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初級魔法だけ使えなかった大魔法使い ―人類に嫌われた最強の魔法使いは、何がために魔族と戦うか―  作者: もかの


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第5話 脱獄

 何が起こったのか説明してくれとうるさいルインに、クラレスは分かりやすく大きなため息をついて話し始める。


「なんで俺たちが脱獄しなければいけないか、についてだが……」


「そんなことどうでもいいです! 鉄格子を通り抜けたことと、衛兵さんを……その、殺しちゃったことと、鉄格子を溶かしたことですよっ」


「最初あんなに脱獄嫌がってたじゃん……」


 クラレスなりにルインの意図を汲んだつもりだったが、それではないと叫ばれてしまい本気で悲しくなってしまう。


「んじゃ、まずは鉄格子についてだが、通り抜けるのも溶かすのも原理はどっちも同じだ。この金属は魔法にめっぽう強い代わりに、ただの炎の魔力にはめちゃくちゃ弱い。だから、全身に炎の魔力をうっすら纏わせたら通り抜けられるし、さらに大量の炎の魔力を使ったら溶かすこともできますよってこと」


 なんでもないように話すクラレス。

 まだ十五歳のルインでも、これまでの人類の魔法史を翻すような事を言っているのは分かる。


 だがルインはもう、この現実離れした空間が大好きだった。

 もっとクラレスの話を聞きたかった。

 これからもずっと、クラレスが何をしでかしてくれるのか、見届けていたかった。


「じゃあさ、じゃあさ、衛兵さんはどうやったの?」


 だからルインは、いつもの家での調子で年相応の自分をさらけ出すことに、何も躊躇することはなかった。


「あっ! す、すみません……つい」


「気にすんな。話したいように話せ。お前が自分を出せるようになるのが、お前の望みなんだろ」


「……ふふ、クラレスさんって不器用ですね」


「喧嘩売ってんのか」


 なんでもないですよっ、と機嫌がよくなるルイン。

 これが「女心はよく分からん」と言うやつなのか、とクラレスは頭を抱えながらも、衛兵に使ったトリックの説明をすることにした。


「殺してねえよ、動きを止めただけだ。俺の魔力を少しだけあいつらに分けたんだ。人間、本来自分が持てる魔力総量を超えたら、その超過した分を放出しないと肉体が崩壊する。それを利用して意図的に魔力量を増やすことで、魔力総量がまた安定するまで動けなくなるってこと」


「そ、そんなのあったら魔族にも余裕で勝てるじゃないですか……っ! 今度私にも教えてください」


「お前には無理だ。あと、魔族は外部の魔力を魔石──心臓部分に吸収して大きくしていくんだよ。魔石がデカい奴ほと強くなるから、まぁ、相手を強化させるだけだな」


「じゃあ何の意味もないじゃないですか!?」


 クラレスは目を見開く。

 しかし次の瞬間には微笑みへと変わっていた。


「ははっ、たしかにな」


「なんで笑うんですか」


「いや、お前はそのままでいてくれと思っただけだ」


「はぁ……」


 人間と人間が争うことなどあり得ない。

 まるでそれを信じて疑わないようなルインに、クラレスはまた一つ心を開いた。

 そして、自分を出したら怒られたと言っていたが、良い教育を受けてきたんだろうなと少し関心する。


 その後しばらく走り続けるも、衛兵には遭遇すること無く順調に進めた。

 どうやら閉じ込められていたのは王城の地下牢だったようで、何回も階段を登り続けると地上に出てきた。


 当然、衛兵にまったく遭遇しなかったのはクラレスが常に索敵魔法を使っていたからであるが、そんなことを知らないルインは「脱獄って簡単なんですねぇ……」と呑気なことを呟く。

 クラレスはこの日初めて、間違った経験をさせてしまったと後悔する。


「さ、早くここ出ましょ! 脱獄がバレたらまた捕まってしまいますよ!」


「あー……ルインは先に行っててくれ」


「へ? クラレスさんはどうするんですか?」


「俺はちょっと用があってな。明日にはしようと思ってたんだけど、せっかく王城に合法的に入れたんだから、今日の内にやっておくだけだ」


「合法的ではまったくないと思うんですが……それなら私もついていきます!」


「ダメだ」


「なんでですか。ついていくだけです。邪魔もしません!」


 クラレスに振り回される旅がすっかりお気に入りになってしまったルイン。

 しかしクラレスは、いつになく真剣な表情になると、


「邪魔とかの話じゃなくて――これ以上はもといた生活には戻れなくなるかもしれないぞ?」


 これは冗談ではない。そう言わんばかりの声色でルインに告げる。

 ただならぬ雰囲気を放つクラレスに、ルインもその意思を察するが、


「――……私は家出してきたんです。新しい価値観、新しい世界。もといた生活から抜け出そうと思って……そのくらいの覚悟なんです。ですから、最後まであなたのそばにいさせてください」


 ルインの意思の硬さは、それ以上のものであった。

 十五歳とは思えないほど覚悟を決めているルインの表情に、クラレスは「もう何言っても無駄か……」と小さくため息をつき、王城へと入っていく。


「なら、お前も来い。王に会いに行くぞ」


「はいっ! …………って、王?」


 クラレスの目的の人物――アスティール王国の国王、サフェル・アスティールへ会いに行くべく、二人は王城へと入っていった。


 その道中はおそろしく何もなかった。


 クラレスの認識阻害魔法は、やはり誰にも存在が認識されなくなる。

 すれ違うメイド、執事、衛兵、さらには王国騎士団や宮廷魔法使いにも気づかれない。

 また、地下で衛兵二人の動きを封じたことで、王城内部にクラレスとルインが脱走していることはまだ伝わっていないようであった。


 王城には、たとえ貴族であってもなかなか入る機会はない。

 そのため王城内部の作りは、さすがのクラレスといえど知らないはずなのに、クラレスはまるで王が今どこにいるのか知っているように、堂々と歩いていく。


「く、クラレスさん? ほんとにこっちで合っているのですか?」


「知らん」


「知らん!?」


「今解析中なんだ黙ってろ」


「だって自信満々に歩くからぁ……!」


 ルインの姿は誰にも見えないとはいえ、ルインから衛兵たちの姿は見えるのだから気が気でなかった。

 邪魔しないという話はなんだったのだろうか?


「……ん。王城解析完了。そこにいたのか王サマは」


「いつも思うんですけど、それも魔力なんですか?」


「もちろん」


「なんで世界で唯一魔力を扱える人が入国禁止令出されてるんですか……『人間じゃない』って、人間じゃないくらい強いの間違いなんじゃないですか?」


「唯一魔力が使えるから、入国禁止令出されてるの」


「はぁ……」


 意味がまったく分からないルイン。

 だが、クラレスはこれ以上何かを語ることはなく王のもとを目指して歩き出した。

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