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初級魔法だけ使えなかった大魔法使い ―人類に嫌われた最強の魔法使いは、何がために魔族と戦うか―  作者: もかの


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第4話 自分を出せたか?

「うっ……ぐす……」


 同じ牢屋に放り込まれたクラレスとルイン。

 クラレスに何か吹き込まれて暴れる可能性があるということで、別々の牢屋に入れる方が危険だと判断されたのだ。

 牢の前では二人の衛兵が見張っている。


 牢屋の石で作られた地面や鉄格子をぺたぺたと触るクラレスの後ろで、ルインは体操座りをして顔をうずめながら泣いていた。


「泣くなって」


「だ、誰のせいだと思ってるんですか……っ!」


 この状況でも、クラレスはルインに寄り添うこと無く、責任のない言葉を棒読みで述べると、ルインはかすれた声で怒ってくる。

 その後、しばらく牢屋の中をぺたぺたと触り続けたクラレスは、部屋の隅で泣いていたルインの隣に腰を下ろした。


「……なんですか」


 散々クラレスに振り回されたあげく、牢屋にまで入れられたルインは、拒絶するように強く言い放つ。

 家出する前は誰からも愛されながら生活していたのだから、犯罪者のように牢屋に入れられている今の状況を飲み込むことができないのだろう。

 実際、ルインは何もしていないのだから。


「なんでもない。けど、お前はなんでもなくないだろ」


「え……?」


 また何か心無いことを言われるのだと思っていたルインは、想定していなかったその言葉に困惑して、顔を上げた。

 隣を見ると、クラレスは牢屋の入口をまっすぐ見つめていた。


「言いたいこと、たくさんあるんだろ。全部言ってみろ。俺は遮らないから」


 つい先程までとは全く異なる雰囲気のクラレス。

 だというのにいつもと変わらない冷静な態度に腹が立って、ルインも言葉を吐き出してしまう。


「……そもそも、なんで私を王国に連れてきたんですか。王国から出てきたのに、なんで戻そうとしたんですか。クラレスさん、自分のことを人じゃないって言ってたけど、それでも普通に考えれば王国には戻りたくないでしょう」


 ルインはクラレスの言葉を受けて少し考えてみると、出会ってまだ一日も経っていないのに言いたいことがたくさん溢れ出してきた。

 情の欠片もない行動や言葉。助けようとしたのかしてないのか、改めて考えてみればそれすらも分からない。

 どれもこれも、クラレスを責めるような言葉しか溢れてこない。


「……でも」


 ――そう思っていたのだが。


「私、歩けそうもない森の中を突っ切ることなんて人生で初めてでした。昨日森を一人で歩き続けたことですら怖くて仕方なかったのに、クラレスさん私を待ってくれないから本当に死んじゃうかと思いました。でも……あんなに自由に体を動かすのいつぶりだったんでしょうか。怖くて、怖くて怖くて怖くて仕方なくて……それでも、楽しかった。楽しいと感じてました」


 大森林を抜けて。

 スリにあって。

 魔道具店に行って。

 衛兵に捕まって牢屋に入れられて。


 今まで経験したことがないスリルだらけの出来事の連続だった今日が、新鮮で刺激的で――どうしようもなく、楽しかった。


(あ……)


