第13話 最速準備
クラレスは悩んでいた。
先日カールと話して気付いたとある作戦、それを実行するにはいくつもの問題があったからだ。
その中でも最も重要な問題に関しては、クラレスだけではどうしようもない。
そういうわけで、クラレスは王城に侵入していた。
執務室で仕事をしているサフェル王を発見し、遠慮なく入室する。
「すまない。もう少し待って……ん、誰もいない? って、クラレスか」
「わり。タイミング悪かったか?」
「国王にタイミングが良い時など無いぞ」
扉を閉じ、魔法で施錠した後に認識阻害魔法を解除する。
奥で座るサフェル王は大量の書類仕事に追われていた。最近が特に忙しいのか、はたまたいつも忙しいのか、クラレスは考えたくもない。
「それで何の用だ?」
「しばらく国民を国から出さないように指示できない?」
「お前は何を言っているんだ?」
クラレスにとって一番都合が良いことから提案するも、否定されるどころか、正気を疑われてしまった。
「お前の頼みということならおそらく最善ということは分かる」
過去、クラレスの話に従った結果、自分の人生が良い方向に進んだという実体験を持っているサフェル。
ある程度の願いなら無理にでも聞き入れたいというサフェルの思いもあるが、それとこれは別であった。
「とはいえ、とりあえずなぜそこに至ったのか話してくれないか? わたしの願いが原因なのだろう?」
クラレスは、従魔の四天王ペシャワールが侵攻してきていることと、その対策について話した。
あまりに壮大で、妄想の範疇にとどまるような夢物語。
だというのにクラレスが言うと本当にやってのけそうだと、サフェルは呆れるように笑ってしまった。
「本当にそれしかないのか?」
「何か策があるなら教えてほしいくらいだ」
「……分かった。ならこうしよう。この国の入口に設置型魔法を使用することを許可する。ただし、国民から何か不平不満、いや、違和感の声が上がったなら、すぐにその作戦を中止、別の策を考えてくれ」
「そりゃないよぉ……」
とりあえず許可をもらえたことを喜ぶべきか、と思い直し、クラレスは感謝を伝えて王城の外に転移した。
厳しいことを言ったようにも思えるサフェル。
当然、クラレスの腕ならそんなことは確実に起こり得ないと知っていての言葉だった。
王国内部を歩き回り入国できる箇所をすべて調べる。
「……衛兵用のものも含めると六か」
設置型魔法というのは、普通に使う時よりも魔力消費量が何倍にも跳ね上がる。
というのも、一度設置したら長い期間ずっと維持できるための魔力や、何人引っかかっても魔法の効果が切れないようにしないといけないからだ。
また、今回クラレスがしようとしているのは、転移魔法の設置。
当たり前のように使っている空間魔法だが、魔力消費量はかなり大きい。クラレスの魔力量をもってしてできる芸当であった。
今回の作戦において、この設置魔法はゴール地点でもスタート地点でもなく、ただの準備。
「魔道具……いけるのか?」
クラレスが出した答えだった。
魔力消費量を抑えるには、魔道具を使うしか無い。
「よおカール」
続いてカールの魔道具店を訪れたクラレス。
「ん? どうしたんだ?」
「ちょっと無理な願いをしてもいいか?」
「……いやではあるんだが」
「ありがとう。その優しさに感謝する」
「許可してないぞ!」
「設置型転移魔法の魔道具を至急作ってくれないか? 六個でいい。俺も全面的に協力する」
「おいおいおい…………たしかに作った試しはまだ無いけど、作れそうと思ったこともないんだぞ。しかし、はは! お前がそこまで焦っているのも面白い。やれるだけやってやろう」
深くは語る必要もない信頼関係。
早速この日から共同生成が始まった。
あの戦闘以来、クラレスの広範囲索敵魔法からペシャワールの反応は消えていた。クラレスの魔法を超えるほど強力な妨害魔法によるものだと考えられる。
その魔法を使用した状態で転移魔法は使えないため、ペシャワールがアスティール王国に到達するまでのタイムリミットは一ヶ月ほどあると見込んでいる。
一ヶ月で、成功例のない設置型空間魔法を六個。
常識的に考えて到底不可能な話であるが、二人は楽しそうに笑いながら作業を開始した。
「お前の想定するものを作るためには、センサー型の設置魔法だな。これなら魔石も挿入しやすいしちょうどいい。クラレス、一番デカい魔石を十二個くれ」
カールの言葉に、クラレスは空間魔法で内容量が拡張されたバッグから、カールの期待に添えそうな魔石を探して取り出す。
「……おいおい、これ、何を倒したら落とすんだよ。まさか、神話級――」
「詮索はなしだ」
「……はいよ。うん、保有魔力量も十分。じゃ、また一週間後に来てくれ。空間魔法にも耐える最高の媒体を作り上げる」
「頼りになるなカール。頼んだ」
すっかり一流の魔道具師になったカールに残りの作業を頼み、クラレスは大森林の家に帰る。
そして――今回の作戦の主軸を担う魔法の開発を開始した。
創作魔法――上位魔族でも行えない、禁忌とも言える御業である。




