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初級魔法だけ使えなかった大魔法使い ―人類に嫌われた最強の魔法使いは、何がために魔族と戦うか―  作者: もかの


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第9話 無詠唱魔法同士の戦い

 まず第一に、クラレスは右腕で抱きかかえるルインの口を左手で塞ぐ。


「んーー!? んっ、んーーっ!!」


「黙れ。気づかれたら面倒だ」


 宙に浮くクラレスは周りを魔力の膜で囲い、二人の気配ごと空間を遮断した。

 その後空気の塊を足元に発生させ、浮遊魔法を解きルインからも手を離す。


「あ、あれ……落ちない……?」


「魔法で足場作っただけだ。あんまはしゃぐと落っこちるぞ」


「は、はしゃぎませんっ! 子供じゃないんですっ」


 未だに子供じゃないと言い張るルインを無視しつつ、真下で侵攻を続ける魔族たちの様子をクラレスは鋭い目線で見つめる。

 潜入だとかスパイだとか、そんなものではなく軍事行動と言うのが正しいように思えた。というのも、百は超えると思わしき魔族の大群とその先頭を往く一際存在感のある魔族がいての判断であった。


 その上――


「それで、クラレスさんは何を見つけたというのですか?」


 魔法をかじっているルインにすら、その存在すらも悟らせないほどの認識阻害魔法。並大抵の魔族には到底扱えない。


「下を見てみろ」


「下? 別にただの草原が広がっているだけですが……あ、もしかして私に綺麗な景色を見せてあげようっていう計らい!? やだもうクラレスさんってばロマンチストなんだから――」


