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初級魔法だけ使えなかった大魔法使い ―人類に嫌われた最強の魔法使いは、何がために魔族と戦うか―  作者: もかの


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第12話 ルインの魔法

「あーっ!! クラレスさん危なーい!!」


 突然聞こえてきたルインの声にクラレスが振り向くと、巨大な火の玉が眼前にまで迫っていた。

 魔法で打ち消すのは間に合わないと判断し、魔力をまとった右腕で火の玉を薙ぎ払う。


「今のは……」


「す、すみません! 急に発動したもので……!」


 ルインは二人のもとまで駆け寄って、腰を九十度に曲げて謝罪する。

 謝るなと言いつつ、クラレスは先程触れた魔法の感触を思い出す。明らかに初級魔法の魔力密度ではなかった。


「……はやいな」


「え?」


「おめでとうルイン。今のは立派な中級魔法だったぞ」


「そ、そうなの……ですか?」


 新しい魔法の発動に成功した時は、止まることを知らない歓喜と、信じられないほどの幸福感にあふれる。

 自覚が無いなど、あり得ないと思っていた。


「なんというか……炎の魔力という感覚が全然分かんなくて。だから、炎の魔力じゃなくて初級魔法ってイメージしてみたんです。それを使って中級魔法にしよう、みたいな……それが今のやつなので、どうしても中級魔法という認識がないのです」


 変な話ですよね、と笑うルイン。

 そして、話を聞いて真剣な表情になるクラレス。

 学院の教育による、無色の魔力を使った初級魔法。そしてクラレスの教えによる、炎の魔力を使った中級以上の魔法。

 さらに――もともとの、ルインの才能。


「一日で、というか数時間で中級魔法使えるようになったのか……?」


 信じられない、とカールは呟く。


「はは……おい、クラレス」


「分かってる」


 何の話か分からないルインは首を傾げる。

 そんな彼女にクラレスは自信を持って言い放つ。


「ルイン。俺はお前に本気で魔法を教えてやる。お前には――俺を超える才能があるんだと、たった今確信に至った」



 ◇ ◆ ◇



 俺の魔法にばかり頼るな、とクラレスに言われた二人は徒歩で王国に帰ってくる。


 あの後、わずか数時間でルイン流の中級魔法の扱いに慣れてしまった。

 恐ろしき才能に、カールだけでなくクラレスまでもが若干引いてしまうほどの速さである。


「嬢ちゃん」


「どうしました?」


「クラレスの野郎に、魔法についてなんか言われたか?」


「なんか…………あっ、そういえば、なんか急に私の身体を調べるって言い出して、変なことされたら、『適正まぁまぁあるな』って言われました!」


 ルインは下手な声真似をしながら思い出す。


「――……そうか。ま、魔法頑張れよ。お前には十分な才能がある。あのクラレスが負ける世界を見せてくれ」


 それは無理ですよ~! と反論するルインに、カールは手を振って別れる。

 カールの背中にルインはぺこっと小さく礼をして、自身も学院の寮に帰っていった。


 ……日が暮れ始めていたからであろう。

 ルインは、背後からつけられていたクラレスの存在に気づかなかった。




「一年Aクラス、ルイン・テレーゼです」


「……はい。生徒証明書確認しました」


「ありがとうございますっ」


 王立学院は複数名の宮廷魔術師が数年掛けて設置した魔法無効化防壁が存在する。

 今後の王国を支えていく王立学院。そんな場所に侵入者を許すわけには行かない。

 結界のように全体を囲っているわけではない。そんな大規模な魔法は魔族であっても不可能であろう。

 だからこそ、防壁である。隠密系統の魔法を使いながらの侵入だけは防止することで、あとは必ず監視魔法に引っかかる。限定的な魔法にすることで、人間でも使えるようにした。


 しかし。

 貴族の中には、自身の身分を隠して勉学に励みたい者もいる。平等な教育を受けたいからだ。

 そういったわけで、校門で学院証明書を提示すれば、その瞬間だけ職員が魔法無効化結界を解除してくれるという方針を取っている。


「ふんふーん」


「楽しそうだな」


「はいっ! 今日はすっごく……って、クラレスさん!?」


 学院の敷地内に入り、寮に向かって歩いていると、隣からしたよく知っている声に飛んで驚く。


「騒ぐな」


「むむ無理ですよ!? なんでここにいるんですか!?」


「ちょっとな」


「こういう時は詮索させてください!!」


「はっはっは」


「笑って誤魔化すなぁっ!」


 今日ルインがクラレスのもとを訪れていたように、今日は休日らしい。

 日も沈み、暗くなっているので外を歩く学生もほとんどいない。

 クラレスは認識阻害魔法をちょっとだけ弄った、任意の姿に変装できる魔法を使い、王立学院の制服を着た女子学生になる。


「ルインの部屋ってどこなんだ?」


「すぐそこにある三階建ての集合住宅の右上で……来る気ですか!?」


「え、うん」


「お、乙女の部屋ですよ……っっ!」


 ルインは顔を真っ赤に染めながら両手を勢いよく振る。

 別にクラレスに来てほしくない訳では無い。綺麗に整えてから、もっとかわいい部屋作りをしてから来てほしかったのだ。


「わたし、女の子だよ?」


「見た目だけじゃないですか!!!」


「まぁまぁ。部屋に入るわけじゃないから。それは嫌なことくらい俺にも分かるっての……」


 別に嫌ではない、ですけど……と小声で反論するが、クラレスには聞こえなかったようで聞き返すも、「なんでもないですっ!」と起こったように誤魔化されてしまう。


 ルインの部屋についたクラレスは、ルインから教科書を貸してもらう。

 たったの半年でルインが初級魔法を身に着けたという事実に、本人の才能以外にもなにかあるのでは、と踏んだわけだ。


 クラレスが真剣な眼差しで教科書を読む中、ルインは自分が持っている中で一番可愛いと思っている部屋着に急いで着替える。

 何歳も年上の男性に、特別な感情が湧くわけもないのに、そう思っているのに、この状況で一番可愛い自分でいられないのは許せなかった。


 ……だから。


 ルインが急いで玄関先に戻った時に、クラレスが教科書を丁寧に重ねてから帰っていることが許せなかった。


(クラレスさん……覚えてなさいよ……っ!!)

(ふむ……教科書は別に普通だったな……)

※補足情報

転移魔法を使い際、転移先の光景を鮮明にイメージする必要があります。

そのため、作中の理由で学院に来たことがなかったクラレスは、侵入する時はこっそり入っていきましたが、帰りは転移魔法で一瞬でした。

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