず、恐怖すら感じていたはずなのに、穏やかに流れる空間が、人々の存在が、私の心を気づかせた。私は時間に執着し同時に囚われていた。いつからかどこか余裕がなく周りをみる余裕すら薄れていたのだ。どこか孤独で私は私の中の世界でしか生きていなかったことを知った。

 人とは不思議なもので頭よりも先に微々の異変に心が気づき、頭に少しやってみようよと伝達してそれが上手く叶った時に自分の心、つまりねじれた根本にたどり着く。

 何気ないことに当たり前だと思っている日常や心持ちは時に己を縛る鎖となる。しかし、案外別の角度から見たら鎖ではなくゆるく結んだ縄だったなんてことに気づいて、なんだ意外と簡単にほどけるもんだな、なんて呆気なく解決することもある。

 私はまだ無益だなんだと騒いでしまうこともあるけれど、昨日までの自分には見えなかった景色を知って、たまにはゆっくりも悪くないと心がスッと軽くなった。


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