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初級魔法だけ使えなかった大魔法使い ―人類に嫌われた最強の魔法使いは、何がために魔族と戦うか―  作者: もかの


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第15話 詠唱

 模擬戦終わり、ルインはそのままクラレスに連れられ王国に転移してきた。

 前回の王国訪問から一週間。カールとの約束の日だ。


「できたか?」


「もっと俺を労ってくれてもいいんだぜ……こっちだ」


 魔道具店を訪れると、眠そうにしているカールが形だけ店番をしていた。

 クラレスの声に視線を上げ、多少愚痴を言いながら招く。店の入口に掛かる看板を裏返して『Closed』にすることも忘れない。


 奥に進むと、そこはカールの作業場であった。

 材料や工具が乱雑に散らかる中、机の上には十二個の小型円盤が綺麗に並べられていた。技工士であるカールが道具のことまで考えられないほど、今回の制作が困難を極めたことが受け取れる。


「これが……」


「空間魔法を付与できるかは分からん。ただ、最高の魔石に俺の全力をぶつけたことだけは間違い代物たちだ」


 僅かに生えた顎髭を撫でながらカールは断言する。

 短髪だから気づかなかったが、髪も普段よりボサボサであった。ずっと作業していたのだろうか。


「く、空間魔法を設置型にしようとしているのですか!?」


 二人が話を進める中、いつも事情を知らないルインは驚愕する。

 さしものルインも、それがどれほど常識はずれのことであるかすぐに分かった。


「お、嬢ちゃん魔道具についても詳しくなりやがったのか。やっぱ若いもんいいなぁ飲み込みが早くて」


「あ、ありがとうございます……じゃなくって! そんなこと可能なんですか!?」


「それを今から試すところだ。どうだ、クラレス?」


「……素晴らしいな。あの魔石の価値を一切損なわずに完成形まで辿り着いてる。それに、アーマーも魔石を完全に包みこんでる。俺ですら魔石の魔力を感じられんとは……成長したな」


「へへ……魔法は全然成長しねえけど、魔道具は自覚するくらい上手くなってんだぜ!」


「ふむ。理論上は完璧だ……と、思う。壊してしまったら申し訳ない」


 クラレスの言葉にルインは目を見開く。魔法に対してこんなにも自信が無く、確証が持てないクラレスは初めて見たからだ。

 だがそれも頷ける。今からしようとしているのは、魔道具の世界を一変させるようなものなのだから。


「――……創造主よ。我の願いを聞き入れよ」


 またもルインは驚かされる。

 クラレスが唱え始めたのは、魔法詠唱の起句であったのだ。それも、現在一般的に使われている簡易版ではなく、古代より伝わる詠唱であった。

 知識としてルインは知っていたが、実際に誰かが唱えるのを聞くのはこれが初めてである。


「驚いたか?」


「え、えぇ……ちょっといろいろなことが起きすぎていて……」


「面白いことを教えてやろう。俺がこいつの詠唱を聞くのはこれが二回目だ」


 クラレスの魔力操作とイメージ力はとてつもないものだとルインは認識している。

 それでもやはり、原初の詠唱ありで扱う魔法に勝るものはないのだろう。


 クラレスが起句を唱えるだけで、空気中にある魔力が反応するように光り出す。クラレスの願いを聞き入れ、呼応するように浮遊しだした。


「我は主のお力を崇め、その奇跡を信じ、そして祈る」


 クラレスの身体は光り出し、そして漆黒の瞳が黄金色に染まった。

 莫大な量の魔力操作に空気が震え、散乱する道具がカタカタと音を出す。


「主よ、その御業を我に与えたまえ。我に奇跡を具現する権限を与えたまえ。そしてそのお力、今我がお借りいたしましょうぞ」


 一つの円盤に向かって突き出した右手に魔力が集まっていく。たいして大きくない光の球体には信じられないほどの魔力が込められていた。


 ――ここまでが、事前準備としての詠唱。

 現在使われている詠唱では、これよりも短い文量で魔法の起動までつながる。

 しかし、古代の詠唱ではまず自然世界から魔力という神の奇跡を借り、続く魔法発動の詠唱でその魔力に色を付ける。


 これから空間魔法の詠唱が始まるのだ。

 そう思うと興奮してきたルインだったが、


「値こう来、る子はまずぐふぃ。ノ、ストラ――……」


 クラレスの発する言葉を何一つ理解できなかった。

 発音から同じ人類の言葉であることは分かるし、何か意味のある言葉をつづっていることもそれとなく分かる。

 その上で分からない。脳が理解を拒んでいた。


 圧倒的な情報量。脳の処理が追いついていない感覚すらある。


(これが……空間魔法……? 人類到達不可能点の、異次元魔術……っ)


 一瞬で時間が過ぎ去り、クラレスの「終わったぞ」という声でルインははっとする。

 どうやらカールも同じ現象に陥っていたらしい。


「どうだ?」


 しかしカールは何事も無かったように聞く。

 一度同じ現象になってもう慣れているのか、職人として結果を知りたかったのかは定かではない。


「――成功なんてものじゃない。大成功だよカール。こりゃ……とんでもない安定性だな……っ」


 クラレスが持つ円盤は先程と何も変わっていないように思える。目の前にいるルインですら、まだ魔道具なのかどうか疑うほどであった。

 これに設置型魔道具として十分な魔力と空間魔法が込められているというのなら、それは魔法の世界を根本から覆してしまうような物となってしまう。


 クラレスを慕う道を選んだルインとして、こうして多数の禁忌を軽々と超えていくのが――楽しくて仕方なかった。


 その後、十二個すべての円盤に同様の儀式を行い、転移魔法が付与された設置型魔道具が完成した。

 常識を覆したこの魔道具ですら、従魔の四天王ペシャワールを葬るための準備に過ぎない。

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