 そこまで思い出して、ルインは気付いた。

 責めたい気持ちよりも、楽しかった思い出の方が何倍もデカいことに。

 怒りしかないと思っていたクラレスに、感謝の気持ちが湧いていることに。


「自分を出せたか?」


 クラレスは隣を見る。

 初めてルインと目があった。



『なんというか……親の言いなりになってるのが嫌だったんですけど、自分を出そうとしたらきつく怒られてしまって』

『あるあるだな』

『そうかもしれません。でも、私にはそれがきつかったんです』



 ――楽しかった、怖かったよりも、心から自分を楽しめたことに、ルインは気付いた。


「……っ! はいっ!」


 ルインの太陽のような表情に流れる雫に、もはや怒りの念は込められていなかった。




「さて、脱獄するか」


「今なんて言いました?」


「さて、脱獄するか」


「なんで同じこと言うんですかっ」


 クラレスの目的が伝わり、ルインが泣き止んだところでクラレスは本題に入る。

 突然物騒なことを言いだしたクラレスに、ルインは半ギレで言い返した。


「当たり前のことだろ。牢屋で一生を終えるなんて嫌だわ」


「当たり前じゃないし、一生は終えないですよ……っ」


「ったく、うるさいヤツだ」


 今日の朝とは打って変わって反抗的になったものだ、とクラレスはため息をつく。

 まだガミガミ言ってくるルインに、クラレスは一つ訂正を入れておくことにした。


「一生なのは確実だぞ?」


「え、え……?」


「言っただろ……俺は人間じゃないって。殺人鬼を牢屋から出して、また民間人を虐殺したら国のメンツが立たないだろ? 俺はそういう人間なの」


「いい加減何したか教えて下さいよ……って、(こ、この会話衛兵の皆さんに聞こえてるんじゃないですか……?)」


 後半からクラレスの耳に口を寄せ囁くように話すルイン。

 牢屋の中は広くない。くつろぐためのものではないのだから当然だが、今二人がいる部屋の隅から衛兵たちまでも一メートル程度の距離しかない。

 今のルインの声量でも聞こえるくらいの距離だ。


「安心しろ」


「(わわっ……声でかいですって……!)」


 しかしクラレスは一切声量を抑えること無く話す。


「お前じゃないんだから、俺がそんなヘマするわけないだろ。あいつらと俺達の間に魔力で壁を作ってんの。あいつらには何も聞こえてねえよ。あと、さっき探した感じ設置型魔法もなかったから認識阻害も使ってる。あの衛兵レベルじゃ、俺たちが何してるかなんて分かんねえ」


 魔力とは、もはや空想に近しいものだとされている。

 実際に存在しているもの、というよりは想像によって魔力という空想を仮想に、仮想を現実に持ってきて、魔法という現象に置き換えている……といったように。


 だから、そもそもの話、魔力として扱う事自体が生命体にとって不可能な技術であり、ましてや現実世界に影響するほどの効果を持った魔力にするなんて常軌を逸しているとしか言えない。


 しかし、ルインは既に何度も『常軌を逸している』クラレスの技を見てきた。

 王国に来る道中での瞬間移動、カールの言葉による真実。

 これまでの常識を覆すクラレスの言葉など、受け入れるに容易かった。


「クラレスさん、魔道具なしでも認識阻害使えたんですね……」


「だから言っているだろう……俺は大魔法使いだと。まぁ代わりに……」


「な――ど、どこに行った!?」


 クラレスは言葉を続けようとするも、物音がしなくなった牢屋を振り返った衛兵が声を荒げて叫んだことにより遮られてしまう。


「ちょーっと効果が強すぎて、存在すら観測されなくなってしまうんだけども」


「大問題じゃないですか!! 何が『俺たちが何してるかなんて分かんねぇ』ですか! その俺たちが認識されなかったら意味ないんですよっ!」


 一度落ち着いたはずのルインは、クラレスの行動にまた怒りをぶつけることになった。

 そうこうしている内にも、衛兵たちの気は収まることを知らず、ついには応援を呼びに走り出してしまった。


「ど、どうするんですかっ! 脱獄どころじゃないですよ!」


「いちいち騒ぐな……この程度のトラブルはトラブルじゃない」


「トラブルではあったんですか……実は作戦とかじゃないんですね……」


「お前は俺に何を求めてるんだ」


「私に素晴らしい世界を見せてくれた、英雄みたいなかっこよさです」


「それは本物の英雄に頼んでくれ」


 よっこいしょ、と青年とは思えないセリフを言いながらクラレスは立ち上がると、おもむろに牢屋の出口の方へと歩いていく。

 当然、扉には厳重なロックがつけられており、さらに魔法無効化の術式まで付与されているというのが衛兵の話だ。


 出口に近づいたって何にもならないのに、とルインは不思議そうにクラレスの行動を眺めていると――鉄格子の前で立ち止まること無くぶつかりに行った。


「クラレスさん!?」


 実はまったく冷静じゃなかったのかとルインは叫ぶが、クラレスは鉄格子にめり込みながら、貫通しながらぶつかることなく牢屋から出た。

 そして、まだ一人牢屋の前であたふたとしている衛兵の肩に触れると、衛兵はまるで時間が止まったように動かなくなった。


 続いて、スリを捕まえた時と同じ要領でもう一人の衛兵を右手で掴み、これまた停止させた。


 口をポカンと開けているルインの前でクラレスは牢屋に触れると、一瞬にして鉄格子が溶けていった。


「さ、行くぞ」


「いろいろと説明が足りてませんよっ!?」


「詮索はなしだ」


「そろそろ私には教えて下さいよぉ~……」


 ルインを待たずに歩き出すクラレス。

 気になることしかない状況を飲み込むことができないが、とりあえずは走ってクラレスの隣に追いついた。

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