「そこに四天王がいるぞ」


「しし四天王!?」


 演技ではないかと疑ってしまうほど良い反応を示すルイン。

 これが素の反応であることはクラレスが一番よく知っているのだが、いつ空気の足場から落ちないかと心配してしまうのでやめてほしいと思ってしまった。


 四天王というのは魔王直属の配下である四体の魔族のことを指す。

 魔族ですら通常の魔物よりも数段格上なのだが、四天王はその遥か先をゆく並外れた強さを持った存在だ。

 各国の最強の冒険者たちが何十人も協力して応戦し、やっと一体の四天王を追い払うことができるかどうか。それすらも怪しい。


「四天王に私を会わせてどうするつもりなんですかっ!」


「ん? 別に会うのはお前じゃないぞ?」


「え?」


「言っただろ。『せっかく』だって」


 クラレスはそれだけ言って空気の足場から降りる。


「初級魔法が使えない俺の力をちょっとだけ見せてやるって言ってんだ」


 地上に向かいながらクラレスは指を鳴らし、妨害の結界を展開する。

 これにより魔族の大群たちにかけられた認識阻害魔法が剥がされ、その姿がルインにも見えるようなった。


 先頭を歩く魔族は慌てることなく右手をあげ進軍を止める。

 その前方にクラレスはありのままの姿で着地した。


「……ケケ。よりにもよってあなたですカ」


 奇抜な格好をした道化師であった。

 顔面には真っ白の仮面がつけられており、目と口は黒で怪しく吊り上げられるように描かれている。


 従魔の四天王、ペシャワール。

 クラレスにとって二度目の遭遇であった。


「久しいなペシャワール。懲りもせずにまた人類を攻めるつもりか?」


「いぃーえいえ、とんでもなァーイ! 十分に懲りましたヨ。だって、あなたがめちゃくちゃに強いんですからネ!」


「ふむ。俺のことしか記憶に残っていないのか? 俺以外にもお前を殺すに値する奴らは山程いると思うのだがな」


「ケケ、それはありえませんネ! あの人魔対戦であなた以外が一体何をしたというのですカ? ワタシどころか他の四天王の記憶にすら残っていませんヨ」


 クラレスはチラリとルインの方を向く。

 何がなんだか分からないといった様子のルインが若干見え、わずかに安堵する。


 ――ったく、人魔対戦なんて()()()()()のことを話に出すなよ。


「まぁいいやその話は。それで、今回はそんな悪さをしようってんだ?」


「魔王サマの世界を作り上げることを『悪さ』と言われるのはいささか尺ではありますがァ……人類を攻めるという点は間違いないですヨ?」


「十分懲りたんじゃなかったのか?」


「あ・な・た・の・強・さ・に・は! 十分凝りたって話ですヨ! 人類に懲りる理由がどこにあるんですカ!」


「はぁ……なんも分かっちゃいねえけど、とりあえず殺し合えばいいだけの話だろ」


「ヒイイぃぃぃ!! 物騒、ブッソウですヨ! 勝てない相手に誰が挑むというのですカ」


 ペシャワールは煙幕を発動し己の身を隠し逃走を図る。

 即座に風魔法で視界を晴らすと、ペシャワールはまだそこにいたままだった。


「……チッ」


「残念だが、俺の妨害結界の中じゃ空間転移魔法は使えねえぜ?」


「どうやら殺り合わなければいけないようですネェ」


 早々に結論付けたペシャワール。

 そこから行動に移すまでは早かった。


 右腕を前に伸ばすとクラレスがいた地面ごと抉り抜いて宙に浮かせ、遥か遠くまで吹き飛ばす。

 しかしクラレスが途中でダンッと強く地面を踏むと土の塊が一斉に粉砕する。

 宙に浮いたまま散らばった土も空中で停止させ、一気にペシャワールに向かって放出する。


 目前で、指の間に挟んだいくつかの白い玉を地面に投げ爆発を起こし、猛スピードで飛来した土をずべて弾き落とす。

 爆発で両者の視界が一気に悪くなった瞬間、ペシャワールはクラレスとの距離を一秒にも満たない速さで詰めた。


「近距離、苦手なんでしたよネぇ?」


 いつの間に持っていたのか、右手で掴むレイピアをまっすぐクラレスに向かって突き出す。


「……ふむ。そういうセリフは俺の近距離を奪ってから言うべきなのではないか?」


 しかしいつの間にかペシャワールの背後に回っていたクラレスは、その頭を右手でがしっと掴む。


「空間魔法。俺だって使えるんだもんなぁ」


 ゼロ距離。

 クラレスは重力増強魔法を頭上からお見舞いした。


 一瞬で地面を数十メートル沈降させた後、もうそこにペシャワールはいない事に気がついたクラレスは魔法の放出をやめる。


「――……ケケ。さすがにお強いですネ。しかしこの場はワタシの勝ちです。またお会いしましょう」


 気づけばクラレスの結界外にまで移動させられていた。

 ペシャワールはそのまま、臣下を連れてどこかへテレポートしていった。


 索敵魔法を使うとまたすぐに居場所を特定することに成功するが、今回は討伐が狙いではないので追いかけることはしなかった。


 魔族が去ったのを確認してルインのために発動していた魔法をすべて解除する。

 落下してくるルインを風魔法でキャッチして地面に座らせる。


「無詠唱魔法での戦いというのはこういうことだ。ああいう相手には手札を一つ見せることだけが命取りになってしまう。だから俺は無詠唱魔法を普段使いしてるだけだ。慣れるまでは詠唱ありで勉強しておけ」


「そ、それを見せるためだけに四天王と戦ったのですか……?」


「ん? そうだが」


 四天王には立ち向かうな。

 幼子でも分かる当たり前の事実。

 それを──教育というだけで理由で、たった一人で戦ったという現状に、ルイン派ただ呆れるしかなかった。


 しかしルインにとって気になるのは、戦闘前に二人が話していたこと。


「分かりました。まずはクラレスさんに従ってみることにしますっ」


 クラレスの真実を知るため、魔力の壁を破れる力を手に入れるべく密かに特訓を積むことを決意する。


「ところで……だな」


「はい?」


「俺の魔法、変だったか?」


 ルインが「変な魔法」と言ったことを少し引きずっていたクラレスは照れながらもそう聞いてくる。

 どこまでも規格外で、そしてどこまでも人間くさいクラレス。


「とってもかっこよかった、ですよ」


「……そうか」


 ルインはそんなクラレスが大好きであることには間違いなかった。

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